第7話 できた友達に違いなんてない

『僕らが保健室出身のワケ』7話

これは橋本京香の小説について初めて花岡美咲と話した時のことである。

9月5日の月曜日の放課後、誰もいない2年A組の教室で2人の生徒が椅子と椅子をくっつけて話していた。

1人は自分の書いた小説を相手に見せていた。1人はその小説について真剣に聞いていた。

小説について話しているのは橋本京香という2年生の中では知らない人はいないという話題の人物だった。なぜなら、高校1年の頃に窓を割るなんてそうそういなかったからだ。

そんな彼女の話を聞くのは、花岡美咲という品行方正の生徒だった。過去形になってしまうが、本当に優秀だった。何も悪い噂を聞かない普通の子だった。でも前と今では全然違って見える生徒になった。それも保健室登校になってから始まったことだった。

そんな2人が何を話しているのかというと、それは学校を舞台に書いた小説の話だった。

橋本京香は小説と自分の話を交えて話した。

『私が今書いてる話はね、学校が舞台なんだ。でも、この学校で青春っていう青春なんてしたことないし、学校帰りにプリクラ撮ったり、109でお買い物もしたことない。まあ確かに石破高校から東京という東京は遠いし、行けなくはない場所だけど、まず友達がいなかったから。でも、今は違う。保健室でいやトイレで出会った友達がいるから。でも、一度でいいから一緒にどこか行きたい。保健室じゃない場所でもお喋りしたい。だめかな?』

花岡美咲はその言葉に答えるように言う。

『学校が舞台の話のネタになるような青春を私と送ってみる?私は1年頃から充実さのある生活を送ってきて今とは全然違う生活スタイルしてきたの。あの頃にはもう戻れないのかもって思ってたけど、それは違うのかも。新しい日々を送るために今が出来たのかなって今思ったんだ。青春はまだリスタートできるよね、きっと』

橋本京香は椅子をもっと近づけて言った。

『じゃあ、今日が青春の再スタート記念日だね。9月5日...と携帯のカレンダーに付けておくね。大切な私たちの日だから』

花岡美咲も携帯を取り出して、同じようにカレンダーに日付を書き込むだけじゃなく、LINEのQRコードを出して言った。

『青春するにはここだけの友達じゃなくて、いつでもどこでも会えるように友達登録が必要じゃん。LINE交換しよう。』

京香はLINEを取り出して言う。

『もうこれが青春みたい。初めてのLINE送っていい?』

美咲はいいよと返事をした。

京香が初めてしたLINEが言葉でもなくスタンプでもなく自分の初めて書いた短編小説『俳優になった僕』だった。

美咲はへっ?と首を傾げた。

京香は言う。

『ごめん、人に自分の書いた小説ってどう送るんだろうって試してみたくて、やっちゃった。ちなみに、この小説は私が初めて書いた小説でそれでね...』

京香の言葉に重ねるように美咲が言った。

『フフッ、初めて。あっ、別に変な意味で笑ったわけじゃないよ。私が思ってたのとは違うLINEだったから、驚いただけだから。変な意味には捉えないでね』

京香はまた違うLINEを送った。

『私、上手く人とコミュニケーション図るの難しくて、それで...一方的に話して終わっちゃうのがほとんどだから。こうしてLINEとか使えるなら、LINEで美咲ちゃんと話したい、いいかな?』

美咲はいいよのスタンプを押すとともに言った。

『話すのが苦手だったら、目の前に私がいてもいいから、LINEで会話しても全然OKだよ』

そう言ってくれた美咲に京香はほっとした。

そして美咲は京香に言った。

『そろそろ、帰ろっか。明日は保健室来る?よかったらそれもLINEで知らせてくれると嬉しい』

京香は椅子を元の場所に戻して言う。

『うん、LINEする』

2人は誰もいない教室を出て、帰路につくのであった。

次の話は、ダイゴ・ジェームズくんが夢のために奮起する話である。

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