島袋蒼輝
拾壱・魔切符造
私は恐る恐る、警備員の事務所へ戻った。
「魔術覚醒——建戸向透」
呪文を唱えると、事務所のドアの向こうが透けて見えた。
人はいない。
「よっしゃ!」
後ろにも人がいないことを確認して、私は今日参回目の事務所へ足を踏み入れる。
探物知告の魔法によると、一つ先の部屋へあるようだ。
地図に従って、その部屋に入る。
「あったぁ!」
誰のものか知らないが、デスクに置いてあった。取り合えず、その虫眼鏡を取って、ポシェットへ入れる。
そのまま、私はこっそりと事務所を出ようとする。
「ヴェフ!」
と、急にリックが咳をしてしまった。
「あ? なんか音しなかったか?」
「まあ、気のせいっしょ。柿山さんが咳したんじゃない?」
幸い、誰にも気づかれず、あっちの人らはどこか行ってくれた。
出て行こうとする。が――。
「ヴェフォー、ヴェフィ、ヴェフォ」
ちょっと待てと。なぜ。
「ヴィヴフォヴェフィクヴェクィヴァ」
柿山という男、さっき私に尋問してきたやつだと、リックは言っている。
確かに、そうだった気もする。
「どうしろっていうのよ」
「ヴェフジェヴァ」
柿山の机へ魔法をかけろと。ああ、あれか。でも、あれは少し危ないんじゃ……。
「魔術覚醒——座記葬具」
私は、柿山のデスクとチェアに触れる。デスクとチェアが光った。
「これで、柿山がここに座ったら、ここにいた時全ての記憶が消える。ハハハ……」
私はただ苦笑いするだけなのだった。
上野動物園を出る。
その頃には、日が暮れようとしていた。どうせ、動物園も閉演時間を迎えることだし、これ以上ここにいる意味もない。
私は普通の一般人っぽく見えるように、上野駅へ向かった。
「さぁて、今日はどこへ泊まろうかな……」
「ヴィウィヴェフォーン」
取り合えず、列車に乗ってから考えようということになった。
ポシェットから虫眼鏡を出して、地図も一緒に取り出す。そして、私は日本地図を見始めた。
まずは、日本列島全域が見えるところまで地図を操作する。それから、北海道から東北、関東、北陸、東海、近畿、四国、中国、九州の順番に見ていく。
「あれ? 光らない」
普通なら、ここでどこかで光るハズなのだが、全く光らない。もう一度やってみても、ダメだ。
「リック、なんでなの?」
「……ヴァー」
リックは呆れたように溜息を吐いた。
「ヴォヴィヴァワ」
リックはポケットの中から手を伸ばして、地図を操作する。
「ヴィー」
虫眼鏡を私の手から奪い取って、九州の先の方にある島へかざした。
と、オレンジ色の光が見えた。
「おぉ! これも日本の一部なの」
「ヴィー!」
返事をせず、リックは静かに、と言った。
「あ、ごめんごめん。でさ、ここ“おきなわ”って言うのね。どうやって行けばいいかな」
「……」
これ以上何か話したら怪しまれるから黙っているのだろう。
私は、一度次の駅で降りて話を聞くことにした。
結果のところ……私は、少しも休むことなく、京急電鉄で第一第二ターミナル駅へやってきた。
リックの足で改札を抜けて、少し歩くと、間もなく第一ターミナルの出発ロビーが現れた。
チェックインカウンターでは、さすがにリックの足を使うわけにもいかないので、ちゃんとチケットはある。“リックが用意する”らしい。
「え、チケットは?」
エマは早速声を上げた。
「無いの?」
「ヴィフェフォーン、ヴィ♪」
ああ、なるほど。つまりは……。
「魔術覚醒——魔切符造、SSS航空那覇行き、六七三便」
そして、一枚のチケットが出てきた。エマはリックがチケットを買ってくれていたのかと思ったが、私が魔法で作る羽目になってしまった。
『SSS航空那覇行き、六七三便はただ今、二番ゲートよりご搭乗いただいております。当便をご利用になるお客様は二番ゲートにお進みくださいませ。SSS航空那覇行き、六七三便はただ今、二番ゲートよりご搭乗いただいております』
私は、それに従って二番ゲートへ向かう。もちろん、リックのナビを受けて。私は魔法で日本語を聞き、話せるようになったが、読めるようにはなってない。簡単なものや、今回の任務に関係があるものは読めるが、空港の表示なんぞほとんど読めないのだ。
「魔術覚醒——金探機不応」
保安検査は、機械が金属に反応しないようにしておいた。もちろん、私だけ。
そして、搭乗ゲートへ向かい、チケットをかざして搭乗した。まだ、充分に時間はあるが、特にみるものもないし、飛行機の中で何か作戦を練りたいと思っていたから、あっという間に済ませた。
そして、私は座席に座った。
飛行機が離陸を始めた。
「うぉぉぉ!」
思わず興奮して声を上げてしまった。でも、仕方がないと思う。
この座り心地よ、最高。
そして、この鉄の塊が浮いている。異世界では瞬間移動するなりなんなりで簡単に移動できるため、飛行機なんぞ使ったことがない。そもそも、見たのも今回が初めてだ。
私は本当は、地図を見て場所を探すつもりだったのだが、興奮でそれどころではない。最終的には、椅子の座り心地がすごすぎて寝てしまった。エマも、リックも。
そして、飛行機は雲と風を切って、あっという間に沖縄上空へやってきていた。
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