襲撃 その3

 アルス達が慎重に行動する事数分。


「ここから侵入したんだ」


 ミネルヴァに案内されてきたのは、1階にある食事会の会場を一望できる2階のせり出した場所に存在する、大きく破壊された痕跡が残る窓際であった。



 な、なるほど。ミネルヴァさんも侵入者たちと同じ方法で侵入してきたのか。


 アルスは侵入方法に驚いていたものの、こうすれば良かったのかと自分の考えのなさに失望する。


「時間が惜しい。さぁ、私につかまりな」


 ミネルヴァが真剣な面持ちで両手を広げる。


「え? 一体どういう……」


 その行為に理解が及ばないアルス。


 

 ミネルヴァさんたちはこの窓から会場に侵入したと言ったよな。と言うことは、この窓から外に脱出するはず。


 するとアルスにある一つの疑問が浮かぶ。


「二人はどうやってここまで来たんですか?」


「そんなの……なぁ」


「えぇ」


 ミネルヴァとエバンが怪しげな顔で頷き合う。



「ま、まさか……」


 アルスは一つの考えに行き着いたのか、素早く窓の外を覗く。


「ひ、ひぃ!」


 するとそこにはマンション3階分に匹敵する高さの光景と、あるモノがないという確信が得られた。


「もしかしてロープ無しでここまで登ってきたんですか!?」


 二人は正解だという言わんばかりに笑う。



 そうだったんだ。この二人は既に化け物の仲間入りをしているんだった……


「どうしたんだい? さぁ」


 ミネルヴァの圧に、アルスはその場から後ずさりし、深呼吸を挟むと。


「ここから飛び降りたり……しませんよね?」


 恐る恐るミネルヴァへ声をかける。


 するとミネルヴァは返事を返すことなく、窓の外を見ると、ただ一つ。ニコリと笑みをアルスへ向ける。



 やばい。この人本気だ。


 3階相当の高さから飛び降りる……それすなわち、常人では骨折以上の事態に陥るということだ。



 いや、ミネルヴァさんたち、超人に抱き抱えられて飛び降りるのなら無傷で済むのだろう。しかし、理屈が分かっていても、本能はそれを許すまいと警告をならし続けるのが人間というものだ。


 体が飛び降りることを嫌がり、鳥肌が立つ感触を覚えながらも、他に何かいい方法は無いかと考えていた時。



「きゃあー!」


「悲鳴?」


 一階から女性らしき悲鳴がこだまする。



 女性の悲鳴? 何か嫌な予感がする……


 アルスの勘が違和感を覚える。



 俺の勘が当たっていなければいいが……


「アルス?」「アルス様?」


 アルスは悲鳴が聞こえた瞬間、体が勝手に動いたかのように一階が一望できる地点まで走っていくと、体を乗り出し、悲鳴が聞こえた方へと視線を向ける。



 あれは……


 アルスの視線に映るのは、明らかに劣勢な血まみれの兵数人と、じわじわとその者達へと近づいていく侵入者と思われる者達。



 何かおかしい。さっき聞こえたのは女性の悲鳴。しかし、俺の目に映るのはボロボロになった兵士数人だ。


 アルスは何か見落としていないかと、その者達がいる周辺を見て探る。



「アルス様! 急にどうしたんですか?」


 遅れてエバンがアルスの元へと駆けよる。



 まて、何故兵たちは逃げ場のない難しい場所へ逃げ込んだんだ? 


 あの侵入者たちに追い詰められた。という可能性もあるだろう。しかし、あいつらは何か明確な目的を持ってこの会場を襲撃したはずだ。


 探せ……俺は何を見落としている?



「アルス様?」


 真剣に考え込むアルスをよそに、エバンはアルスの肩を手を掴み。


「ここは危険です。すぐにアルス様を連れて戻ってくるよう言われているんですから……。それに、あの襲撃者たちに狙われたらいくら私たちがいても守り切れる保証は……」



 狙われる……? 


 あっ! そうか!



 エバンの一言で、アルスは重大な事実に気がつく。


「エバン! ミネルヴァさんはお母様を連れてもう脱出したか?」


「え、はい。先に脱出して待っていると……だからアルス様も早く……」


「すまないエバン。あと少しだけ働いてくれるか?」


「はい? もちろん、脱出した後にいくらでもいう事は聞きますが……」


「違う。今だ」


「え? どういう事ですか……」


 アルスはもう一度、兵たちの状況を確認する為、視線を一階に向ける。


 

 すると数人の兵がボロボロになりながらも攻撃を仕掛け、撃退されている最中であった。



 兵が半分以上倒れている……! くそっ、もう時間が無い!


 かくなる上は……



 アルスは何かを決意し、急いでエバンへと近づき、腕をエバンの首へと潜らせる。


「何をしているんで……「エバン! ここから一階へ飛べ!」」


 そしてアルスは焦りの表情を見せ、叫ぶ。


「え……」


「いいから!」


 するとエバンは何かを感じ取ったのか、アルスの体をお姫様抱っこするような形で抱き上げると、近くにあった椅子に足をかけ。


「……行きます!」



 素早く行動へと移す。



 絶対に下は見ないぞ……


 アルスは目をつぶり、神に祈る。



 どうか神様。私がこの高さから飛び降りても怪我しませんように……


 アルスが祈りをささげた瞬間。

 

「う、うわぁー!」


 体が上へと持ち上がったのかと感じた次に、心臓が浮かぶ現象がアルスを襲う。



 こうして、エバンは持ち前の身体能力と、アルザニクス家で鍛えた体を駆使し、常人ならば骨折は免れないであろう高さからアルスを抱きかかえながら飛び降りるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る