拾弐・食魔獣転

 はっ! 気づけば、那覇空港に到着してしまっていた。私は何も調べてないのに。そもそもどこかも分からないのに。ヤバい、どうしよどうしよ。

 取り合えず、私はクラクラする頭を起こして、ポシェットをかけ直し、飛行機を降りた。


 取り合えず、お腹が空いたから、私はお店を探すことにした。

「リック、おきなわって何がおいしいの?」

「……」

 リックは、しばらく考えた後、こう言った。

「ヴォヴィヴァワヴォバ! ジューヴィー、ヴァーヴァーワンヴァヴィ!」

 沖縄そば、じゅうしい、サーターアンダギー、ということらしい。

「ええっと、ここらの店ではどこがあるのかなぁ……」

 私は、取り合えずそこらを歩いてる人に聞くことにした。


「あの、すみません、空港の中の美味しい沖縄料理のお店知ってますか?」

「そんなの知らないよ。私たちだって初めてだもん」

 はぁ、まただ。

「あの、沖縄の郷土料理のおいしいお店、知りませんか?」

「知るかよ、そんなの。こっちが聞きてぇ」

「あの、沖縄の郷土料理の店……」

「あの、こういうカッコの人間嫌いなんで、じゃあ」

 ああ、ダメだ。そこらの客は何も知らないらしい。まあ、そりゃあ当然って言ったら当然なのだが……。

 私は壁の方で座り込んだ。東京でさえ苦労するのに、沖縄はましてや苦労する。

 みんな知らないし、現地の人でも良く分からない日本語っぽい言葉を使うから分からない。日本では方言というらしいが。


 しばらく座ってやすんでいると、誰かが声をかけてきた。若い男性の声だ。

「お客様、お困りでしょうか?」

 制服を着ている。当たりだ。助かった。

「あの、美味しい沖縄料理のお店探してるんですけど、どこか分からなくて。遠くから来たもので何が何だかサッパリ」

 遠くから来た割にはよく日本語喋れてるなと思っているのだろうか。男性スタッフは少し疑念を顔に浮かべつつも、親切に教えてくれた。

「それじゃあ」

 スタッフが去って行く。地図を渡してくれたから、その通りに向かった。


 見つけた。

 木製の、でもとても雰囲気が出ている沖縄の店だ。

「でーじまーさん」

 という店名だ。

「でーじまーさん、ってどういうこと? どこの言葉?」

「ヴォヴィヴァワ」

 沖縄の言葉らしい。

「どういうことなの……」

「ヴィグヴヴァシ!」

 なんか、リックの言葉のバリエージョンが増えている気がする。小さい子の成長とはこういうことなのだろうか。

 そして、料亭の名前の“でーじまーさん”とは“とても美味しい”ということらしい。

 これだから、沖縄の言葉は分かりにくい。でも、解読するのが面白くもある。不思議だ。


 取り合えず、私は店へ入った。

 店では、熱帯魚が泳いでいる。私が座った席の壁は、一面が水槽だった。

「さぁて、何食べる?」

「ヴェフォーン!!!!」

 興奮しているリックが大声を上げた途端、客の一部がこっちを見た。

「ちょ、うるさい。何食べたい?」

「ヴォヴィヴァワヴォバ! ジューヴィー、ヴァーヴァーワンヴァヴィ!」

 沖縄そば、じゅうしい、サーターアンダギー、ということらしい。

「じゃあ、私はリックのやつにゴーヤチャンプルーいれよっと」

「ヴェ……」

 可愛い物知りユニコーンはゴーヤが嫌いらしい。もっとも、私は食べたことがないから何とも言えないのだが。


「ご注文お伺いします」

「ええっと、この沖縄そばと、じゅうしい、特製ゴーヤチャンプルー、サーターアンダギーお願いします」

「了解いたしました。沖縄そば一つ、じゅうしい一つ、ゴーヤチャンプルー一つ、サーターアンダギー一つでよろしいですね?」

「はい。それにしても、この水槽綺麗ですね。私は旅行で来たんですけど、沖縄の海も開発で濁ってしまって、熱帯魚もいなくなってきてしまっていると聞きました。これはどこから来てるんですか?」

「ああ、これですか? これは、ここの常連客の方が環境保護団体の方でして。それで、海を綺麗にしたり、呼びかけたり色んなことをして、時には政府の会議に出たりして沖縄の海の保存を訴えたんですよ。私どもでじまーさんも金銭面で支援していたので、それのお礼として、海にいた熱帯魚をいただいたんです。綺麗でしょう?」

 へぇ、そりゃあすごい。

「そうなんですね。その方、何という方なんですか?」

島袋蒼輝しまぶくろあおきさんという方です。宮古島におられるんですよ」

 有益な情報、ゲットだ。

「そうなんですね。色々教えて頂き、ありがとうございます」

「こちらこそ、興味を持ってくださいありがとうございます」


 少しすると、料理が運ばれてきた。

 リックはすでに、ジュルジュルとよだれを流している。私のポケットが濡れるからやめておいてほしいのだが。

「それじゃあ――いただきます」

 最初に、沖縄そばを口に入れる。

「何これウマ!」

 じゅうしいも食べてみる。

「ハマる……」

 ゴーヤチャンプルーにいたっては、

「こんな食べ物あるの。最高じゃん。この苦みと周りの卵、調味料のバランス、好きだわ」

 べた褒め。

 私は、ある程度自分の分を食べてから、呪文を唱えた。

「魔術覚醒——食魔獣転」

 この魔法は――目の前にある食べ物を、異空間、つまり四次元空間に転送し、そこで異世界獣が食べ物を食べられるようにする魔法だ。

 こういうものは、異世界獣がそこら中にいる異世界ではあまり使わない。どちらかと言えばコチラの世界で使うものだ。私も今日初めて使った。

「ヴヴァ~~!!」

 うま~とリックが叫んでいる。と思えば、急にリックがむせ始めた。

「&#$%~@*+¥?!」

 意味不明な言葉をただ吐いている。

「ヴォーヴャマヴイ!」

 ゴーヤが苦かったらしい。

「そう? 私美味しかったけど」

「ヴィガヴリュヴェヴ」

 胃が狂っている、と言われた。

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