王都の奴隷館 その3

「申し訳ありません。今アルス様に紹介できる方で強く、尚且つアルス様の仲間になってもいいと承諾された方は一人だけでした。さぁ、自己紹介を」


 ウルドが声をあげ、こちらに来るよう指示をする。


 なるほどな。俺は値踏みされていたのか。


 その事実にアルスは中々な奴隷館だなと思考していると。



 うわ……



 奥からやってくる女性に目を奪われた。


「燃えているかのように真っ赤だ……」


 その女性は美しかった。燃えるように真っ赤な赤髪を雑に後ろで一つにまとめており、目の色も真っ赤。プロポーションも抜群であり、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでおり、尚且つ、お尻も大きすぎず、魅惑のラインを醸し出している。しかも、赤く染色された衣服に身を包み、背中から突き出ている真っ赤な柄。見た目からして武器の種類は短槍だと思われるが、長さは1.5メートル程あり、中々に存在感を放っている。


「じっさんが私達を紹介するなんて、この子ただもんじゃないんだね? へぇ、後ろの坊や……、中々やるね?」


 その女性はウルドをじっさんと呼び、馴れ馴れしくウルドの肩を叩く。そして、ニヤニヤした視線をアルスへと向けると、直ぐにエバンへ興味がそれたのか、獲物狩るような目でエバンを見つめる。


「っ!」


 そんな女性の視線に蹴落とされたのか、エバンは咄嗟に剣を抜き、アルスをかばうように剣先を向ける。


 そんな突然の事態にアルスは驚き。


 ちょっ、エバン?!


 あわや転びかける。


「あらあら。大丈夫だったかい?」


 そんな転びかけたアルスよりも早く、その女性はアルスの後ろへ素早く移動し、ふわりと抱きかかえる。


 …え? 転んでない?


 アルスはきたる衝撃に備えるように目をつむり、身を任せたが、いつまでも想定していた衝撃がこず、目を開ける。すると、自身が丁寧にお姫様抱っこされている姿が、正面にあった大きな鏡に映っていた。


「あ……、えっと、ありがとうございます。助かりました」


 そんな自分を見て、思考がフリーズ仕掛けたが、咄嗟に感謝の言葉が口から出た。


「礼を言われるもんじゃ無いよ。もとはと言えば私がそこの坊やを試したのがいけなかったんだから」


 その女性は嬉しそうにしながらアルスへと顔をグイっと近づけ。


「それにしてもあんた。ほんと可愛い顔してるね。うん、やっぱり君についていくって決めてよかったよ」


 アルスも惚れ惚れする端正な顔で頷く。


 ちょっ、顔が近すぎ……


「いい加減アルス様を下ろしてあげてください」


 そんな二人の間に入るように、呆れ半分、怒り半分でエバンが言う。


 すると女性は「私はこのままでもいいよ」とおちゃらけた発言をするが「いい加減にしてください」と真面目な声音でエバンが無理やり下ろさせる。そして、初対面の女性に対し、小言を数個提言すると。


「じっさん。私、この子達と一緒に行くよ」


 女性がウルドへ晴れ晴れとした表情で声をかけた。


「そうですか。貴方がここへ来て早3年。もうずいぶん長い間ここへいたものですね」


 ウルドは眼鏡を外して、じっとその女性を見つめる。


「ははっ、私より、あの男の方が長い間居るじゃないか」


 ウルドと女性は二人にしか分からない会話を進めていると。


「あの、まだこの女性と決めた訳じゃないんですが……」


 アルスが困惑しながらウルドへ答える。


「いえ、貴方はこの女性、ミネルヴァを気に入ると思いますよ……持っているんでしょ? 鑑定眼鏡を。掛けてみなさい」


 ウルドはアルスへそう答える。


 ミネルヴァ? どこかで聞いたような名前だな……。


 アルスはそう思いながらも、鑑定眼鏡を取り出し、かけると、ミネルヴァと呼ばれた女性を鑑定する。




 名前 :ミネルヴァ・バンデスト

 

 武力 :93/94

 統率 :92/95

 剣術 :80/82

 槍術 :93/94

 騎術 :86/91

 弓術 :21/21

 盾術 :15/16

 体術 :80/83

 隠密 :06/06

 

 智力 :90/93

 政治 :91/93

 魅力 :90/93

 忠誠 :75

 野望 :82


 突破 :2/3

 成長 :S



 えっ?


 アルスは鑑定眼鏡を外し、レンズを良く拭いて、もう一度かけ直す。


「ホントなんだ……ってか? ミネルヴァ・?」


 やっぱり何処かで聞いたことある名だ。ミネルヴァ・バンデスト。バンデスト…、バンデ。


 脳裏にある一人にキャラが浮かぶ。


 えっ? バンデスト?


 あのゲームでバンデストと言ったら一人しかいない。


「ええっー! バンデストだって!?」


 女傭兵の中でも最上位に君臨していた、最強と呼ばれた女傑。


 「バンデストって言ったら……じゃないか!」


 アルスはこの日一番の驚いた声をその場に轟かせ、周りの者達に衝撃を与えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る