弐拾・脳知検索
島袋さんは、続ける。
「そこで、わしはブルーピースに出会った。それぞれ思うことがあって、自然を愛していて、行動を起こした。でも、中々上手く行かない。資金繰りも大変だ。それでも、自然を愛し、自然を守りたい。そんな思いのある人間が数十人ほど集まったのがこのブルーピースじゃ。そこで、わしは資金を得ることができた」
おお、やったじゃん!
「さらに、沖縄に深く関わりがある人間にもたくさん出会えた。最高、という一言で全てが語れるな」
島袋さんは、それから少しテンションを上げて、続きを話した。
「ところで、環境省と防衛省、国土交通省の三省でできている、ある会議がある。沖縄の基地を移転することが決まったが、そこでできた空き地をどうするかというものなのじゃ。環境省は、埋め立て地を干潟にしようという主張があり、防衛省は軍の練習場にしようじゃないか、と言った。国交省は中立じゃ。その会議に、専門家として何人かが招かれることになっていたのじゃが、その中にわしの名前があった。大臣らに意見を申し上げることができる立場。こんなに嬉しいことはない」
ええっと、環境省って何だろう。防衛省って? 国土交通省って……?
「魔術覚醒——脳知検索」
こっそり、魔法を使ってみる。実は、これは初めて使うのだが、小さな声で調べたいことを話すと、その答えが脳内で出てくる、というかなり不思議な魔法だ。
「環境省」
島袋さんの話を聞きながらも、こっそり呟いた。
すぐに脳内で反応があった。何か、ピンときた。
『日本の行政機関で、環境保全や整備、公害、さらに原子力政策を担当する』
「防衛省」
『日本の行政機関の一つ。自衛隊の運営や安保条約を担当する』
「国土交通省」
『日本の行政機関の一つ。国土の総合的かつ体系的な利用、開発及び保全、交通政策の推進、気象業務、海上の安全や治安の確保などを管轄とする』
と、脳内で相次ぎ反響がやってきた。
なるほど、そういうことなのか。って、よく考えたらすぐにわかる気がするが……まあ、いっか。
「おうい、聞いておるか?」
「あ、はい! でも、ちょっとメモの手が追いつかなかったんで、もう一回お願いできますか?」
「あ、ああ。それと、お主ぶつくさ何を言ってた?」
「え? ……いや、メモで書くのをついつい口に出しちゃって。ハハ」
「そうか」
そっけない返事だが、取り合えず上手く嘘を突き通せたようだ。
「さて、わしはそれに参加したわけじゃ。わしは、環境省の意見に賛成した。埋め立て地のコンクリートをぶっ壊し、土を敷いて、生き物を放し、干潟を作り、収益もできる。環境のモデルともなる。わしはそんなメリットを出した」
まあ、そうだよね。
「ただ、やはりコンクリートを壊す作業は相当な予算がかかる。それで防衛省と国土交通省から反対があった。そこは、ちゃんと調べておいた予算と、環境保全の大切さを改めて官僚に訴えた。本当に、ここで変えておいて、干潟で収益を得て、それを発展させて、留学生も来るだろう。さらに管理の人件費とかも少なくてもいいし。何より、環境を破壊し続けた場合は環境保護団体から反対を受けるだろう、軍の練習場を作れば人権団体とかから反対を受ける。安保条約でデモが起こったものと同じことが起こっていいのか、と……様々なことを訴えた」
官僚は金で良く動くということを、島袋さんはちゃんとわかっている。
「まあ、それでも防衛省も頑固でのぉ。大変だったが、最終的には環境省の勝ちとなった。——そこが、ここなのじゃ」
私は、しばらくその言葉が理解できなかった。
「ここって?」
「そう、ここじゃ。正確に言うと、ここから一キロほど先に行ったところ。そこに干潟があって、潮干狩りの客や、ブームらしい泥パックをやりに来る客などで、結構にぎわっておるようじゃ。夏は、自由研究で来る子供もいる。ここは、数年前までは軍の基地があったのじゃ。ここにも、ミサイルとかが置いてあるところだったらしい。その倉庫を再利用して、この研究所を作った。基地にあった様々なものがこの研究所に生かされておるのじゃ。いけすの網に、色々……」
「さすがは環境研究家ですね。再利用されているんですね。そうか、ここも数年前まではミサイルが入っている倉庫として使われてたんだ……なんか、すごいですね。前まで国を守りながら、平和を乱すもとになることもあり、費用もめっちゃ使う、軍の基地を海のため、地球のために再利用されているなんて……感銘を受けました!」
そこからも、色々な話を聞いた。
ブルーピースでの活動、実は一度参議院議員を務めたこと、自身のブログの反響のこと、沖縄の新聞でコラムを執筆していること……島袋さんの活動は多岐にわたる。
「本当に、島袋さんすごいです。あ、そうだ。写真どうですか?」
「ああ、え? 写真か? あ、そう、え、どうしようか……こんな老けた顔じゃが」
「良いじゃないですか。これが無いと雑誌でも使えないし」
「ああ……そうじゃな、ああ」
島袋さんは、渋々というかなんというか、まあ取りあえずは撮影を認めてくれた。私はスマホを取り出し、ニコッと白い歯を出している島袋さんを切り取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます