拾捌・養喰好味

 島袋さんの話はまだ続く、と思いきや、一度島袋さんは席を立った。

「いかん、そろそろガッキーに餌をやる時間じゃ。……やるか?」

 最初は、その言葉の意味が分からなかった。

「……やるか?」

「何を」

「水槽の前でアサリを持っているわしが言っていることを察せられんか?!」

「あ、ごめんなさい。アサリって何でですか?」

「ガッキーちゃんに餌をやるのじゃ!」

「え?! マジですか?! やらせてくれるんですか?! ぜひぜひ、やりたいです!!」

「お、おう。そこまで言うならいいが……」


 私は、アサリを手に取った。ただ、一つ問題があった。

「貝、どうやって開けばいいんですか?」

「バカ者! 貸してみぃ!」

 島袋さんは、水面でパン、パン、パンと三回手をたたいた。

 ガッキーちゃんはそれを合図に水面へ上がってきた。

「ほれ。たくさん食べろ」

 と、なんと島袋さんはガッキーちゃんにアサリを、貝殻ごとやったのだ。

「え? 嘘でしょ? ガッキーちゃん食べれないでしょ?!」

「もう少し勉強してきてから来てくれんかの……」

 島袋さんはなぜか呆れ果ててしまっているようだ。

「だって、かわいそうじゃないですか!」

 と、水槽の中から何か音が聞こえてくる。カリ、カリ、カリと。

「あぁっ!!」

 エマはビックリして水槽に張り付いてしまった。なんと、イシガキフグのガッキーちゃんは貝殻ごとアサリをバリボリと食べていた。潰された殻が無惨にも、水槽のそこへ落ちて行った。

「マジですか……」


「ガッキーちゃんはイシガキフグじゃ。フグの仲間にはくちばしのような丈夫な歯がある。その歯で、貝などをバリボリと食べているのじゃ。これは、大体のフグも自然界でしておる」

 島袋さんの説明を聞いて、そこからエサをやるときの注意とかを教えられた。

「はい、了解です! ……魔術覚醒、養喰好味」

「お? なんか言ったか?」

「いや、何も」

 私は、島袋さんにバレないように、こっそり魔法であるものを呼び出した。

 それは、ある粉だ。魔法の粉と言えば通じるのだろう。

 その粉をエマは手の中でアサリによく混ぜた。粉はしっかりとアサリに染み、形が無くなってゆく。


「それじゃあ、あげまーす」

 栄養たっぷりで、食いつきもよい魔法の粉を混ぜたアサリを、手からガッキーちゃんの口へ入れる。

 ――カリカリカリカリカリ

 ガッキーちゃんは普段よりも早く、アサリを食べ終えた。そして、もう一個もう一個、と水面へ上がって、口をパクパクさせる。


「はいはいはい」

 どんどんアサリをやって、あっという間に全部食らいつくしてしまった。

「おお、ガッキーちゃん今日はよく食べるの」

「私が好きだから私があげるとたくさん食べるんじゃないですか?」

「それはないじゃろ!」

 島袋さんは声を荒げ、それに私が笑う。つられて島袋さんも笑った。

 と、ガッキーちゃんが水を口からピューを吹き出した。ああ、可愛らしい。この映像でもう異世界中で異世界獣と人間が仲良くなれるのではないか、と思えるほどのかわいらしさである。ガッキーちゃん、もはや天使。




「さて、さっきの様子はちょっと動画に撮っておいたからの、YouTubeにあげておくから、楽しみにしておいてくれ」

「てえぇっ?! 動画撮られてたんですか?! 隠し撮りじゃないですか?!」

「はぁっ?! んなわけないじゃろが!」

 島袋さん、逆ギレ。いや、どう考えても隠し撮りでしょう。

「わしはさっき聞いたじゃないか? カメラ回すぞって。あんたは、はーい、って曖昧な返事しながら手の中でアサリをいじくっていたではないか!」

 そ、そうだったのか。なら……致し方なしか。


 島袋さんは再び話し始めた。

「さてと、わしはそれから、沖縄県知事の説得へ向かったのじゃ。そこまですれば、結構効果があるのではないかと思ってな。実際に、いくつかの市長には説明をしたし、この環境を誇りに思っているはずの知事なら、納得して、知事会にでも出してくれるはずだ、と思った。だがの、金城知事は全くダメだった」

 なぜなのだろう。沖縄の人々はみんなこの環境を守っていこうと思っているのではないのか? 実際、ここに来た時は環境保護団体がチラシ配ってたりして、環境保護に熱心だなぁと思ったのだ。

「そもそも、わしは新聞を読まないから分からなかったのだが、金城知事は沖縄の石垣島とかにリゾート地を作ろうとかそういう、開発に積極的なクズ男だった。それで、自分の開発に矛盾するわしの提案は早々に下げられた。環境を大事にして、キレイなサンゴとキレイな魚を守れば、沖縄県にもたくさんの人が来ると。だが、金城は、それなら普段と一緒だ、世界の人はもっと別の娯楽を求めている、と勝手に言い、面談を終了させられた。クズだったよ。まあ、その金城ももうこの世にはおらんが……」

「うわ、そりゃあ確かにクズ男ですね。亡くなった人に言うのも失礼ですが」

「うむ……」


「それから、わしは沖縄県議会の議員を説得することにしたのじゃ。沖縄県議員のうち、『青春党』という環境保護政策を掲げる党のものは、みんな賛成してくれた。その中の仲宗根青雲なかそねせいうんという男とは、今も深い付き合いで、政治の世界でわしの活動を働きかけてもらうのに助けてもらっておる」

 青春党か。全然環境保護に関係なさそうな政党の名前だが、そんなことを島袋さんに言うと、一体何を言われるか分からない。やめておこう。

「仲宗根さんですか。一回会ってみたいですね」

「会わせてやろうか? 電話するぞ?」

「あ、いや、良いです!」

 私はとっさに否定した。別に、ちょっと島袋さんを持ち上げるつもりで言ってみただけで、全然会う気などない。


 そもそも、私は政治家が嫌いだ。

 ドワーフ王国の王室はいいが、首相とかは度々酷いことをやらかす。議員に会ったことも何度かあるが、勝手に国がこうあるべきだとか話して、それをそこらの人間に賛同させ、自分の立場を高めることしか考えていないからだ。

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