玖・転送完了
ライフはどこへ行ったのか。
私の頭の中には再びハッピーエンドの予感がしてきた。
ライフ、生きてるんじゃない?
***
応援を呼んでから、福田たちはずっと瓦礫の撤去作業に追われた。キリン舎に限らず、他の舎でもだ。
そこらを探してみたが、それでもライフは見つからなかった。
展示場を外から見てみたが、それでもライフは見当たらない。
――どこだ。
そもそも、ライフは生きているのか。それが問題だ。
キリン舎の瓦礫は今、正午の時点で全て片付いた。
リンとギラン、他のキリンの遺体も全て回収した。そして、園にある墓場に埋めてやった。その時は、職員全員で黙とうをささげた。
この衝撃的なニュースは瞬く間に日本、そして世界中へ広がっていった。
『これは、無い。戦争のせいで動物が犠牲になるなんて考えられない』
『|I feel sorry for the giraffe《キリンがかわいそう》……』
『왜 동물들은 전쟁의 희생이 되어야 하는가?』
『|认为是我们
世界中のTwitterなどでこのような上野動物園に同情し、戦争や中国を批判するツイートがあふれかえった。
これがキッカケで、献花を求める人でチケットがたくさん売れた。
でも、それもちっとも嬉しくはない。
いや、献花をしようとしてくれる人がいるのは本当に嬉しいが、そもそもこんな戦争で動物が犠牲になることでチケットが売れても、ちょっと、何というか気分が悪い。
瓦礫の整理が終わったところで、福田はキリンの展示スペースへ入った。
展示スペースを取り合えず見ておかないといけない。
何か危ないものが落ちていないかとか、他に壊れそうなものはないかとか。そして、生前のキリンたちがしたフンも片づけないといけない。
これで、福田はキリンのフンを片づけるのが最後になるかもしれないのだが。
取り合えず、広いキリンのスペースを柵の点検をしながら見回ってみる。
動物園の柵はかなり丈夫にできている。特に、キリンやゾウ、サイのような大型の動物の飼育スペースは特に丈夫だ。
幸い、焦げ跡があるだけで、それと言った損傷は見られなかった。よし。
そして、掃除をしようと思って、飼育スペースの入口へ置いておいた掃除セットを取りに行こうとしたその時だった。
――キリン?
木が植えてあり、長い草があるところ。そこに、キリンの模様が見えた気がするのだ。
そこに、もしライフがうずくまっていたら。
その可能性は大いにある。ここのところは長い草がぼうぼうに生えているから、子供のキリンがうずくまっていれば見えないかもしれない。
「ライフ?」
ライフの名前を呼んでみるが、返事はない。
福田は、そのまま作業着を着て草むらへ入っていった。
少し歩くと、ついに福田は見つけてしまった。
「おい、ライフ……? こんなところでどうした。ライフ? 大丈夫か? ライフ?」
長い草むらに、ライフは足をたたんでうずくまっていた。
福田はキリンが一匹生きていたのに、あまり喜べなかった。心臓は動いていたが、明らかに、何か、マズい気がする。
「ちょっと待ってよ。今、応援呼ぶから」
福田は無線を握る。
『どうした?』
今回は、喜多副園長が出た。
「副園長、キリン担当の福田です。キリンの子供一匹、生存を確認しました」
『おお! そうか、そうかそうか、それは良かった! 奇跡だ!!』
「いや、ちょっと待ってください。確かにライフを確認したのですが、草むらでうずくまっているのです。何かありそうです。意識がもうろうとしています。すぐに、獣医を呼んでください。お願いします」
『……そうか。分かった、すぐに獣医のチームを呼ぶ。少しだけ待ってくれ』
「お願いします」
無線を切った。
その時、ライフは緊張の糸が切れたかのように、意識を失った。
獣医のチームが来て、すぐに治療を始めた。
獣医が詰める治療室を兼ねる建物はミサイルが落ちたところからは離れていて、又、鉄筋コンクリートの丈夫な作りだったため、無事に残っていた。
機材も無事で、ライフの治療がされた。
二十分後、獣医が出てきた。
「……ライフちゃんは、元気ですよ」
「え?」
「あの、普通に元気ですわ」
「そうなんですか?!」
何か、拍子抜けしてしまった。だが、嬉しい報告だ。
獣医の話によると、ライフは夜、なかなか眠れず、そこに空襲が来たため、恐らくは慌てて起き、飼育舎のドアを突き破って、屋根がない展示場へ出た。そこで、空襲の音を見た。そこからずっと寝れずにいたが、ちょうど正午くらいに、眠ってしまった。怪我は、ドアを突き破る時にできた胸の傷と、ミサイルで壊れた瓦礫が飛んできたときにできた、足にあるいくつかの切り傷だけだった。
「ただ、ちょっと右後ろ脚が骨折してしまっているようなので、そこをここから治療していきますね」
それは、ミサイルで飛んできた瓦礫が強く当たったためだろう。
「とりあえず、良かったですね」
「あの、見に行っていいですか」
「どうぞ――」
福田は部屋へ行った。ライフは元気そうな顔を見せていた。母親のリンがいないのに困惑しているようだが、それでも前脚をバタバタさせながら走っていた。確かに、後ろ足を引きずるような感じになっていたが、それでもこの姿を見て福田は――泣いた。
「ライフ――良く、生きていてくれた。お母さんも、お兄ちゃんも死んじゃったのに、本当によく生きてた。お前、また子供産んでキリンを復活させてくれよ。本当に――良かった」
福田は泣きながら、ライフの元へ駆けより、抱いた。
ライフは、あの時のリンのように、顔を舐めてくれた。
福田の涙は、一時間ほど経つまで止まらなかった。
その後、ライフの子により、上野のキリンは復活したのだという。
福田は退職するまで、キリンの担当として研修生を指導しながら、キリンが楽しく過ごせるように尽力した。そして、たくさんの死を見ながらも、前を向いて走っていった。
***
「ヤッター!!!!」
エマは叫んだ。
本当に嬉しかったのだ。ライフが無事で。
「魔術覚醒——転送完了」
そして、この映像の転送も完了した。
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