ミネルヴァの過去 その2
それにしても……
アルスは紅茶を入れるミネルヴァに視線を当てる。
ミネルヴァさんは紅茶を入れる動作すら絵になるな……
ミネルヴァの美しい姿に見惚れるアルス。
「はい。紅茶だよ……うん? 私に何か付いているかい?」
「え、いや。あっ、紅茶ありがとうございます! いただきます!」
「ふふっ、変な子だね」
ミネルヴァは慌てて紅茶を飲むアルスに、「ゆっくりと飲みなよ」と、注意し、紅茶を飲むアルスをじっと見る。
その間、アルスはカップに注がれた紅茶を息で冷ましながら、ゆっくりと飲みほした。
「お……美味しかったです」
「良かった。っと言っても、部屋に備え付けのいい茶葉だから、誰が入れても美味しいのは変わりないけどね」
「そんなことは無いです! ミネルヴァさんが入れてくれたから余計美味しいといいますか」
「そんなに褒めたって何もいいもんは出てこないよ」
ミネルヴァは嬉しそうに笑みを零しながら、自分用の紅茶を入れる。
それからというもの、アルスは何も喋る事が無くなり、ミネルヴァも何かを話そうとせず、二人の間に静けさが訪れる。
何か話さないと……
アルスは先ほどからミネルヴァを気遣おうと色々しようとしたが、全てが空回り。そのせいで余計、気持ちに余裕がなくなっていた。
何でもいい……何か。
「あ……あの「アルス」」
「は、はい?」
アルスが何か言わないとと思い、重い口を開こうとした時、ミネルヴァが呼ぶ。
「さっきから気を遣おうとしてくれてありがとう。でも、もう大丈夫。私もアルスに打ち明ける決意が出来たから」
決意を決めた目。
「……無理に言わなくても」
「ううん。言わしてくれ」
ミネルヴァは首を横に振る。
多分、ミネルヴァさんが今から話すのは本人の根幹にある大事な部分なのだろう。
アルスは大きく一回頷くと、静かに黙る。
「何処から話そうかな……。そうだな。私が常日頃、肌身離さず持ち歩いている、この槍があるだろう」
ミネルヴァさんの愛槍……
アルスの視線は薄赤色に真っ赤な波模様が入った槍の刃を携えたミネルヴァの槍へと注がれる。
「この槍は母が唯一残してくれた形見のようなものなんだ」
ミネルヴァは愛おしそうに、刃を撫でる。
あぁ、だからグレシアスではミネルヴァさんから愛槍を取り上げようとすると拒まれるって仕様になっていたのか。
アルスはグレシアス時代に謎だった仕様に意味があったのかと理解するとともに、グレシアスの面白さというものを改めて実感する。
「物心ついた頃には既に父は亡くなっていて、私にとって家族は母一人だけだった」
これもグレシアスでも話されなかったミネルヴァさんのエピソードか。
グレシアスでは主要な人物の人生エピソードはおろか。その者の背景ですらあまり語られない。そういった事情もあり、ミネルヴァという、数万以上いるキャラの中の一人のエピソードなど、ゲームの時は気にしたことは無かった。
言い方は悪いけど、ゲームの時はこれからの攻略に使えるか、使えないかという分かりやすい基準でしかキャラを判断してこなかった。
そんなんだからあの子以外のキャラのこれまで歩んできた人生なんてこれっぽっちも興味が無かった。
アルスは過去を振り返り、無意識に握りこぶしを作る。
でも、今は気になる。
ミネルヴァさんが今までどうやって生きてきて、どのような事を学んで、どういった経緯で俺に出会ったのか。
仲間として知りたい。
こうしてアルスはどんどんとミネルヴァの話にのめり込んでいったのだった。
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