【2】最悪な相性
6
◇◇◇
―king不動産・本社営業部―
「修おはよう」
「公平おは……、あれ? お前昨日と同じネクタイじゃん。またホテルから出社かよ」
実は修には誰にも言えない秘密がある。いまだに未経験なのだ。中学の時からそれなりにモテたし、友人の誰よりも早く彼女はいたけど、最後までしたことはない。
男として不完全な体だとか、女性に性的な欲望を抱かないわけではない。修には修なりのポリシーがあって、古くさいかもしれないが運命の女性としか絶対にしないと決めていた。
だから今まで付き合った彼女とは、キスはしてもそれ以上の関係を迫ることもなく、一方的に暴走したことはない。
大学に入学すると周りの友人は競うように初体験を済ませ、オトナの男になった。早い者は高校で卒業した者もいる。
大学を卒業し就職した途端、公平は頻繁にホテルから出社。最近は会社のロッカーに何本かネクタイを忍ばせ、会社でチェンジするほど用意周到なくらいだ。
修は友人と話を合わせるために、当然経験者ということになっている。
早い話、友人に嘘をついてるわけだ。
二十四歳でいまだに未経験だなんて、みんなに負けたみたいで気恥ずかしいから。
そしてやっと巡り会えた理想の女性。同じ会社の経理部所属の
色白で二重瞼で瞳は大きくキラキラしている。長い睫毛はクルンと上を向き、小さくて愛らしい唇。ストレートのロングヘアは歩くたびにサラサラと風に靡きシャンプーのコマーシャルのモデルのようだ。
百パーセント修のストライクゾーン。理想の女性を絵に描くとしたら、間違いなくキャンバスに美波を描くだろう。
美波が入社した時、あまりの美人新入社員に未婚の男性も既婚の男性も誰もが瞳を輝かせた。
修もその一人だった。どうしても彼女に近づきたくて、修は新入社員の歓迎会で司会を務め、得意な歌まで披露した。
その甲斐もあり彼女と話すこともできた。彼女はとてもロマンチックで学生時代は天文サークルに入っていたらしい。修は星も月も宇宙も全く興味はないが、彼女との会話を盛り上げたくて、その後、ネットを検索し、天文学や宇宙や異次元の知識を脳内にインプットした。
その甲斐もあってか、見事彼女のハートを射止め秘密の社内恋愛はスタートした。美波は恋に恋をするタイプで乙女ゲームや推しのアイドルにハマッていた。
いずれは結婚前提の交際を申し込み、念願の初体験をすませる。修の計画ではそうなるはずだった。
(――あいつに逢うまでは……。)
◇
真夏の陽射しは夕方になってもジリジリと肌を焦がし体は汗ばみ、ワイシャツが体に張り付く。
公平の首筋にはキスマーク。最近の女性は随分積極的だ。男にキスマークをつけるなんて。それともよほど独占欲が強いか、遊び慣れている女性なのか。
合コンに興味はないが、今日は公平に誘われて人数合わせの合コンに参加するはめになった。
修が美波と社内恋愛をしていることは親友の公平にも話していない。即ち、公平は修には特定の彼女がいないと思っている。
合コンだと正直に美波に話すこともできず、『今日は大学時代の友人と飲みに行くから遅くなる』とだけ伝えてある。
合コンの相手は名門私立桃華女子大学のOG。セレブなお嬢様たちだ。公平の恋人は桃華女子大学の教員だ。
お嬢様大学のOGなのに公平の首筋にキスマークをつけるなんて、どんな女性なのか一度逢ってみたい。
単なる好奇心で変な下心はない。美波がいれば修は他の女性になんて興味はないし、公平の頼みを断れなかっただけ。
公平は今日のために城楠大学のOBの中でも証券会社勤務のエリートやIT企業の若き社長もいる。king不動産会社は修と公平の二人だけだ。
修はお嬢様たちがどんな会話を交わすのか、どんな仕草をするのか、一般人とセレブなお嬢様が合コンでカップル成立になるのか、この目で確かめたかった。
もうすぐ美波の誕生日、その日に結婚前提の交際を正式に申し込み、修の記念すべき日にすると勝手に決めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます