絶対絶命:エバン視点 その2

 あれからどのくらい経っただろう……


 既に身はボロボロ。体の至る所に小、中の傷ができ、肩で息をする始末。


「ここまでしぶといとは……」


「隙を与えるな。相手は既に虫の息。攻め続けろ」



 エバンのしぶとさに敵も油断しないまま、最後まで手を抜かない猛者がまたも猛攻を浴びせる。



「はぁ、ぜぇ……」



 まだか……? 


 いつ来るか分からない、希望にすがりながらギリギリの所で命を繋いでいく。



 右……顔横。斜め……


 最小限の動きで回避し、避ける事が難しい危険な場面では剣で受け止める。



 しかし、相手の攻撃を躱すと同時に、エバンの気力も徐々に減少していき……


 

 次は……っ! 


「くっ!」


 足元の注意が疎かになっていた瞬間。いつもなら気にすることもない、小さな突起に躓く。


 

 はやく……はやく立たないと。


 そして、膝をついたエバンの元に敵が迫り。


「これで最後……」



 間に合わない! あぁ、これで本当に終わりか……


 首元めがけて剣を引いた次の瞬間。



「死ねぇ……ぐっ!」


 突然、敵の攻撃が止まる。



 一体……何が?


 何故私は死んでいない?


 エバンは朧気に見えていた視界が段々とクリアになっていくと共に。


 信じられない事を目の当たりにする。



 ……敵の首から剣が生えてる。


 エバンの視界に映るのは、既に事切れる敵の姿。


 そして、その者の頭と胴が別れ、後ろからある人の姿が見えた。



「あ……が……」


 奇跡ともいえる光景に声が出ないエバン。



 これは……現実か?


 目を疑うような光景。ついさっきまでは明らかに劣勢だったはずだったのに。


 痛みなど忘れて、ただただ茫然としているエバンの目の前に。


 

「エバン。よく耐えたな」


 エバンにとっての救世主。そして、自身の目標として掲げている人物。



「あとは俺に任せろ」


 アルス様に似ている。いや、アルス様が似ていると言った方がいいのだろうか。


 そんな太陽の様に輝く男。アルザニクス家当主であり、王国騎士団2番隊、隊長。ガイル・ゼン・アルザニクス。これまで出会った中で一番強い男がエバンの元へと現れたのだった。




「お、お前は!」


 敵はガイルを見た途端、明らかに顔色を変える。


「いち、にー、さん……全員で7人。一人相手にこんな大人数で戦うって、それでもお前らは男か?」


 ガイルは倒れている者、立っている者を数え、呆れ果てた顔で言い放つ。


「男なら正々堂々と一対一で……「そいつは後だ! あの男を殺せ!」っておい。話を……」


 エバンを追い込んだ強者である一人の敵がガイルへと接近する。


 そして、剣を肩に乗せたままのガイルに得物を突きつけようとした次の瞬間。


「最後まで聞け!」


 一瞬にして相手よりも早く振られたガイルの剣が相手の肩に触れる。


 そして……


「がはっ!」


 豆腐を切るかのように簡単に、敵を斜めに両断する。



 何てでたらめな力……


 仲間のエバンでさえも冷や汗が出てくる程の圧倒的力。



 これが王国トップクラスの実力か。


 一振りで戦況を覆したガイルのオーラに圧倒され、昔感じた壁をまたも感じるエバン。



「おい。何してる。次、早く来い」


 恐るべき力を見てしまった敵の足は止まり、ガイルは早くしろと手招きする。


 すると敵は二手に分かれ、ガイルの右と左に展開する。


「そんなことをしても無駄だ。せめて仲間を呼んで数で圧倒しな……「はぁ!」」


 またもガイルが話している途中に、攻撃を仕掛ける敵二人に対し、ガイルはつまらなそうな顔をしながら……


「「っ!」」


 一人は剣で防ぎ。もう一人の方は素手で武器を掴む。


「す、素手で……」


 そして相手が動揺している隙に。


「ふん!」


 くるんと横に一回転するように剣を振り、敵の上半身と下半身を両断したのだった。



「ば、ばけも……の」


 人間ではない何かを見るような目で死んでいく襲撃者たち。



「化け物ってなんだ。まったく……こいつら相手よりも、まだお前を相手にしていた方が楽しかったよ」


「は、はは……」


 慰めにもならない言葉。


 しかし、ガイルの何気ない一言で自分は窮地から脱した事を実感する。



 あぁ、私は生き残ることが出来たのか。


 傷だらけになった両手、上半身、下半身と視線を下げていきながら、ホッと一息ついた時。



「……エバン。アルスはどうした?」


 アルスを探してか、あちこちに視線を向けるガイル。


「っ! そ、それが!」


 窮地に立たされているのは自分だけじゃない事を思い出したエバンは、ボロボロになった体を無理やり動かし、簡潔に説明する。



「っ! お前はここで休んでていい! 俺はもういく!」


 すると、ガイルはすぐさま体の向きを反転させ、常人では考えられないようなスピードで駆けていく。


「わ、私も! うぐっ……」



 体が思うように動かない……まるで数十キロの鉛を背負っているかのように。


 痛みにより苦痛の顔を見せたエバン。しかし、尊敬する主の為、自分の助けを求めているアルスの為に、もうすでに力を出し尽くしたはずの体を動かし、ガイルの後を追うのだった。

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