絶対絶命:エバン視点 その1
~アルスが別行動する少し前:エバン視点~
「エバン。周囲の警戒を頼む」
「はい」
先ほどまで動揺しっぱなしの私だったが、アルス様の命を受けた途端、思考がクリアになっていくのを感じた。
アルス様を助けに来たのはいいものの、活躍するどころか、足を引っ張ってばかり。
私よりミネルヴァさんの方がアルス様も心強かったのかもしれないなと何度も思い悩みながらも、今の自分に出来る事を探そうとしていた。
しかし、今の私には重要な任務がある。
さっきまでの自信がない自分では駄目だ。もっと緊張感を持って行動しろ。
エバンは今までの悔いを改め、小さく一呼吸をし、自身に喝を入れる。
アルス様は周囲の警戒を頼む、と私に言った。恐らく、呆然としているキルク王子をどうにか説得し、私達と共に、速やかに脱出しようとしているのだろう。
周囲へと警戒を張り巡らせながら、アルスが視界に入り、尚且つ、見晴らしがよく、自身が隠れられる場所を慎重に探っていく。
あそこが良いな。
テーブルや椅子が散乱する脇の物置のような場所。そこに狙いを定める。
よし。ひとまずはここでいいだろう。
周りが見渡せるし、すぐにアルス様の助けにも入れる。これなら……
エバンは上手く物置の隙間に腰を落ち着け、じっと周囲を警戒し始めたその時。
っ!
数人の足音がアルス達へと近づいているのを感じ取る。
距離は?
まだそこまで近くはない。だが……確実にアルス様がいる場所へと向かっている。
敵の増援か。
敵が向かっていると結論付ける。
どうする? アルス様たちと合流するか?
無理だ。ここから二人を連れて移動するとなると絶対にバレる。
それに、この足音の量からして相手は5人以上。その人数を相手に、二人を守りながら逃げられるとは考えずらい。
悩んでいる間にも魔の手は徐々にアルス達へと迫ってきている。
……仕方ない。私が敵を引き付ける。これしかない。
エバンは一緒に逃げてもいつかは追いつかれると考え、自身がおとりになる事を選択する。
今から敵が近くにいる事を知らせに言ってもバレるだけ。
それならば……
エバンはある方法を思いつく。
アルス様なら私の意図を察してくれるはず。
エバンはじっと息をひそめながら、物陰から敵の様子を伺い、丁度自身が隠れている物置の目の前を敵が通った瞬間。
「っ! グハッ!」
物陰から姿を現し、一番後ろに居た敵の背後に近寄り、剣を突き立てる。
まずは一人。あとはこのままアルス様たちを逃がすのみ。
そしてエバンは剣を引き抜きながら大きく息を吸い込み。
アルス様に届く声量で。
「さぁ! こっちです!」
交戦し始めたことをアルスに知らせるべく、わざと大きめに声に出して敵を引き付ける。
「っ? 敵だ! そいつを捕まえろ! 無理なら殺してもいい!」
エバンは敵に剣を向けながらも、一瞬視線をアルス達へと向け。
アルス様は……ちゃんと気づいてくれたな。
キルクの手を引き、その場から逃げ始めたのを確認する。
「敵は一人だぞ! 囲め!」
敵はエバンを囲むように散開し、徐々に距離を詰めていく。
相手は7人。内2人は手ごわそうな相手だ。
相手の構えや動作から強さを判別し、強いと感じた2人により注意しながら小さく息を吸う。
「はっ!」
そして、息を吐くと同時に連携が甘い右斜めの敵へと詰め寄り。
視線が甘い。
ガイルとミネルヴァにさんざん言われた視線移動を完璧に読み取り、相手のガードが甘い脇へと剣を滑り込ませる。
「うぷっ」
まず一人。
そして次々と弱い敵から順に一対一の状況を作り出し、各個撃破していく。
「お前たち。集まれ」
気づかれたか。
4人目を撃破した時、一人の猛者が集まるよう指示を出す。
集まられると厄介だ。それならば!
乱れた息を荒く吐くと、血でべったりになった剣を横に振り、血を飛ばしながら集まり遅れている敵へと駆ける。
「はぁ!」
そして、防御が遅れた敵に一撃を浴びせようとしたその時。
「させない」
カキィン!
「くっ!」
間に割り込んできた猛者に受け止められ、後ろへと飛んで下がる。
少し遅かった……っ!
下がった地点にはもう一人の猛者が距離を詰め、エバンへと薙ぎ払い。
それを地に手を付きながらギリギリでよけるエバンだったが。
「これで最後!」
これはっ! 受け止めるしか……
体勢が悪い所へと的確に狙いを定め、剣を振るってくる相手。
それを右手に持つ剣を瞬時に体の中央に移動させ、両手で上からの猛威に立ち向かう。
ガキィン!
全体重がかかる攻撃を背を地面に付きながら、両手で剣を支える。が、徐々に押されていく。
「くぅ……」
駄目だ……力負けする。
目の前に迫る脅威。それだけでも絶体絶命のエバンの元に。
右からも!
目の前の敵の他に、視界の右からも敵が迫る。
わ、私は……ここで終わりなのか?
戦闘中のエバンの脳裏にアルスが浮かぶ。
いや、まだだ!
その瞬間、湧き出る力を左腕に集中させ、鍔迫り合い状態の敵を右側にへと押し倒す。
「なに!」
そこに走り込んできていた敵と倒れ込む敵とがぶつかり、命を繋ぎとめたエバン。
「はぁ、はぁ……」
だが、支払った代償は小さくない。
両手の感覚が鈍くなってきた。呼吸も整えられない。
思考能力も低下し、口で息をする。
このままだとじり貧になって最後にやられる。
「集まって攻めるぞ」
相手はもう一度集まり、疲れ果てたエバンへと迫る。
最後まで諦めるな。何か流れが変わる時まで……
それからというもの、エバンは短くて長い、そんな苦痛の時間を致命傷は負わないように耐えしのいでゆくのだった。
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