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バイクを走らせ、約一時間後河川敷の駐輪場にバイクを停めて、土手に寝転がる。
夕暮れ時、空は燃えるような赤い色に染まっていた。
(私は何の為に生まれたんだろう。
中西の家のため? 桃華学園のため?
戦国時代じゃあるまいし、家のために政略結婚だなんていつの時代よ。)
それでも両親に逆らえない美梨はきっとこのまま、あの三田ホールディングスの御曹司のところに嫁がなければいけない。本当の恋をすることもなく、退屈な人生をただ惰性で生きるだけ。
ポケットの携帯電話が鳴り着信画面を見ると、桃華女子大学時代の親友、
「姫香、どうしたの?」
『美梨、明日暇? 明日ね、
(城楠大学? 名門私立大学のOBか。
だとしたら就職先もきっとエリートなんだろうな。あの姫香がエリート以外と合コンをセッティングするはずはない。)
家のために政略結婚をするのなら、せめてそれまでに燃え上がるような恋を一度くらい経験してみたい。両親への裏切り行為だとしても、自分の体は自分のものだと美梨は思った。
「いいよ」
『明日またメールで知らせるから。一応時間開けといてね』
「うん、ねぇ姫香。恋って楽しい?」
『やだ、どうしたの? 美梨だって彼氏いたでしょう。私達は恋をするために合コンするんじゃないわ。結婚相手を見つけるためにするのよ』
「彼氏なんていないよ。あれは片想いだよ」
『そうなの? てっきり彼氏だと思ってた。美梨は桃華学園のお嬢様なんだから、セレブな男性をよりどりみどり選べるでしょう。明日は数合わせの親睦ってことで宜しくね』
「わかった。またメールして」
(数合わせの親睦か……。何の親睦よ?)
男性は気にいった女性を持ち帰りOKだと思ってる。合コンとは名ばかりで体と体の親睦だ。姫香は恋人がいても簡単に体を開く。
寝転がり次第に色を変える空を見上げた。左手の指を空に向けて掲げると、白い指が夕陽で赤く染まった。
(私の赤い糸……。そんなものはいらない。)
運命の赤い糸は、親が勝手に結ぶもの。
結婚相手は両親が決めると、美梨は幼少期からずっとそう言われてきた。
(斬り裂くことが出来るなら、無理矢理結ばれた赤い糸を斬り裂きたい。)
◇
翌日、母親と一緒に学園に出向く。理事長である母親の仕事を学ぶためだ。婚約の話がトントン拍子に進み、ベンツの後部座席で母親は朝から上機嫌で薄気味悪いくらいだった。
「お花やお茶、着付けや英会話ももう少し勉強しないとね。そうそう社交ダンスもね。あちらはパーフェクトな女性をご希望なんだから」
「そのうちね。まだ婚約してないんだから、いいでしょう。逢ってもないのに、私を束縛しないで」
「わかったわ。でも就職してないんだから、習い事くらいはしてもらうわよ。三田ホールディングスの御曹司に相応しい女性になってもらわないと、破談になってしまうと困るんだから。こんな良縁は二度とないのよ」
それは両親にとっての良縁で、美梨にとっての良縁じゃない。車は学内の駐車場に停車する。運転手がドアを開け、母親が降り美梨もあとに続いた。
「美梨、今日は真っ直ぐ家に帰りなさい」
「今日は無理、友達と約束があるの」
美梨が言葉を言い終わらないうちに、母親の表情が険しくなった。
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