ミネルヴァの過去 その3

「アルスは今の私を見てどう感じる?」


「今のミネルヴァさんを見て……ですか?」



 美しくてカッコいい人? それとも滅茶苦茶に強くて華麗な人……だろうか?


 アルスは様々なミネルヴァを思い浮かべる。



「今ではガサツな女になっちゃったけどね、こんな私でも、小さい頃は普通の女の子をしてたんだよ?」


 ミネルヴァはアルスをからかうか時の様ように、いたずらっぽく笑みを浮かべながら過去を思い返す。


「春になると花が満開になる丘上にある小さな家。近くには川が流れていて、よく水を汲みに行ったな」


 まるで少女時代のミネルヴァが戻ってきたかのような感覚に陥るアルス。



 いい思い出だったんだな……


 アルスはミネルヴァの言葉、一言一言を想像し、二人だけの世界に浸る。



「でもね、その楽しい楽しい思い出も戦争が全てを奪い去っていったのさ」


 その瞬間、二人の世界に亀裂が入る。



 戦争が……



 グレシアスでは大小様々な争いや戦争が年中、至る所で行われている。



 それにこの国も今は辛うじて平和な状態だが、一つの小さなきっかけがあれば、すぐにでも戦争へと繋がるだろう。


 アルスの脳裏に、悲惨な映像が流れる。




 そこからミネルヴァはたんたんと語った。


 ミネルヴァの住む地域が戦争に巻き込まれ、元は優秀な傭兵であったミネルヴァの母が戦争に出兵を余儀なくされる事を。そして、その戦争で帰らぬ人になるという事実を。



「本当に戦争は残酷さ。一番大切な人を飲み込んでさ、こんな私まで巻き込んでいったんだから」



 それからミネルヴァは大切な人を失ったという事実に耐えられず、自身もその憎々しい戦争に身を投じ始めたという。


「最初は良かった。命を削る戦いに身を置いていたら、このはちきれんばかりの気持ちが多少は和らいだからね。でもね、途中である事を知ったんだ、私の母は戦いで死んだんじゃない。この私が持つ槍で命を落としたんだってね」



 まさか……!


 アルスはミネルヴァが持つ槍をよく、注視する。


「アルスも分かるだろ? そうさ、この槍は聖武器さ」



 そんな事って……


 アルスは衝撃の事実に驚きを隠せない。



 まて……


 じゃあ、ミネルヴァさんが動揺していたのは俺が聖、魔武器のデメリットを消す方法を話していたから……?


 アルスの顔が青ざめる。


「アルス。待ちな。決してアルスは悪くないからね。その時の母はこの武器の知識が無かったんだ。それで、絶対絶命の場面でこの武器の力を最大限使って亡くなったんだ。だから、仕方ない、仕方ない事なんだ」


 ミネルヴァは声を低くしながらも、重い意志を感じさせる口調で話す。


「だからアルスには知っておいて欲しい。この武器で亡くなった人がいるという事を。そして、これからこの武器を使っていくであろう私を上手く扱ってほしいという事をね」



『だからさ、アルスが私を使っておくれ、そうすれば私は大丈夫な気がするからさ……』


 ミネルヴァとの会話が脳裏をよぎる。



 そうだった……。ミネルヴァさんはもう、過去との決着を付けて、俺にこの話をしてくれているんだ。


 だったら俺は……


「……もちろんです。もう、ミネルヴァさんには大切な人を失わせないし、ミネルヴァさん自身も絶対に死なせません」


 アルスは強い決意を持ち、ミネルヴァへと言い放つ。


「そうだよ。それでこそ、私が選んだ男さ」



 こうして、ミネルヴァとアルスの仲は一段と深まり、アルスはこれまで以上に仲間や家族を王国戦争から守らなければという意思を再確認したのであった。

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