王都の奴隷館 その2
「当分はあの場所には立ち寄らないようにしようか」
「すいません。私がしっかりしていないばかりに」
「大丈夫。さぁ、次へ行こうじゃないか」
アルスとエバンは二人そろって、王都の大通りを歩いていた。
「そういえばエバン。王都の奴隷館はどこにあるか知ってるかい?」
丁度いい時間つぶしをしたおかげか、奴隷館へ近寄るにいい時間になっていた。
「もちろんです。ええっと、この大通りを真っ直ぐ行って、一つ目の曲がり角を右に曲がったところにある建物が奴隷館らしいです」
エバン指示のもと、人混みに揉まれながらも奴隷館まで移動する。
「ここか……」
アルスの目の前には門番らしき人物が二人、奴隷館と思われる店の扉の両脇に立っていた。
「セバスさん情報ではここが奴隷館のはずなのですが……」
エバンは小さく首を傾げながら答える。
「まぁ、周りの建物と比較しても大きく広い。それに、豪華って程でもないが、綺麗な建物だし、清潔感がある……。だが、どこにも奴隷館だと書いてないのが気になる……」
「でも、ここが王都で一番の奴隷館だと言ってました」
ここが王都で一番の奴隷館だと?
ここよりも豪華で広く、大きい奴隷館が道中にあったんだけどなぁ……
アルスは不思議に思いながらも、一度建物の中に入ってみようと門番へと近づく。
「止まれ」
突然、門番二人が手に持っていた槍を扉の前でクロスさせて、アルス達を制止させる。
「ここが王都一の奴隷館だと聞いて来たんだが……」
アルスは突然の対応にも驚くことなく、冷静さを保ちながら尋ねる。すると、門番の一人が部外者とは話すことは無いと言わんばかりに。
「ここが王都一の奴隷館だというのは間違いないが、紹介を受けていない者は立ち入れない決まりとなっている」
頑なに道を閉ざす。
「おい、この方をどなただと思っている。アルザニクス家次期当主、アルス・ゼン・アルザニクス様だぞ」
エバンは門番の無礼な対応に怒りが湧いたのか、食い気味で話しかける。だが、そんな威光を気にする素振りも見せず。
「その方が本物のアルザニクス家次期当主だったとしても、紹介を受けていない者は誰もここを通れん」
うん? 紹介ってもしかして……
「ちょっと待て、紹介ならセバスという人物からされたんだが……」
「!? セっ、セバス様ですか?」
門番の一人が慌てた様子でもう一人の門番に小声で何かを話しかけると、急いで館の中へと消えていく。
「……問題がないかどうか、鑑定します」
門番は懐から鑑定眼鏡を取り出し、二人に問題が無いことを確認する。
「アルス・ゼン・アルザニクス様とエバン様ですね。今、上の者に確認を取っておりますので少々お待ちください」
さっきとは随分対応が変わったな。そこまでセバスさんの名前に力があるとは。
アルスはセバスがどんな人物なのかを改めて知りたいなと考えていた時、門番の一人が急いだ様子で戻ってくると、いの一番に。
「先ほどまでのご無礼、申し訳ありませんでした!」
深々と頭を下げ、謝罪する。
そんな光景に唖然としながらも。
「頭を上げてくれ。誰しも間違いはある。次からはこのような事が無いようにしてくれれば結構だから」
アルスは慈悲深い笑みを浮かべながら門番の謝罪を受け入れる。
「ありがとうございます! ささっ、どうぞ。お二人には許可が出ておりますので、中へお入りください」
門番二人は重厚な扉を開け、アルス達を中へと入れる。
「あの門番たち…、セバスさんの名前を出しただけであの手のひら返し。上の方に一言提言をしなければ…」
「止めておけ。勿論、向こうの対応にはいささか感じるものはあったが、何もわざとやったという訳ではないはずだ」
「寛大な慈悲…。流石アルス様です」
何故か俺を見る目がいつにも増してキラキラしているように思えるが……、気のせいか。
そんな事もありつつ、二人は赤いカーペットが引かれた通路を進んでいく。
「ここが中か……」
赤いカーペットが途切れた先にあり、まず目に映るのは高そうな調度品の数々。アルザニクス家は上位の貴族ということもあり、日常的に高価な調度品を見て来たアルスでさえ、凄いと思わせる物ばかりであった。
また、中には奴隷らしき人物は一人もいなく、いるのは受付と思われる高齢の眼鏡を掛けたお爺さんだけで、一人何もせずに佇んでいるだけであった。
そんな光景を目にし、不用心だなと思いながら辺りを眺めていると。
「ようこそいらっしゃいました。私はこの館の支配人をさせていただいております、ウルドと申します。貴方様は……あぁ、ガイル様の……。そちらの方は……」
「エバンと申します。アルス様の従者をさせていただいています」
「なるほど……、アルス様もいい目をお持ちのようだ。これならアルザニクス家も安泰ですね」
ウルドは一瞬鋭い目つきをすると、すぐに優しそうな好々爺の表情に戻り、ほっほっほっと笑い始める。そんな一瞬のウルドの視線を逃さなかったアルスは、一段と気を引き締めて話しかける。
この人……、ただの爺さんじゃないな。
「今日は奴隷を探しにここへ来たんですが……」
アルスが遠慮気味を装い、ウルドへ質問する。
「えぇ、もちろん分かってますとも。アルス様はどのような者をお望みで?」
アルスは直感する。この問いにどう答えるかで内容が変わると。
本当なら「命を預けられる仲間を探しに」と言った方が見栄は良いだろう。だが、ここで本心を隠すのは何か違う気がする……
「この館で一番強い方を」
アルスは本心を包み隠さず答える。
「…………」
対応を間違えたか? でも、俺は後悔していない。
ウルドが黙り、数秒。
「なるほど…、アルス様は強いお方だ。これは、館一の者達をお呼びしなければなりませんね」
不敵な笑みを浮かべ、ウルドは奥へと振り向き歩いていく。
「ちょっ、じっさん! ……」
「俺は……」
「……はやく」
何やらウルドさんの声ではない、人の声が3人分ほど聞こえてくるが、断片的で内容がちっとも分からない。
少しして、3人の人影を連れ、奥からやってくるウルド。
暗くて顔が良く見えない。ただ分かるのは女性と男性と獣人の3人がそこにいるという事だけ。
そんなアルスの考えを露知らず、男性と獣人はアルスを一目見ると、ウルドに何やら話しかけ、また奥に戻って行ってしまった。
うん? 二人がいなくなった?
「申し訳ありません。今アルス様に紹介できる方で強く、尚且つアルス様の仲間になってもいいと承諾された方は一人だけでした。さぁ、自己紹介を」
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