拾玖・背景溶込

 島袋さんは、そのまま続けた。

「それで、他の沖縄の地方政党とかの議員の九割は賛成じゃった。それで、与党の良政党、野党の共民党にも働きかけた。議席数が多いのは与党良政党。良政党の一部はわしの意見に賛成してくれたが、ほとんどはリゾートでガッポガッポを夢見ているのだろ。共民党は、何が何でも良政党を否定したいんじゃろな。それだけの理由で賛成された。これはいいのか悪いのか。これが今も続いているのだから不思議だな」

 これだから、政治家は嫌なんだ。

「本当にそうですよね。結局は自分のことばかりで、国の子となんも考えてないまま終わるのが政治家ですよね。いや、みんながみんなそうとは限りませんけど、でも大体はそうでしょう」

「そうなのじゃ!!!!」

 島袋さんは、ダーンと机を叩いた。


「それでだな、青春党、良政党、共民党の他の党はどうだったか。良政党と連立を組んでいる、公央党はほとんどが反対してきやがった。なら、国民第一組や、日本新政の会、社会民和党、立案民主党、TVTTと戦う党はどうか。野党のうち、国民第一組、日本新政の会、社会民和党、立案民主党は賛成してくれた。まあ、同じ野党である共民党が賛成だから賛成したまでのことじゃろうが」

 そうだろう、政治家はそういうものだ。ところで、TVTTと戦う党とは何だ。TVTTって何だ。


 島袋さんは、少し息を整えてから言った。

「だが、TVTTと戦う党はどうだったか。ひどいもんでな。テレビ局であるTVTTが、こういう環境活動には必ず目を付け、取材してくる。そして、国民が食いついてTVTTを支持するかもしれない。そのために、受信料を苦しんでいる人に払わせるわけにはいかない。これが正義だ、と反対してきおった。バカなやつじゃ……。TVTTを無くして、何になるという。TVTTのニュースに世話になっているわしのような人間も多くいるだろうに……」

 なるほど、TVTTはテレビ局なのか。島袋さんの話を聞くに、TVTTは受信料から番組を作っているが、その受信料が問題だということでできたのが、TVTTと戦う党ということなのだろう。

 それにしても、おかしすぎる。何でこんなことになるのだろう。

 TVTTがいい番組を作ることの何が問題なのだ。国民の言論の自由、表現の自由はどうなるのか。TVTTというテレビ局が無理やり、受信料を吸い上げているわけではないだろう、多分。

 島袋さんは、汚されている環境だけではなく、汚染されてゆく政治にも憂いているようだった。


「まあ、それでも一応は賛成多数となった。だが、反対派も半数とまではいかないが、かなり多くなってしまった。賛成派の党には知事に訴えてほしいと、最大野党の共民党の人や、その共民党と同盟を組んでいる野党にも呼び掛けた。野党組は、自分たちの権力のために、青春党と共に、知事に意見書を出した。が、そこに与党組とTVTT党も協力して意見書を出してきたため、結局野党組も知事の説得に諦めた。その野党組の中のある議員は、そのあとはリゾート建設を請け負う会社に賄賂を渡してもらっていたりしていたことで議員辞職させられたわけだから、酷いもんじゃ。なんも考えていない。こんな国で大丈夫なのだろうか……」

 島袋さんは、あの時のことを思い出しながら丁寧に語っていた。




 一度私はトイレに行きたいと言って、席を外した。

 トイレの場所を教えてもらうと、そこへ行き、ささっと用を足した。

 だが、私が席を外したのはそれだけが目的なのではない。

「リック!」

「ヴェフォーン」

 透明マントを付けていたリックが目の前に現れたのだ。

「ヴェフォーン、ヴィフォーン」

 あと一時間ほどで話が終わらないと、透明になる魔法の効果が切れてしまうというのだ。

「まあ、う~ん、そうだねぇ。じゃあ、こうしようか」

 リックに魔法のことを話すと、ちゃんと撮れているかとかそういう話をした。

 今のところ、島袋さんに鏡を向けていると、その話の当時の様子が鏡に映し出されているという。その内容は、あとで一気にドワーフ王国に送信することにした。

「じゃあ、行くよ。魔術覚醒——背景溶込、保留弾、透次発魔」

 私は、背景と一体化することができる魔法を、今の透明化の魔法が切れると、すぐに発動できるようにした。




 私は、再び席にかけ、話を聞き始めた。

「それでじゃな、わしはそこから途方に暮れてさまよった。町の人に話すことはしたが……。そこで、わしは決心した。上京するのじゃ。東京で、色んな人に話をすることにした。わしは、街頭でチラシを撒いた。それで、新聞に少しだけ紹介されたこともあった。だんだん、仲間も増えていった。そこに若者がいたのは嬉しいことじゃな。年老いた政治家とはやはり違う」

 それでも、島袋さんは中々上手く行かなかったという。

「少しずつ仲間は増えたが、本当に少しずつでな。たまに弟子入りを志願する人もいたのじゃが、でも大半は無視されておった。いやぁ、ほとんどの人に無視されるチラシ配りの人の気持ちがここでやっとわかった。それから、わしはチラシは必ずもらうようにしておるのじゃ」

 なるほど……。

 私も、チラシはちゃんと取って行かないとなぁと思った。最も、ほとんどこういう広告は、スマホに来るのだが。まあ、たまにチラシやビラ撒く人いるし。島袋さんのためにも、やらないと。

「そこで、じゃった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る