弐・現慣衣転
ドスッ
「あ、いった~」
ワープホールから抜けたエマは尻もちをついた。
「ヴェフォーン」
と、ポケットから小さなウマが飛び出してきた。
「あ、ついてきたのか。リック」
リックというウマは真っ白な体にライオンのような尾、そして華やかなたてがみを持っている。そして、小さいが少し巻いている角が付いている。これから大人になっていくにつれてもっと長くなっていくだろう。
「ヴェフォーンヴェフォーン」
小さなユニコーンは生まれたときからエマに育てられたおかげで、ユニコーンはなつかないという常識を覆したのだ。
まだまだ小さな子だが、これからもっと強くなるはずだ。
――当然、他の人間と違って、私とリックの関係は良好。
さて、ワープホールが抜けた先の森から少し歩く。と、すぐに視界が開けた。大きなビルディングが立ち並び、あちこちに列車が通っている。
そして、あちこちで黒いスーツを着た人が歩き、一般人も歩く。その中でも、目立ったメイクをした若い女性は目立った。変な言葉ばっか使ってるんだけど……。
「あれぇ~、あんたも原宿人?」
と、急に若い女に声をかけられた。
「?!」
「あれ、違うの。ちょっと喋んなよ~?」
「……?」
いや、違う。そうじゃない。私は……日本語がしゃべれないだけなのだ。
「ねえねえ、良いじゃん。この髪型とかかわいいよね。しかも、白に青にピンクにすごい鮮やかな髪の色。うらやま~ウケる~!」
「?$%!□&@*★▽!!」
「え? なんて……」
と、急に相手は話せなくなった。そう、口が利けなくなる呪文を唱えただけだ。
そして、“ハラジュク”かどこか知らないが、私はもう嫌になってこの場から逃げ出した。
はぁ、はぁ。
エマは取り合えず駅のトイレに入った。
この町、この国、異常だ。
みんな狂ってるんじゃないか。でも、私はここからそれに慣れなければならない。
私は、まず一つ目の呪文を唱えた。
「魔術覚醒——現慣衣転」
トイレの外にいる人は怪しがるだろうが、まあいいだろう。
私は呪文を唱えた。
そのとたん、私の顔のあたりが光った。
――よし。
「あ~、こんにちは~、エマで~す」
この魔法を使うと、その国っぽい顔になり、その国の言語を話せるようになるのだ。
ガタンと扉を開けて、私は外へ出た。
取り合えず、私は電車に乗った。
『車乗脚通』と唱えると、異世界、現実世界関係なく異世界獣の足を改札にかざすだけで公共交通機関に乗れるようになるのだ。
「もしもし」
『お、付いたか。二コラだ』
「王太子、無事に到着し、滞在できるようにしました」
『よし、ナイスだ』
腕時計を通じて私はドワーフ王国と対話を取る。
『そんじゃ、電車に乗ってるならさっそく地図を広げて、場所を探してくれ』
「承知しました」
『それじゃあ、頑張れよ!』
「はい、必ずや絆をしっかりドワーフ王国に移し、人間と異世界獣の関係を改善させて見せましょう」
『頼りにしているぞ』
通話終了。
と、向かいの席で様々な人がこっちを見てクスクス笑っている。訝しげにこちらを見る人も。
「何が変なの?」
私は何でも分かるユニコーンの子供に聞いてみた。
「ヴァ~オ……ブルブル」
「ああ、なるほど……」
どうやら、私の水色っぽい緑、つまりティファニーブルーと白、青、ピンクの髪型をみんな見ているらしい。ついでに言うと、ほっぺのハートのシールとオッドアイ。
――でもこれ、どうやっても変えられないんだよな……。
どうにか、これはこらえることにした。
さて、エマは地図を広げ、二コラ王太子から預かった秘伝の虫眼鏡をかざし、絆を発掘できる場所を探す。
と――。
現在地が拡大されたすぐそこ。すぐここで光が出ている。
――マジか、こんな簡単に絆を発掘できるとは。
私は二コラ王太子に取り入るためにも、私は早く次の駅で降りなければならない。
『次はー、上野ー、上野です』
「上野動物園ね」
「ヴェフォーンヴェフォヴェフォーン……ブルブル」
何でも知ってるユニコーンの子供、リックは解説した。
日本で一番たくさんの人が入場するそうで、その中に人々と動物の記憶が閉じ込められている“地層”があるという。
「行くしかないね――魔術覚醒——車乗脚通」
私はリックの足を使って、園内に入場した。
私は地図通り、順調に園内を進む。
――みーつけた。
早くもその場所は見つかった。
私は、そこにある柵を超えて、地層に近づく。
「うぉぉぉ、いいねぇ」
「ヴェフォーン」
と、リックは何やらこの小さな草原を元気いっぱいに駆けまわっている。
「かわいいやつだなぁ」
私は、トートバックから鏡を取り出した。これもまた、ドワーフ王国王室に伝わる神聖な鏡だ。
私は、火山灰と土が積もった層をかざし始めた。
「え? あれ何?」
「ちょっと待って、ここはアリクイがいるんだよね?」
「かわいいアリクイが……これってちっちゃなウマだよね」
「ただのウマじゃないんじゃないかな」
そんな声は私には届いていなかった。
意外と広い地層をくまなく鏡でかざしている時。
私の足に何かふさふさしたものが当たった。
「あ、リック――え?」
リックだと思って抱き上げると、それはリックじゃなかった。長い顔をして、鋭い爪を持った白と黒の生き物だった。
「何、これ」
と、今度は本当のリックが私の方に駆けてきた。
「ヴェフォーンヴェフォ! ヴェフォーン!」
「どうしたの、急に」
と、すぐにけたたましい笛の音が響いた。
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