王都奴隷オークションの準備 その1

~数日後~


 アルスはどこかワクワクした様子で屋敷の中を移動していた。


「く、くっ、くっく……」


 今日は待ちに待った王都奴隷オークションの開催日!


 ミネルヴァさんに巡り合えたのは幸運だったけど、それでもまだまだ人材が足りない!


  今日こそは弓術のステータスが高い者……、とまでは言わないから、納得できるステータスを持っている人材を確保したい。


 アルスは考え事をしながら奇声を漏らして歩いていると。


 キン! カキン!


「何か聞こえる……」


 良く耳を澄ましてみると、金属と金属がぶつかり合うような、高い音が聞こえる。


 この音は……


 しかも、アルスが目指していた地点の方から聞こえるではないか。

 

 またか……


 アルスは目星は付いたとばかりにため息をつくと、その音……、剣戟の音を目印に進んでいく。


「ほらそこ。甘いよ。脇ががら空き」


「ふっ! はぁ!」


 アルスは二人が訓練? にしては激しい攻防を繰り返している場面を目撃し。


「やっぱり……」


 自身の勘が当たっていたことに喜びと、呆れを感じる。


「今度は足使いが駄目。すり足で距離を詰めるのもいいけど、今の場面は一気に攻めるところ」


「ならこれは!」


「だから、目線が分かりやす……、っ! 今のはいいよ。格上には通用しないと思うけど、同格相手だったらすごく有効」


 木剣じゃなくて、真剣で打ち合いしてるし。


 両者に実力差があるプラス、ミネルヴァの卓越した技術により叶っている訓練だと思う反面、見てる側からするとかなり冷や冷やするモノがある。


「でもね……」


 そう言ってミネルヴァは一気にエバンへと詰め寄り。


「私には通用しないよ!」


 構えが間に合っていないエバンの剣を弾き飛ばし、相手の視線が剣へと移動する隙にエバンへと足をかけ、体勢を崩しにかかる。


「くっ……」


 そんなミネルヴァの猛攻を紙一重でよけ続けたエバンだったが。


「はい。これでお終い」


 避けられない位置までミネルヴァの侵入を許し。


「まっ、参りました……」


 最後はあっけなく首筋に剣を突きつけられ、訓練が終了した。


「うん。ここ数日でよくなったと思うよ。それこそ剣を使うのは止めて、槍を使って指導してもいいかなって思うぐらいにはね」


 そうだった……。ミネルヴァさんの本当の得物は槍だったんだ。


 先ほどまでの剣戟に見入っていたアルスは、ミネルヴァの本職を思い出し、これ以上に強いのかと身震いするとともに、とても頼りになると実感する。


 そんな訓練を見学していたアルスへと視線を向けたミネルヴァは。


「ほら、アルスが来たよ。あの様子じゃ何か用があるようだね。いったん休憩にしよう」


 そう言って、エバンに飲み物を投げるように渡す。


「ありがとうございます」


 そんな光景を目の当たりにし、アルスは出ていくのに丁度いいと考え、二人の元へと歩いていく。


「二人共、お疲れ様」


 アルスがこうして二人に近づいていくと。


「エバン。さっきの訓練の続きだけどね……」


「え?」


 エバンが疲労から地面に横たわっている隙に、ミネルヴァがアルスとの距離を一気に縮めて。


「うぷっ!」


 強引に抱きつく。


「ちょっ、ちょっと。ミネルヴァさん!」


 アルスは女性特有の汗のにおいと、香水の入り混じった匂いに一瞬頭がクラっとするが、意識を保ち、その拘束から逃れようと必死になる。


「ほら見たかい? こんな場面で距離を一気に縮めるのさ」


 ミネルヴァは笑いながらエバンへと助言する……


「ちょっとミネルヴァさん! アルス様が嫌がってますよ。離してあげてください」


 そんなエバンは先ほどまで地面に寝転がって訓練の疲れを癒していたが、アルスの危機が迫っていると感じたのか、疲れた体を無理やり動かして、ミネルヴァとアルスを引き離しにかかる。


「ほらほら、どうした?」


「待ってください! アルス様を……、離しなさい!」


「ちょっ、二人共! くっ、苦しい!」


 攻防を繰り返す二人に揉みくちゃにされるアルス。そんなアルスはとうとう我慢の限界に達し。


「もう二人共! 止めてください!」


 いつものアルスでは考えられないほどの怒声をかます。


 すると二人はピタッと行動を止め。


「す、スキンシップの一環じゃないか……、そこまで怒らないでくれよ」


「申し訳ありません!」


 ミネルヴァは冗談交じりに、エバンは速攻で頭を下げる。


「はぁ。エバンは俺の事になったら頭に血が上っちゃう癖をどうにかしたほうが良いね。あとミネルヴァさん。私たちを揶揄うのは程ほどにしてください。どこがとは言わないですが、正面から抱き着かれたとき窒息しそうになっちゃいましたよ……」


 アルスは呼吸を整えてから、二人に文句を言う。


「はい……、今後から気を付けます」


「ごめんね。私もここまで大きくするつもりはなかったんだけどさぁ、勝手に成長しちゃったんだよ」


 だからそこまで言わなくていい……


 ミネルヴァはにこやかな笑顔で自身の胸の下に手を置き、わざとらしく揺らして見せる。


 その様子をまじまじと見てしまったアルスは顔を真っ赤にし、視線を逸らすと、ミネルヴァはさらににやけ顔を晒す。


 そんな二人を交互に見やったエバンは。


「ゴホン。本題に入りましょう。アルス様、何か私たちに知らせることがあってここへ参らしたんですよね?」


 わざとらしく咳き込むと、淡々と話す。


「ほんとあんたは面白みがないね。アルスの方が可愛いし、からかい甲斐があるよ。それじゃあ、もう一度同じことを……」


「ミネルヴァさん。止めてください。話が進みません。その前にアルス様は貴方の玩具じゃないんですよ。全くあなたって人は……」


「ちょっと二人とも! もう……、私が来たのは、今日が王都奴隷オークションの開催日だから、二人に護衛として付いてきてほしいからって話をしたくてなんだけど?」


 アルスはこのままだと話が進まないと思い、本題へと入る。

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