厳選 その2

 こうして、アルスが黙々と鑑定をし続ける事、一時間。



「次の者。来てくれ」


 あれから数十人を鑑定したが誰一人、アルスの合格を貰える者は出ず、皆が諦めかけていた時。


 

 うん?


 これまで通りに鑑定しようとしたアルスがとあることに気づく。



 この男……


 身長は170に満たない位。スキンヘッドで体型は丸め。だが、無駄な肉という事では無く、腕や足の筋肉が張っている様子から、使える筋肉なのだろう。


 しかし、俺が気を引かれたのはそういう事ではない。


 後ろの男との関係だ。



 アルスはその男の後ろに居る者を見ようと、右に体を傾けると、そこには目の前にいる男と同じ顔と体型をした者がもう一人いたのだ。



「貴方の名は?」


 アルスは興味が湧き、声をかける。



「俺か?」


 その男は自分を指さす。



「そうです」


「俺はザック」


「後ろの者との関係は?」


「双子だ! こいつはサック」



 まぁ、そうだろうな。まんまそうだもんな。しかも、名前まで似てるし……


 ザックとサック。見た目と名前まで似ていて、困惑するアルス。



「それで……どちらが兄なんだ?」


「俺だ」


 そう答えるのはザック。


 なるほどな。ザックが兄で、サックが弟っと。


 見た目からじゃ分からないから、名前を呼んで判断すればいいか。


 って……まだ採用すると決まったわけじゃ無いのに、なに真剣に悩んでいるんだか。


 ひとまずは鑑定だ。


 アルスはザックへと顔を向け、鑑定をする。



 名前 :ザック

 

 武力 :62/75

 統率 :32/70

 剣術 :62/75

 槍術 :27/52

 騎術 :16/73

 弓術 :07/31

 盾術 :42/75

 体術 :40/70

 隠術 :03/20

 

 智力 :04/32

 政治 :02/28

 魅力 :22/49

 忠誠 :50

 野望 :35


 突破 :0/2

 成長 :B



 おっ……


 半分諦めかけていたアルスの目に光が戻る。



 これまで落とした奴の中には武力の成長限界が70を超えている者は誰一人いなかった。


 それに加え、突破限界数が1の奴が大半だったし、成長値は良くてCだった。


 でもザックは違う。


 武力のステータス限界値が75に統率も70までいける。


 智力値が低いのが少しネックだが、突破も2あるし、成長値もBある。


 アルスはうんうんと2回、首を縦に振り、ザックへと顔を向けると。



「うん。合格」


「ほ、本当か!」


「兄ちゃん、やったね!」


「うぉー!」



 スキンヘッドの強面男二人。ザックとサックが笑顔を見せながらその場で飛び跳ねている。


 アルスはその光景に不気味さを感じながらも、やや引きつった笑顔で小さく拍手をする。



 これでやっと一人目。まだまだ先は長い……


 と思っていたのも束の間。



 名前 :サック

 

 武力 :62/75

 統率 :32/70

 剣術 :27/52

 槍術 :62/75

 騎術 :16/73

 弓術 :07/31

 盾術 :42/75

 体術 :40/70

 隠術 :03/20

 

 智力 :04/32

 政治 :02/28

 魅力 :22/49

 忠誠 :50

 野望 :35


 突破 :0/2

 成長 :B

 


 おぉ……


 弟の方も優秀だったらしく。


「合格」


「やったなサック!」


「良かったよお兄ちゃん!」



 また、別の人も……


「君も合格」


「本当ですか!」



 またまた別の人も……


「君も――」


「よっしゃ!」



「君も――」


「バンザーイ!」


 怒涛の合格ラッシュが巻き起こったのだった。



~それから残り数人~


「もうそろそろ終わりですね」


 エバンは疲れ果てたアルスを元気づけるために、屋敷から持ってきていた飲み物を準備していた。



「アルス。まだ終わりじゃないのかい?」


 ミネルヴァは変わらない光景に飽きたのか、壁に体を預けながら何処からか取り出したお酒を飲む。



「もう終わりますから、あと少しの辛抱です」


「ミネルヴァさん。アルス様の従者なら、皆のお手本になるように姿勢を正して警備に励んで……そのお酒はどうしたんですか! 没収です!」


「ちょっ、止めな! 殴るよ!」


「もう殴ってます! ほら、抵抗しないでお酒をこちらに……」


 アルスは毎度の事に慣れたのか、二人に目を向けずに鑑定眼鏡をかけ直すと。



「はい次の方」


 慣れた手つきで鑑定へと戻っていくのだった。



「次は私ですね」


「貴方は……」


 アルスの前に現れたのは、最初の騒動を収めてくれたバンダナの男。



「あの時は助かりました」


「いえ、当然のことをしたまでです」


 

 言葉遣いは丁寧。


 この男のお陰で問題も解決したし、気になっていたんだ。


 アルスには好印象の模様。


 他の者にした方法と一緒で、鑑定を施す。



 名前 :ネイキッド

 

 武力 :66/80

 統率 :41/78

 剣術 :66/80

 槍術 :32/72

 騎術 :11/73

 弓術 :12/44

 盾術 :38/62

 体術 :49/71

 隠術 :32/69

 

 智力 :38/65

 政治 :26/54

 魅力 :52/78

 忠誠 :65

 野望 :52


 突破 :0/2

 成長 :B


 

 うん。文句のつけようがない。


 アルスはネイキッドに笑みを見せる。



「合格です。お名前を伺っても?」


「ネイキッドです」


 二人は意思が通じ合ったかのように、どちらからともなく手を差し出す。



「これから一緒の仲間としてよろしくお願いします」


「はい。頑張ります」


 そして、二人は固い握手を交わす。



 それからアルスは残り数人の鑑定を終え。


「もう、全員終わったかな」


「その様です」


 まだ、鑑定を終えていない者がいないか辺りを見回す。



 列に並んでいる人はもういないし、これで終わりで……あれ?


 一階、そして二階へと視線を変えていきながら鑑定し忘れが無いかを確認していた時、不自然な行動をした人物に意識がいく。



 あの人……俺と目線があった瞬間、顔を逸らしたぞ。


 アルスが注目したのは1階、奥側にひっそりと置かれた椅子に座っていた少年らしき人物。


 

 さっきまでの記憶を探っても、あの人に似た人物を鑑定した覚えがない。


 

「なんか怪しいな……ミネルヴァさん」


「おっ、やっと終わったかい。それじゃあ、さっさとこんな場所とはおさらばして……」


 ミネルヴァはやっと帰れると思い、壁から離れる。



「まだです。実は――」


 するとアルスがミネルヴァを呼び止め何かを話す。



「――すればいいんだね。待ってな」


 そうして、アルスはお願い事をすると、一つ返事でその場からいなくなるミネルヴァであった。

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