とある少年の起点 その1

~???視点~


 おっ、ようやく一人目か。


 僕は目立たない場所の椅子を陣取り、とある光景を観察していた。



「兄ちゃん、やったね!」


「うぉー!」


 嬉しさを咆哮にのせて喜びを全身で表しているスキンヘッドのいかつい男。そして、横にはそのスキンヘッドの男と瓜二つの顔を持つ人物が自分事の様に喜んでいた。



 あの二人はこのスラム街では有名な双子。確か……ザックサック兄弟だったか?


 兄のザックが剣使いで、サックが槍使い。


 あの二人から繰り出される連携攻撃は常人では防げるものでは無く、ザックサック兄弟と対すると、血まみれになりやられてしまう事から付けられたあだ名が血まみれのザックサック。


 あの二人相手に互角以上に戦えるのはこの辺では、ネイキッドぐらいだろうな。


 ネイキッド。


 彼はスラム街でファム・ムーの次に名が知られている男だ。


 強さという観点からしても、頭一つ飛びぬけていると思うが、何よりあいつは頭が切れる。


 僕も並大抵のことなら笑って誤魔化せる自身があるが、ファム・ムーとネイキッド相手だとそうもいかないだろう。



「じゃあ次は……」


「お、俺です!」


「サック! お前ならいけるぞ!」


 兄の番が終わり、次は弟の番のようだ。


 ザックの方が合格という事は、サックの方も合格になるだろうけど。



「やったなサック!」


「良かったよお兄ちゃん!」


 案の定、僕の予想を反せずサックも合格を貰っていた。



 やっぱりな。あの二人が合格しなかったら誰が合格できるんだと言いたくなるところだった。


 別に二人が合格できなくても僕には関係ないけど。


 

 僕は注目の二人が立ち去ると、貴族様から目を背けた。


 はぁ、それにしても何でこんな所に来ちゃったんだろう。


 兵になんてなるつもりもなかったのに……


 僕は心底嫌そうに手を顔に当てた。



 いや、来た理由は明確じゃないか。


 めんどくさがり屋で、簡単には動こうとしない僕。


 そんな僕がこんな物騒な場所に来たのは……



 母さんに働く気が無いなら家を出て行けと言われてしまったからだ。


 

 僕はスラム街で生まれ、育ちもここの純スラム街の人間。


 親は物心ついた時には母さんだけで、一人だけでここまで僕を育ててくれたとても大切な人でもある。


 そんな母さんに言われてしまったのだ。


 働く気が無いなら家を出て行けと。


 僕は衝撃を受けた。


 今まで2食昼寝付きの生活を送らせて貰っていたのに、急に家を出て行けと言われたんだからな。


 もちろん、自分が悪いのは分かっている。


 18になるまで働かないで、家で自堕落な生活を送っていたのだから。


 でも、あんまりじゃないか。


 こんな可愛い息子を急に家から追い出そうとするなんて。


 まぁ、可愛い子には旅をさせよとか何とか言われているし、母さんもそんな思いで言い出したのかもしれないが。


 せめて20まで……そうすれば僕も……はぁ。今更考えても無駄だな。



 今はその事についてある答えを出したから、考えるのを止めているが、前の僕はそれはもう必死に考えた。


 どうしたらこの生活を死守できるか。そして、どうやったら母さんの満足のいく答えを出せるのかを。



 まず、大前提として、僕は絶対に働きたくない。


 好きな事をして生きていきたいし、極力楽をしていきたいから。


 だからと言って、このまま働かないで家に引きこもっていると、いつかは追い出されてしまうだろう。



 こうして、僕が悩んでいるとき、ある噂を耳にしたんだ。

 

 その噂とは、貴族様がスラム街の住人を兵にするという話。


 僕も最初は嘘だと思った。


 スラム街の住人は忌むべき者たちで、一般市民からはとても嫌われている。


 それはそうだろう。一般市民が払った税金で町の運営が行われているのに、スラム街の住人はそんな金を少しも出さずに、町の一角で我が物顔をしながら勝手に住んでいるのだから。



 そんな嫌われ者たちが貴族の兵として雇ってもらえる?


 僕はその噂を笑い半分で信じていなかった。


 だが、噂が次第に大きくなり、もしかしたらと考えていた時だった。

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