弐拾参・装職身歳
あっつあつのたこ焼きを食べまくり、お腹いっぱいになって私たちはホテルに引き上げた。
リックは熱いたこ焼きに火傷したのか、手先が赤くなっている。
「もしもし、ニコラ王太子ですか? 今のところは上手く行ってますよ。今は大阪の天王寺のホテルにいます。これから動物病院に行こうかと」
『そうか。お疲れさん。ゆっくり休んでけ。それにしても、“たこ焼き”という食べ物、かなり美味そうだったな。送って来てくれ』
「あ、はい。もうお送りいたしましたが」
そう、こんなこともあろうかと……私は早くニコラ王太子に王になってほしい。そして、そのニコラ王の側近となりたい!
『おぉ、本当だ。美味そうだ。早速頂くとしよう。……美味いな。もう一個ぐらい無いか、ルネライト、いや、エマ。……』
我慢できなくなったのか、電話中なのに私の目の前でたこ焼きを食べ始めた。ちょっと王太子様、ほっぺにソースが付いておりますよ。こういうのが可愛くてたまらないのだ。
『……ごちそうさまでした。じゃあまた。また何か美味いもん送ってくれ。もちろん、“あれ”も待ってるぞ』
「了解いたしました。私にお任せください。それではまた」
『頼むぞ』
ニコラ王太子の方から切ってくれた。
「んじゃぁ、私らも寝ますか」
ポシェットの中にいるユニコーンとカニに呼び掛けた。
リックはすでに寝ているが、ニカは何やらガサゴソとポシェットの中をいじっている。まだここを整理してくれるのだろうか。
「もう寝ていいよ、ニカ」
と言っても、器用にハサミを使って毛が飛び出ているところを切っているので、私はベットに飛び込んだ。
――翌朝。
八時に起床した私は着替えを済ませ、荷造りをして水を貰い、チェックアウトした。
一刻も早く十個くらいの映像を集めて帰国せねばという思いだ。
今のところ二日連続で集めている。
魔法を使った探索というのはやっぱり便利なのだ。
三日目の今日は、朝にお好み焼きを食べることにした。
この店では、自分で焼いて食べるらしい。
「あの、私お好み焼きって初めて焼くんですけど……」
「そうか。ほな教えたるわ」
やってきたのはクルクルパーマの眼鏡をかけたおばちゃんだった。
「具はここにあるから、これをお玉で鉄板に流して……肉置くやろ、それで……あ、もうええで。ほた、フライ返しでひっくり……あー、あかんあかん。ほら、もう一個行くで!!」
おばちゃん、結構テンポ早いです……私はどうにか食らいついている。二つの意味で、食らいついている。
ソースやマヨネーズという白いもの、青のりという緑色の何か、そして鰹節をほぼおおばちゃんが作ってくれたお好み焼きにかける。鰹節がユラユラと揺れている。まるで酔っ払ってるようだ。
「……うまっ!!」
これはもう言うことはない。私が作った物なのだ。
ささっと食べ終わり、私は二枚目を焼き始める。
「とりゃっ!」
今度はキレイにお好み焼きが裏返った。良い焼き色が肉についている。
「これは絶対に喜んでくれるよね……写真撮ってアップしとこ。魔術覚醒——荷送郵置!」
お好み焼きをおばちゃんに一言断ってから箱に入れ、私と火傷したユニコーンの手を添える。
ニコラ王太子——喜んでくれる、よね?
お腹が膨れたところで、コンビニに入って弁当を買っておく。
鶏竜田揚げ弁当というものをもらっておいた。デザートにロールケーキを購入しておいた。コンビニのスイーツ、結構いいじゃないか。オシャレで美味そうだ。
というわけで、私は地図を広げて歩き出す。
「ええっと、『牧島動物病院』か……」
地図の言うとおりに私は歩いていく。
と――。
「ありりりり」
確かに、牧島動物病院に着いたには着いた。電車がすぐ前に見えるところで、近くに焼鳥屋がある。
「牧島動物病院」
オレンジ色の明朝フォントのその文字を私は読み上げる。
それは別にいい。
ただ、不可解なのはこれではない。隣の空き地だった。
そこにはいくつかのハードルやフラフープを吊るしたものが置いてある。
「なに、これ」
そして、さらに不可解なものがあった。空き地の手前の立て札には何かが書いてあった。
それを私は魔法を使って翻訳してみてみると、こう書いてあるらしいことが分かった。
『旧牧島動物病院跡』
この空き地は元々の診療所だったのだろう。しかし、なぜわざわざすぐ隣に移転しているのだろうか。色々分からない。
まあ、どのみち動物病院に入らないと何もわかることはないのだ。
「魔術覚醒——装職身歳」
この魔法は自分の身分や職、年齢など、“ウソ”の装いを作ってくれる魔法だ。それにふさわしい容姿にしてくれたりもする。
今回は――就職難の二十歳の女子大生ということになった。動物病院の看護師を志望しているということにしておく。そのため、見た目は一気に変化した。
髪色は茶髪でショートカットの童顔な女子。
結構良いじゃないか。可愛らしい見た目だし。
「リック、しっかり隠れててよ」
ポシェットの中のユニコーンは小さくうなずいた。
「よし、じゃあ行きますか」
目の前の不可解な空き地から目をそらし、マンションの最下階にある動物病院の引き戸を開けた。
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