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「女性と遊ぶのは自由だけど、男性との交際は禁止するわ。正史さんの他に男性と付き合うなんてもってのほか。あなたは結婚しても桃華学園の後継者に変わりはないのよ。一般人ではないという自覚とプライドを持ちなさい」
「はいはい、今日は友達と約束があるの。だから遅くなる。三田さんとは婚約する。それまで自由を満喫してもいいでしょう。それも禁止するなら婚約はしない」
「親を脅すの? わかってるでしょうね、節度は守りなさいよ」
呆れ顔の母親は校舎に入り理事長室に向かった。美梨はそのままトイレに向かった。職員用のトイレのドアを開けた途端、姫香に抱きつかれた。
「おはよ、美梨〜」
「やだな、気持ち悪い。驚かせないで。生徒が見たらどうするの。私は次期理事長、あなたは桃華女子大学の教員なんだから。学内ではタメ口で話しかけないで」
親友の姫香は大学卒業後、教員としてこの大学に採用された。美梨が真っ先にトイレに逃げ込むのは少しでも母親から離れていたいからだ。
姫香は美梨の行動がわかっているから、職員用トイレで待ち伏せをしていたのだ。
「わかってるよ。次期理事長様。生徒の前で親友は封印でしょう。今日は幸せのお裾分けをしてあげようと思ってね」
「メールでいいよ。どうせ今日の合コンでしょう。あれ? 姫香、昨日と同じ洋服じゃない」
「バレた? スカーフ巻いてアレンジしたんだけど、ダメか。生徒にもバレるかな? 最近の学生は目敏いからね」
「もしかして、昨日誰かの家に泊まったの? まさか、昨日も合コンしたの?」
「違うわ、今日の打ち合わせを
「馬鹿馬鹿しい。そんな報告しなくていいから」
「美梨、今日は大丈夫だよね?」
「恋人になったのに恋人と合コンする気? 懲りないね。彼も彼だわ」
「私達は幹事、公平が城楠大学卒のセレブなイケメンを揃えるから私にも美女を揃えて欲しいって言うのよ。公平が張り切っているから恥をかかせたくないんだ。だからお願いね」
「張り切りたいのは、夜のためじゃないの?」
「やだなあ、あたり。連チャンもアリだよね。うふふ。公平は大手king不動産会社勤務なんだよ。営業成績もトップクラスなんだ」
姫香はにこにこ笑いながら、美梨にベタッとくっついて甘えた。甘え上手な女は可愛い。男なんてイチコロだ。
美梨だって甘えたい時に甘え、泣きたい時に泣き、怒りたい時に怒り、嫌なものは嫌と言いたい。親友にも本音を言えないんだから、あの両親に言えるはずはない。
本当は『政略結婚なんて嫌だ』
『三田ホールディングスなんてくそ喰らえ』そう言えたらどんなにスッキリして気が楽になるだろう。
◇
母親と一日中理事長室で過ごし美梨はやっと解放された。母親と学内で別れ、駅前のホテルのラウンジで姫香と待ち合わせをする。
化粧室で美梨はメイクを直す。アイシャドーは濃いめのブルー、口紅は赤だ。極めつけはこの日のために用意した金髪のウイッグ。
「美梨どうしたの? 今日はやけに派手だね。いつもはナチュラルメイクなのに。それに金髪ってちょっとやり過ぎじゃない?」
「城楠大学のOBでしょう。エリートぶって本音は清楚なお嬢様をお持ち帰りしたいだけの低俗な男ばかりでしょう。私は桃華女子大学の清楚なお嬢様のイメージをぶち壊してやろうかなと思ってね」
「次期理事長なのに随分過激だね。桃華学園の評価を落とさないでよ。参加者は公平の友人だからあまり冷たくしないでね。美梨は桃華女子大学の次期理事長なんだし、きっと一番人気よ。仲良くしてよね」
「仲良くはしないけど、姫香と彼氏の関係を壊したりしないよ」
「それならいいけど。なんか今日の美梨は不機嫌だからさ。嫌な予感しかしないわ」
美梨は両親のいいなりはもうウンザリだと思っていた。偽りの自分を壊したくて、今夜は別の女になると決めた。
バッグからラメ入りのピンクのマニキュアを取り出して爪に塗る。美梨の母親がこの姿を見たらきっと仰天するだろう。
そもそも合コンだと知ったら『下品な真似はやめなさい』と、激怒するに違いない。
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