襲撃 その1
「いつの間に!?」
突然姿を現した侵入者の多さに驚きを隠せないアルス。
ここまで侵入を許していたのか。良く見ると給仕の格好をした者もいる。恐らくはそいつらが侵入の手助けをして2階の窓から会場入りを果たしたのだろう。
今回の食事会では貴族以外でこの場にいられるのは王国騎士団の兵と給仕だけ。例外は数人いるが、それ以外の者がこの会場へ入ろうとしたら外で警備にあたる兵が侵入を許さなかったはずだ。
アルスは給仕に敵が紛れていたのだと結論を出す。
そうだ! アメリアさんは?
アルスは焦った様子で周囲を探る。
すると……アメリアの父、ジーヴァがアメリアと妻のエルサを連れ、他の貴族達よりも先に避難を始めている事に気が付く。
良かった……ひとまず、アメリアさんは大丈夫だ。
緊張した状況の中、一つの懸念が解消されたことにホッとするアルス。
そして、肩の力を少し抜くと、ある事が気になり始める。
しかしなんだ? 弓での奇襲が失敗したから、なりふり構わず総力戦で決めにきたのか?
それにしては雑過ぎる気もする……
他に理由があり、侵入させていた者たちを動かして事をなそうとしているとしか考えられない動きだ。
こういうのは前世でのグレシアスでは良くあった。何か他の事に紛れながら本当の目的を遂行する事が。
非常事態にも関わらず冷静に状況を判断し、この場で一番安全だと考える場所。すなわち、ガイルの側を離れずに思考を続ける。
「お父様」
「どうした?」
お父様の表情が段々と曇っていっている。王族がいるこの場所で襲撃が起きたことに怒り、すぐにでもこの場の混乱を解決したいと考えているのだろう。
ここを離れ現場の事態を収束する為、指揮を執りたがっているガイル。しかし、ガイルの側には大事な妻と子がいる。
お父様は責任感の強い方だ。本当は今にでも武器を持ち、自ら侵入者たちを撃退したいはずだ。
だが、親として、夫としてのガイルがそれを許さない。騎士団としての誇りよりも家族の方が大事だからだ。
俺とお母様が襲われる可能性は限りなく低いだろう。襲撃者と目があってもこちらへ攻めてくることは無かったからな。だが、お父様はもしもを恐怖し、俺達の側から離れようとはしない。
それならばお父様にかける言葉はひとつ。
「ここは私だけでも大丈夫です。お父様はすべきことをなさってください」
アルスはガイルの気持ちを汲み取り、行動へと移す。
「しかしだな……」
ガイルが葛藤する間にも会場を守る兵が続々と集まり、貴族の警護や侵入者の討伐にあたっていくが、如何せん相手の数の方が多い。
徐々に相手に流れが傾いていっている。
そんな侵入者たちは何か探し物をするかのように辺りをキョロキョロしながら、会場を警備していた兵と戦闘を繰り広げていた。
『だっ、誰か!』『や、やめてくれ』『助けてくれ!』
決断が遅くなるにつれ、事態は徐々に深刻と化していく。
「お父様!」
「っ!」
自然と粗い口調でガイルを怒鳴りつけるアルス。
「……分かった」
ガイルは数秒の沈黙をしたのち、決断を下す。
「サラの事はアルス。お前に任せた」
それでいい……
ガイルは腰に携えていた剣を引き抜き、これまでの屈辱を返すべく、持つ方の手に力が入る。そして怒りの顔をし、その場を離れようとするがアルスがいた事に気が付き、いつもの優しい父親の顔を覗かせ、アルスの頭に手を乗せる。
そして視線はサラに向かっており、二人はうん。と頷きあうと。
「行ってくる」
「気を付けてきてください」
「……怪我だけはしないようにね」
ガイルは深く頷き、後ろ姿を見せると、歴戦の猛者としての自分へと切り替え、侵入者たちがいる方へと走り去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます