王都奴隷オークション開幕 その2

「それにさ……、二人とも! こっちに来てみてよ」


 いつの間にかガラス張りになっている場所へ移動していたアルスが、興奮気味にエバンとミネルヴァを呼ぶ。


「一体どうしたんだい? そんな興奮して……、これはすごいね」


「すごい……」


 ミネルヴァは目を点にして、エバンは言葉を失ったように3人はある光景を目にする。


「ここから会場が一望できるよ」


 アルス達の目に写るのは、煌びやかに輝く会場。息を飲むほどに美しい装飾が魔具で照らされており、正面にはメインステージが存在し、そのステージを囲むように普通席が並ぶ。そして、少し後ろにそれると上級席が用意されており、一番後ろにアルス達の部屋を含む、VIP席が鎮座していた。


「お父様には借りが出来る一方だな……、ここを借りるのにいくらしたんだろう」


 恐ろしくて値段を聞けないや。


 上級席は通常席よりも広めに設計された椅子と、テーブルなどが用意されている。


 VIP席においては、個室の部屋が用意されており、中は椅子にソファーやテーブルはもちろん、簡単な食事を取ることも可能な準備がなされている。また、部屋の大きさも10人ほどが入っても余裕ある広さで、オークション側の壁だけは一面ガラス張りとなっており、そこからオークションを見て、楽しめる設計となっていた。


「この酒は! 60年ものなんてはじめて飲むよ!」


 好みの酒を見つけたのか、勝手に栓を開け、飲み始めようとするミネルヴァ。


「ミネルヴァさん。まだオークションすら始まってませんよ。その前に貴方は護衛なんですから、お酒なんて飲まずにしっかりしていてください」


 エバンはミネルヴァが酒を飲み始めたことに気が付くと、早速説教を始める。


「そんなこと言うなって。お前も飲むか?」


「いりません! ちょっ、押し付けないでください」


 ははは。二人とも楽しそう。


 エバンは酒を飲み始めたミネルヴァに弄られており、そんな二人を遠目から観察するアルス。


「そういえば、エバンはオークションの落札方法分かるの?」


 すると、エバンはミネルヴァを押しのけ。


「はい。分かります。と言っても、この部屋に置いてあるボードに希望の金額を書いてかざすだけなので、難しい事ではないですよ」


 当たり前ですと言わんばかりの笑顔を見せる。


 前世では数字を打ち込むだけで落札が出来たからな。聞かなくても出来たとは思うけど……、エバンが居てくれて助かった。


「へぇー、そうなんだ。ありがとう」


 アルスはドシっと一面ガラス張りの席近くに座り、近くにあった飲み物を飲み始める。


「ところで、アルスはオークションに使える金額はいくらほどなんだい?」


 ミネルヴァはふと、気になったことを聞く。


「聖金貨20枚」


「げっ、いつの間にそんなにお金を稼いだんだい? まさか、それも親から……」


 ミネルヴァは酒を飲むのを止めて、恐る恐るアルスを見る。


「違います! アルス様がご自身のお力で稼いだモノです」


 エバンは我慢ならないといった様子でアルスの代わりに答える。


「まぁいいさ、聖金貨20枚あれば大抵の奴隷は落札できるだろう。おっ? 始まるようだよ」


 ミネルヴァが喋っている途中で、楽器の演奏がオークション会場中に鳴り響く。


 このBGMは相変わらずなんだな。


 アルスが親しみのある音楽を耳にすると、メインステージに二つの強力な光が照射される。


 その中から、タキシード服を身にまとった人物が、大袈裟に手を大きく開き。


『ようこそ皆様! 王都最大の奴隷オークションにお集まりいただきありがとうございます。司会進行はこの私、チャックが務めさせていただきます。よろしくお願いいたします!』


 軽快な司会進行と共に、挨拶をする。


 司会進行役はやはりあの人か。


 ゲームの世界ではかなり有名だった人物、チャック。


 どんなに離れたオークション会場でもチャックが司会進行役として現れる為、複数人いるのではないかとちょくちょく噂されていた人物だ。


 そんなアルスの考えとは裏腹に、会場中から盛大な拍手が沸き起こる。


『ではこれから会場説明を……、と長々と話すのもいいのですが、皆様はそんなの望んでいませんよね? では、始めてしまいましょうか! エントリーナンバー1から始めていきたいと思います。皆様、思う存分、オークションをお楽しみください! では、いきましょう!』


 ノリノリのチャックと共に、こうして王都奴隷オークションは幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る