王都裏オークションの準備 その1

 王都裏オークションの開催当日。アルス達は王都の大通りを外れた場所にある、小さな酒場へとやって来ていた。


「アルス様。何故このような場所へ?」


 エバンは酒場を見渡しながら質問する。


「そう言えば話してなかったね」


 アルスはあちゃー、っと手を額にあてる仕草をし、皆へと振り向く。


「俺たちが今日、行こうとしているオークションは王都だと違法なんだ。だから王都の警備隊からバレないよう、人目につかない場所で開催される事になってて……」



 まぁ、警備隊のお偉いさんたちも王都裏オークションの存在自体は知っているが、偉い方たちの圧を受けて、仕方なく容認しているという感じだと思うけどね。


「まさか……、この酒場でオークションが開催されるのですか?」


「ははっ、そういう訳じゃないよ。ここはあくまで通過地点。ただ、ここがオークション会場へ入場するのに、一番人目に付かない場所かなって思ってさ」


 エバンの言葉に笑いを零すアルス。


「この酒場から会場へと繋がる通路があるんだろう?」



 流石ミネルヴァさん


「そうです。ミネルヴァさんは理解が早い」


 そう言って、アルスは酒場のマスターの近くへと席を移動すると。


「マスター、一番高い商品を4人分」


 アルスはマスターへ小さな袋を渡す。


「……確認した。俺についてこい」


 すると、マスターはアルス達を連れて酒場で提供してるであろう酒や食料などが乱雑に置かれている部屋へと移動した。


「アルス様。大丈夫なんですか?」


「あぁ、大丈夫。あの人の後をついていこう」


 アルスとエバンがマスターに聞こえない程度の声量で会話をしていると。


「ここだ」


 マスターは突然、本が所狭しと並んでいる棚の前で立ち止まる。


「何もなくないですか?」


 アルスが不思議そうに周りを見る。


「ちょっと退いていろ」


 マスターはアルス達を少し後ろへ行くように合図をすると、目の前にある棚を手前に引っ張り、右へとずらす。


「……すごい」


 するとそこに、地下へと続く階段が現れた。


 その光景に、アルス達が驚いていると。


「オークション会場の仕組みは分かっているか?」


 マスターはアルス達を気にする素振りを見せず、話を進める。


「一応、説明してもらっていいですか?」


「分かった。この階段は裏オークション会場へと繋がっている、数多くあるルートの中の一つだ。この会場では個人で出品していたり、商会が出品していたりと様々な奴らが品を売りに出しているんだが、基本的に買いたい物があったらそのブースを管理している者へと話しかけると売ってもらえるはずだ。もちろん、値切りや交渉もありだから、そこは好きにするといい。最後になったが、王都裏オークションの最大の目玉は、会場の中央で行われる大規模オークションだ。そこには国宝級の品が売りに出される事もあるから、出品される品を事前にチェックしておいた方がいいぞ。確か午後の7時から開始だったはずだ」


 マスターは興味なさげに口早に説明を終えると、アルス達に蝋燭に火がともった光源を差し出し、これを持って早くいけと手で催促する。


「ありがとうございます。じゃあみんな。行くか」


 アルスはエバンへと光源を渡し、先頭に立たせると、その後ろにアルス、ニーナ、最後尾にミネルヴァという順で、慎重に階段を下りていくのであった。

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