拾参・当国銭作

 食事を済ませた後、そのまま机で、地図を広げ、虫眼鏡をいじる。

 ――沖縄の島々をくまなく調べると、やはり光った。

「ピシャリじゃん」

 ただ、何やらいつもと違う。ピカ、ピカ、ピカと光り続けるのではなく、点滅して見えるのだ。

「これ、なんなんだろう」

 取り合えず、私はその島——宮古島を覚えておくことにした。


 次のターゲットが見つかり、私は会計をすることにした。

 日本の硬貨も札もない。そんな時にするのは、当然あれだ。

「魔術覚醒——当国銭作」

 静かに唱え、秘かに手が光る。

「お値段、2025円になります」

「あ、はい」

 そして、私はさっき光った手から、日本のお金を出した。

「ありがとうございましたー、良い旅をお楽しみくださいませー」

 一応、偽札を作ったわけではないから、大丈夫だろう。ちゃんとお金として使えるし。

 ――お金を魔法で増やしたくらいで、日本経済がおかしくなるなんてことはないよね?


「ヴィヴァ、ヴィヴィウヴァ!」

「本当に、美味しかった美味しかった」

 あの熱帯魚の沖縄料理店——ええっと、でーじまーさん。

 この店の内装と外装を、出て行く前に私は持っている携帯で写真を撮り、それをドワーフ王国のSNSへ投稿した。

 旨い店あるよ、って。

「美味しかったです。ごちそうさまでした」

「はい、ありがとうございましたー!」




 私は、取り合えず外へ出て、静かそうなところで再び魔法を唱える。

「――魔術覚醒、魔切符造、小畠客船宮古号、明日の朝の船」

 エマは、飛行機の時と同じように、再び魔法を唱えた。

 そして、那覇から宮古島へ行く船の切符を手に入れた。

「ベヴィフォーン! ヴェヴィヴビョー!」

「いや、まだだよ? 今日はホテル泊まるよ?」

「ヴ?」

 勝手に、それじゃあ行こう、レッツゴーってリックは言っていたが、分かってないな。

「もうね、船はね、走ってないの。分からない? 今日は、ほぼ一日中上野動物園にいて、そこから飛行機乗って夕飯食べたじゃん。時間ないの。だから、今日はホテルに泊まって、体力温存! ね」

「……ヴァイ」

 最終的に、うなずいてくれた。




 エマは、空港を出てすぐのところにあるホテルへやってきた。

 私は賢いから、ちゃんと食べ終わって、地図を調べるのと一緒にホテルも調べておいた。

「はい、あ、それで大丈夫です、はい、分かりました、ありがとうございます。あ、支払いって今やるんですか? ごめんなさい、今日が初めてなので。はい、えぇ、現金で行きます。……あ、これカギになるんですか? カードかざせば行けるんだ。進化してますね。あ、そうなんですか。じゃあ、お願いします」

 ちゃんと、さっきのでーじまーさんでお金を作った時、このホテルの分も作っておいた。

 ただ、少し危なかった。本当に何もわかってなかった。ホテルのこと。

 少し、受付の人は不思議そうな顔をしていたが、それを口に出すことはなかった。

 プロはこういうものなのだろう。


 案内してくれるということになったので、私はスタッフの人と歩いて、エレベーターに乗って部屋へ向かう。私の部屋は、エレベーターを降りた廊下から一番手前のところだった。

「カードは、こっち向けでこうかざしたら入ることができます、あ、はい、そうです。他にも、何か困ったことがあれば、入り口にある携帯電話でお知らせくださいませ。それでは、ごゆっくりどうぞ」

 日本の人はやっぱり親切だ。


 お腹いっぱいで、何もしたくなくなってきた。空港ではさっぱり応対してくれなかったが、沖縄人は天才だ。こんなおいしい料理を作れるって天才級だ。次、生まれ変わったらここに住みたいなぁと思った。

「そうだ、明日の朝何にする?」

「ヴォヴィヴァワヴォバ! ジューヴィー、ヴァーヴァーワンヴァヴィ!」

 これ、今日何度目だろう。

「分かった、取り合えず、じゅうしいは欲しいから、後で買いに行くか」

 私は、話しながらスマホで沖縄の郷土料理、と調べる。

「うぁ、これ美味しそう! イナムドゥチ。よし、じゃあ、買いに行こう。まだ、どっかで売ってると思う」




 明日の朝ごはんを買いに、売店へ行く。その前に、部屋で少しだけ本を読むことにした。

「魔術覚醒——書召場異、沖縄弁について」

 ちゃんとドワーフ王国の言語で書かれた、沖縄弁についての本が出てきた。

「はいさいは、こんにちは。めんそーれ、ようこそ。うにげえさびら……お願いしますね。ヤバい、舌嚙みそう」

 しばらく沖縄弁の本を読んだが、はいさいとめんそーれだけ覚えることにした。

「あ、ありがとう忘れた!」

 ありがとうは、にふぇーでーびる。

「にふぇーでーびる、にふぇーでーびる。ムズ、ダメだ、沖縄弁……」


 ついでに、私は異世界と通信することにした。

「もしもし、遅い時間にすみません。エマです」

『おお、エマ殿か。二コラだ。何か報告でもあるのか?』

「あ、いや、別に。ちょっと安否確認をと思いまして」

『今はどこにいるのだ? 日本のどこだ? 上手くやっておるか?』

「今は、沖縄というところにいます。沖縄の言葉が難しくて」

『何? 日本ではないところにいるのか? それは任務違反だぞ?』

 あ、なんか勘違いされてる。

「いえいえ、日本です。日本では方言というらしいのですが、日本でも地域の中で少しずつ言葉が違ってくるそうなんですよ」

『そうなのか。それは面白いな。また何かあったら教えてくれ』

 しばらく間があった。何か言わないといけない。ついでに、二コラ王太子を喜ばせておきたい。

 ……あ!

「ああ、それと! 沖縄料理は本当に美味しいので、また後で送っておきますね」

『おお、それは嬉しい。感謝する』

「それじゃあ、また。明日ぐらいには新しいものを送信できそうです」

『そうか。料理と共に楽しみにしておるぞ。ではな』

 通話終了。

 料理を送ると突発的に言ったのは、二コラ王太子に取り入りたい一心であった。

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