拾・探物知告
私は、ライフと福田の奇跡の物語に浸って、しばらく動けずにいた。
「ヴェ、ヴェ、ヴェ、ヴェ、ヴェ」
リックがしきりにつついてくる。
「ねえ、何? 何なの?」
「ヴィヴァフォーン」
さっきから言ってる、と言っている。
「ヴァイヴヴィヴァフォン」
「え? マジで? なんでもっと早く言ってくれないの!」
「ヴィヴフォーン……」
透明化の魔法があと十分しか持たなくなったようだ。
私がなぜもっと早く言ってくれないのと冗談半分で言うと、リックはいやさっきからおい、おいってつついてたわ! と返す。
さすが、私たちだ。
五分間終わって、姿が見えてしまう前に、私たちはアリクイにバイバイを言って、展示場の外へ出た。
そして、もう五分が切れてしまうというところで、私はとっさに警備員がいそうな場所に戻った。
服は警備服のままで来たから、普通の警備員が立っているようにしか回りは見えない。
「あの、警備員さん。落とし物をしてしまって」
と、私を“アリクイの飼育スペースに侵入した人間”だと知らない小さな女の子が声をかけてきた。
――ヤバい。
私は慌てて、ポケットを見る。
リックが、何かを言ったように見えたが、何も聞こえない。
仕方がない。私はアドリブで話し始めた。
「そうか、落とし物か。何を落としたの?」
「……眼鏡」
「そうか、眼鏡か。どこらへんで落としたか分かる?」
女の子は首を横に振った。
「まあ、そうだよね。どこら辺まではあったか覚えてる?」
「……来てすぐだから、パンダの展示場を出るところまでは眼鏡、あった」
「そう。分かった、他の警備員さんにも連絡するから、ちょっと待っててね。お母さんはいる?」
女の子は首を縦に振った。
「分かった。じゃあお母さんのところにいてね。そうだ、あなたの名前だけ聞かせてくれる?」
「……
「玲菜ちゃんね、分かった。落ちてる眼鏡が見つかったら、放送するね。じゃあ、頑張るわ」
女の子は去って行った。
さてと、私は警備員の服のまま、警備員の事務所へ向かった。
そこで、私は警備員の服を脱いで、着替えをする。
さっき脱いだ服は“はらじゅく”の駅にある魔法のリュックにある。
そこで、私は庶民っぽく見える服を魔法で出した。
それを着て、再び呪文を唱える。
「魔術覚醒——髪色変化……茶髪で」
私の染められた派手な髪が茶髪になった。
これなら、普通に歩ける。
「あ、待って、危ない危ない」
ここを出ていく前に、さっきの女の子についてのことをそこら辺にあった紙に書いた。
私は事務所を出た。そして、ドアにさっき書いた女の子のメモを貼り付けておいた。
そして、私は出口へ向かっているとき、ふと気づいた。
――眼鏡?
さっきの女の子は眼鏡を探しているらしいが……私にも探し物があることをものすごいタイミングで気付いてしまったのだ。
――む、虫眼鏡!!!!
エマは、急いで出口の前でとどまった。
腕時計のボタンを押し、ドワーフ王国と通信を始めた。
二十秒ほどたって誰かが出た。
「もしもし、エマですけども」
『エマ様はコチラにおりますが。てか、どっかで聞いたことある……』
この声は。
「ええっと、本名はルネライト……」
『やっぱり?! ルネの声だ!! 久しぶりだね! 王様から直々に指示を受けたらしいね。すごいわ』
彼女は、王宮でエマ(私が王宮で仕えている方)様のお世話をしている時に仲良くなっていた、ジュディという子だ。
「ジュディはどうなの? 上手く行ってる? エマ様、何か変わらない?」
『別に、何も。全然大丈夫だよ』
「そう。あ、ところでさ、ニコラ王太子呼んでくれない?」
『……はぁ?! 無理でしょ!! どうすればいいのよ!! ……え? あ、はい、分かりました』
何だろう。
『もしもし? ルネライトか? 久しぶりね。元気にしてる? エマよ』
え、エマ様。そうか、エマ様ならニコラ王太子を呼んでくれる。
「お、お久しぶりです。ご無沙汰しております。ルネライトです。お元気ですか?」
『元気にしてるわ。ところで、用は?』
「二コラ王太子を呼んでくれませんか?」
『そう。分かった、呼んでくるわ』
しばらく間があって、二コラ王太子の声がした。
『やあ。虫眼鏡についてだろう? 聞いている。一体なぜこんなことになるんだか』
開口一番にこれだ。悲し。
「申し訳ございませんでした。次から気をつけます」
これでも、許されることはないと思っていた。が、
『まあ、良いだろう』
普通に許された。
『取り合えず、エマ殿は魔法を使って、虫眼鏡を探してもらう。絶対にな』
「ええっと……何の魔法を使えばよろしいのでしょうか?」
『
「え、それ、私はまだ取得していないんですよ……」
『うむ、そうなのか? なら、こうしよう』
と、十五秒ほど後に、腕時計と、私の腕が光った。
『魔法を使えるようにした。これで大丈夫だ。呪文は、分かっておるな?』
「は、はい。あの、ありがとうございます」
『王室に伝わる大切なものだ。何としても見つけ出さねばならないのだから、これくらいは仕方がない』
めっちゃ私が悪いみたいに言われている。実際にはそうなんだけども……。
「分かりました、探します」
私は通話を終了した。
「さぁてと」
あまり人気が無さそうな場所——モノレールの駅の裏口に回り、私は呪文を唱えた。
「魔術覚醒——探物知告。王室に伝わる虫眼鏡」
と、腕時計が光り、地図とその場所が出てきた。
それを見たエマは、驚きと落胆を隠せなかった。
「嘘ぉ~。警備員の事務所じゃん……」
たった今さっき、なぜ見つけられなかったのだろう……。
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