襲撃 その2
よし。ここからだ。
ガイルが事態の収拾に向かったのを確認したアルスは、ここで自分に出来ることは何もないと考え、サラと一緒に避難しようと歩き出す。
「お母様! こっちです!」
「あ、アルス?」
お母様が動揺してる……
無理もない。お母様は武力の争い事には疎い。ここまで荒れた場に鉢合わせるのは滅多に無かったことだろう。それに先ほどまでは心強い味方がいた。しかし、今は頼りなく見える俺しかいない。
武に関してはいまいちだと自覚しているアルスは自身が頼りないと思い、弱気になる。
ハッ!
するといつの間にか弱気になっていた事に気が付いたアルスは強めに自分の頬を両手ではたき、喝を入れる。
いいや、なにを弱気になっている俺!
お母様を危険な目にあわせないと誓ったばかりじゃないか!
そしてアルスは少し強めにサラの手を取り、自分達が入場してきた通路。脱出口へと向かう。
「ひどいわ……」
サラが悲し気に言葉を吐く。
周りは椅子やテーブル等が倒れ、所々で兵が交戦をしている。貴族たちを逃がすため、時間を稼いでいるのだ。
今の俺ではお母様一人を守るのに精一杯。
目立たないよう、物陰に隠れながら目的の場所まで向かうアルス。
「あ、あれは……」
くそっ、こんな時に。
目の前の光景に絶望するかのように呟く。
視界に映るのは大勢の人。その者たちが集まっているであろう場所にはこの会場から外に繋がる2つの通路の内の1つがあるはずだ。しかし、今は多くの人の身体が邪魔で目標物は見られない。
そしてもう1つの脱出口は王族専用。今頃王子たちは脱出を終え、その道はかたく閉ざされているだろう。
つまり、王族以外の者が会場から脱出するにはこの通路を使うしかないのだ。
そうなると自然と、唯一の通路に人が大勢押し寄せる事となり、今のように人が詰まってしまう状況が作られてしまう事となっていた。
本当にここ以外に脱出する経路は無いのか……
他の貴族は唯一の通路から脱出する為、我先にと人混みにアタックを仕掛けている中、アルスは他に脱出できる地点は無いかと周りを深く注視する。
反対側は……だめだ。侵入者と兵たちが戦闘を行っているし、何よりもう一つの通路は絶対に通れない。
アルスはサラに気を配りながらも考えることを止めず、何かいい案は無いかと必死に脳を回転させる。
ここにエバン達がいてくれればどれだけ頼もしかったか……
仲間がいれば取れる行動が変わるのにと思うアルスであったが、この場に居ない者を考えても仕方ないと他に何かないかと考え始めたその時。
「――さま!」
うん?
アルスは何か聞こえたのか、振り向く。
エバン……?
エバン達は外の馬車で待機してるはず。それか異変には気がついており、この場に駆け付けようとしているがこの人だかり邪魔され、当分来れないはずだ。
焦りすぎて幻聴でも聞こえてきたかな……
アルスはそう考え、小さく深呼吸を繰り返すとまたも思考に入る。
「―ス様!」
また聞こえた?
「心を落ち着かせろ……こういう時は慌てないで」
「アルス様! どこですか?」
これ……本当に俺の幻聴か? はっきりと聞こえるようになっているんだが……
アルスは自身の耳を疑い、周りを見渡していると。
「アルス。お迎えが来たわよ」
するとサラがアルスの肩を叩き、ある方向を指さす。
「あ……え……」
あ、あれは!
見慣れた黒髪に褐色の肌の好青年に燃えるような赤い髪の美女。その二人が揃って尚且つ、見覚えのある人達に見えるなんて偶然、滅多にありはしないだろう。
間違いない! あの二人だ!
「おーい! エバン! ミネルヴァさん!」
先ほどまでの深刻そうな顔とは打って変わり、無事問題が解決したかのような笑顔を見せ、大きく手を振るアルス。
エバンが気が付き、アルスへと走ってくる。
「アルス様! ご無事ですか!」
物凄い勢いで迫ると、アルスの体、隅々までボディチェックを始める。
「ちょっ、エバン。俺は大丈夫だから……」
「大丈夫なんかじゃありません! どれほど心配した事か……」
エバンの心配話が始まってしまい、苦笑をするアルス。するとそこへゆっくりと歩いて来たミネルヴァが。
「エバン。話したい事があればここを脱出してからにしな」
エバンの頭をはたき、サラのチェックを簡単に済ませる。
そうだ。二人はどうやってここまで来たんだろう。
エバン達が合流し、安心していたアルスだったが、どうやってアルス達の元へとたどり着いたのか気になり始める。
そんなキョトンとした表情を見て、何か読み取ったミネルヴァ。
まったく……といった様子でアルスへと近寄り。
「私達がどうやって会場に入ったのか気になってる顔だね?」
――ギクリ
図星を突かれるアルス。
「……あ「その話をしたいのも山々だけどね、ひとまずはここを脱出するよ」」
そうだ。第一優先はお母様を連れて安全にここを脱出する事。これが出来なかったら俺が生き残ってもどうしようもない。
既にアルスの中では家族が大事な存在となっているようだ。
「はい。お願いします」
アルスは頷き、ミネルヴァが先頭。真ん中に非戦闘員のアルスとサラが入り、最後尾にエバン。という布陣で唯一の入り口から遠ざかる方向へと歩き始めたのだった。
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