王都奴隷オークションの準備 その2

「ちょっと二人とも! もう……、私が来たのは、今日が王都奴隷オークションの開催日だから、二人に護衛として付いてきてほしいからって話をしたくてなんだけど? ここまではいいかな?」


 アルスはこのままだと話が進まないと思い、本題へと入る。


「へぇー、奴隷オークションかい。私も一度はこの目で見てみたいと思っていたんだ」


「アルス様の側が私のいるべき場所ですので、もちろん私も付いていきます」


 エバンとミネルヴァは奴隷オークションに付いていく事を了承する。


「良かった。それで行く時間なんですけど、オークションが午後の5時から始まります。あと、そのオークションは格式高いオークションなので、着ていく衣装とかもドレスやスーツじゃなければなりません。そこで、今からセバスさんや使用人たちを呼んで、二人の衣装を見繕ってもらいます! もちろんお金は私が出しますから安心してください」


 アルスが二人にそう説明すると。


「アルス様にお金を出させるのは……、分かりました。ご厚意に甘えたいと思います」


 エバンはアルスに迷惑をかけるのはいけないと思い承諾する。


「いや、私はいいよ。そもそもドレスとかそんな柄じゃ無いからね……、なんだい? ふりじゃないよ? 止めな? 私はドレスなんか着ないからね!」


 ミネルヴァは動きやすい服装が好きなのか、それとも、ただ単にドレスが嫌いなのか、何故かドレスだけは着たくないと言っていたが。


「アルス様。どういたしましょう」


 何処からともなく現れたセバスに驚く様子も見せず。


「エバンには黒メインで。ミネルヴァさんは赤メインでお願いします」


 アルスは二人には絶対この色と決めていた色をセバスに伝える。


「はい。分かりました」


 こうして、二人の元へ来た目的をセバスへ伝え、使用人たちを引き連れたセバスは。


「アルス様。行って参ります」


「私は絶対に行かないよ……、って、誰だい!? 私の体に手をまわした……、や、やめな! ちょっ、アルスー!」


 エバンには男性の使用人を、ミネルヴァには女性の使用人を配置に付け、二人を半ば強制的に屋敷の中へと連れ込んだ。




 ~それから約2時間後。庭のテラス~


「うん! 今日のお茶も美味しい!」


 アルスがテラスでお茶を楽しんでいると、背後からセバスが現れる。


「アルス様。お待たせして申し訳ございません。準備が出来ましたので、どうぞ屋敷の中へ」


「あっ、もう終わったの?」


「はい。着付けまで完了しております」


 流石セバスさんだ。


「ありがとう。セバスさん、どうですか二人は」


「もちろん。一流の仕立て屋をお呼びいたしましたので、最高の出来となっています。あと、旦那様が今回の代金を全額、払っておくともおっしゃっていました」


 またお父様に助けてもらっちゃったな。


 本音としては出来るだけお金を使いたくなかったアルスは、心の底から感謝する。


「分かった。ありがとう。私の代わりにお父様にお礼を言っておいてくれないかい? もちろんあとから私も言うつもりだけどさ」


「承知しました」


 そう答えるセバスの誘導の元、アルスは二人が待つ部屋へと向かった。



「こちらにお二人がおります」


「開けていいよ」


 セバスが丁寧に扉を開け、アルスが中を覗き込む。


 するとそこには男女とも、見とれてしまうほどに、美しい二人が立っていた。


「っ!」


 言葉にならない。正直な感想だ。俺の言葉で言い表せない位に二人が美しく、綺麗。


 まずはエバン。比較的細い印象のエバンは、実は筋肉質な肉体を有しており、その体を存分に沸き立たせるべく、意匠がこらされ、設計された漆黒のスーツによって、全体的に引き締まった印象が見て取れた。また、見る目がある人なら、一流の素材と仕立て屋の作品なのだと分かるように作られているため、貴族との会談でも使えるスーツに仕上がっており、文句のつけどころがない一品だった。


 

 そしてミネルヴァ。まず目が引くのは赤い髪とマッチした赤いドレス。しかも、所々に美しい刺繡が散りばめられており、大胆に空いた胸元とすらりと伸びた足とのコラボレーションが最高に合っている。また、ほんのり分かるほどの化粧を施しているので、いつも以上に妖艶な美女を醸し出しており、オークションでも注目の的になることは間違いないだろう。



「……二人とも似合い過ぎじゃない?」


 アルスは二人の美しさに見惚れていたが、言葉をかける為、息を一旦飲み込み、話す。


「ありがとうございます。自分にはもったいない一品です」


「こんないいドレス着るの初めてだけど、悪くないね。気に入ったよ」


 エバンとミネルヴァは褒められたのが嬉しいのか、満更でもない様子で答える。


 そんな三人は、しばし談笑をしていると。


「アルス様。もうそろそろ……」


 時間を忘れて談笑する三人へとセバスが声をかける。


「もうこんな時間か」


 アルスは時計を見ると、短針は既に3という数字を通り過ぎていた。


「じゃあ行こうか。移動も考えるといい時間だと思う」


 こうしてアルス一行は、セバスが用意していた馬車に乗り込み、奴隷オークション会場へと向かうのだった。



~オークション会場~


「ここがオークション会場か……」


 アルスの前にそびえ立つのは、王都の大通りにある建物の中で、一番大きいとされている物であり、今日のための特別演出か、隅々までいきわたるようにライトアップされていた。しかも、装飾までされており、中々に美しい。


「警備員も多いな……、あれ? 王都兵もいる」


 アルスの目に、王都兵の警備員が映る。


 もしかしたら、お父様もいるかも。


 王都でも類を見ないほどの大規模なオークションということもあって、王都の兵士達も警備にあたっており、辺り一面賑わいを見せていた。


 アルス一行は案内人の案内の元、会場の入り口となる大扉へと足を進めていく中。


「あっ、あれは……」


 王国騎士団3番隊、副隊長を示す紋章を胸に付けた人が警備にあたっていた。


 なんだ……、お父様じゃないのか。


 アルスは少し、気落ちしながらも会場へと入る順番待ちをしていると。


「はい。次の方。お進みください。えっと、貴方は……、ガイルさんの息子さんじゃないですか! ガイルさんの奥様に似て、将来が楽しみな顔をしてますね」


 3番隊、副隊長から声をかけられる。


「ありがとうございます。これからもお父様の事をよろしくお願いします」


「これは丁寧にありがとうございます。隊は違いますが任せてください」


 アルスは当たり障りのない返事をし、その場を後にすると、エバンとミネルヴァを連れて、建物の中へと入っていったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る