拾肆・訊人補引

 私は、通話が終わり、リックをポケットに入れて、売店に行くことにした。取り合えず、朝ごはんを買いに。良いものがあれば、昼ご飯も一緒に買っていくつもりだった。

 そして、もう一つの目的は二コラ王太子のための食事を選ぶことだった。


 売店へ行ってみた。

 店名は“ぬちどぅたから”という。

「ぬちぬちだから……なんていうの、これ、どういう意味」

 不思議に思いながらも、私は店内に入った。


「はいたい!」

 はいたい……なんだそれ。はいさいなら分かるが。

「ヴェフ、ヴォジ、ヴィヴァー」

 なるほど? はいたいは女性の時のことなのだそうだ。

「はいたい!」

 私も返しておいた。


「おっ、あるじゃんあるじゃん。じゅうしい弁当って美味しそう。これにしよっ。リック何にする?」

「……」

 リックは、静かにと目線で訴えている。

「あ、ごめん。どれがいい?」

 小さな声で訊いた。

 リックは、こっそりポケットから飛び出て、小さな角で欲しいものをつついた。

「ソーミンタシヤーって、なんだ。白い麵がある」

「あはー、くぬ麺は、ソーミン。ソーミンは、素麺ぬこと」

 この店主のおばさん、かなり沖縄弁だ。観光客困ってるんじゃないか。


「じゃあ、くり、買います」

 くり、とは、これ、のことだ。

「分かった、ムルで三百二十三円です」

 むるは、全部で、ということだ。

 私は、少し焦った。

「魔術覚醒——当国銭作。千円」

 静かに唱えた。そして、手の中に千円札の感触があった。

 私は、おばさんに千円札を出し、会計を済ませ、外へ出た。

「また来てくぃみそーれー」

 ドアの手前で、おばさんの威勢のいい声が響き渡った。




 ホテルに帰り、しばらく寝た。起きると、八時前だった。

「ヤバっ! もうこんな時間! もうチェックアウトしないと」

 私は、リックを叩き起こす。

「ヴァフェー。……ヴァ?!」

 リックは何やら混乱しているが、私はササッと着替え、ササッと荷物の整理を済ませ、ササッと部屋を出た。

「ヴェ? ヴォーミンフヴァシア、ヴァ?」

 リックはソーミンタシャが食べられないことに不満を募らせている。だが、私は宙を浮く一匹のユニコーンを捕まえ、リュックサックの中へ放り込んだ。


 バスを使って、急いで港まで行く。

 那覇の港は驚くほどたくさんの船が並んでいた。九州や離島へ行く船はもちろん、韓国や中国、台湾の方面へ行く船も。

 とりあえずは、電光掲示板を見ることにしたが、

「えぇ、はぁ? 何? どれ? え? えぇ?」

 もちろん、日本語が読めないため、どの船、どの桟橋まで行くかもわからない。

「ヤァバイィ!」


 仕方なく、エマは周囲の人に聞くことにした。

 でも、ここは魔法の力を使おう。

「魔術覚醒——訊人補引」

 この魔法は、質問したら必ず相手が正解を教えてくれる魔法だ。空港のことを思い出すと、使ってしまう。

「あの、小畠客船の宮古号ってどこから出ますか?」

「……」

 訊ねたおじさんは電光掲示板を眺めた後、船を指さした。

「あれですか? あの船に乗れば宮古島に行けるんですね?」

 ブラシのような髭を生やしたおじさんは、こくりとゆっくりうなずいた。

「ありがとうございます!」

 私は、そのまま船の方へ駆けた。

『間もなく、小畠客船、宮古号が出発いたします。宮古号に乗船の方は……』

 そのアナウンスが終わる前に、どうにか船に乗り込むことができた。




 船の中で食事を終え、宮古島の地図を出し、虫眼鏡でありかを探る。

「あ、はや」

 そのところは、船着き場のすぐ近くにあるところだった。

 魚関係なのか、海岸沿いで点滅している。

「ねえ、リック、点滅ってどういう意味なの?」

「……?」

 リックはしばらく考えた後、手を挙げて首を振った。お手上げということだろうか。

「まあ、取り合えず行ってみますか」


 地図をしまい、数分間ほどきれいな海を眺めていた。

 すると、陸が見えてきた。

 陸も豊かな森があって、キレイな町がある。

 宮古島の伝統的な住宅も、いくつか見えている。

「着いた~」

 到着を乗客に知らせる汽笛が鳴った。




 船を降り、私は海岸に沿って歩く。

 例のところはどこにあるのだろう。

 それにしても――。

「今すぐ水着に着替えて、泳ぎたい気分になってくるわ。めっちゃこのビーチ綺麗。今度は休暇でここに来たいな」

 薄い黄土色と言ったらよいのだろうか。このキレイなビーチは何色と言えばよいのだろう。

 広くて、砂はサラサラで、目の前には真っ青な海、裏には緑の森。

 こんなに海水浴に適した土地があるだろうか。


 しばらく歩いたが、やはりシーズン外れでも観光客がたくさんやってくる。

 小さな子供は浮き輪で泳いでいる子もいた。

 こんな光景を見ると、私も……。

「ちょっとだけいい?」

 泳ぎたくなってしまう。だが、ここは我慢だ。泳ぐのはさすがに後で面倒だ。少し足を付けるだけでもいい。

「ヴェ?」

「いいじゃん、別に着替えないし、ちょっと足を付けるだけ」

「……」

 リックは黙っている。

「いいってことだね? ありがと、行ってくる」


 ハーフパンツで来たため、靴を脱ぐとそのまま海に浸かることができる。

「うわ、冷た! けど、気持ちい」

「ヴェフ~」

 リックが一番気持ちよさそうに泳いでいた。

 海の方へドンドン海水をかき分けて歩いていく。

 もう小さな魚たちが泳いでいる。さすが沖縄、どれも鮮やかできれいだ。

「あれ?」

 と、ここで魚を養殖するいけすのようなものが見えてきた。

「こら!」

 そして、おじさんの怒鳴り声も耳に飛び込んできた。

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