金策 その2
アルスとエバンが屋敷を出て、数十分。二人は徒歩で、貴族街と市民街を隔てる内壁の検問所へと足を進めていた。
「はい、アルス様ですね。今日はどのような用で一般街へ?」
検問所に在中する衛兵が、アルスへ対応する。
「王都の街を探索するついでに、商会を見回ってこようと考えている。どこかお勧めの商会はないかな?」
「商会ですか……。貴族様が良くお使いになるのはルノワール商会ですが、一般人に評判がいいのはゼルフィー商会ですかね?」
アルスはなるほどと相槌を打ち、話を続けさせる。
「ゼルフィー商会は最近出店してきたお店なんですが、品ぞろえもよく、店主もいい人で対応もよく、使ってて気持ちいいんですよ」
アルスはいい話を聞いたとばかりに、お礼として少しのチップを弾み、手続きを終えると市民街へと降り立ったのだった。
~ゼルフィー商会前~
「ここがゼルフィー商会かな?」
アルスは衛兵に書いてもらった簡易的な地図を基に、ゼルフィー商会らしき建物へとやってきていた。
「はい。看板にもゼルフィー商会と書いてあるので間違いなさそうです」
エバンは看板を指さし、肯定する。そんなゼルフィー商会は大通りを少し外れた所に鎮座しており、店内のみならず、外にもお客らしき人々で溢れかえっていた。
衛兵の言っていた通り、賑わっているようだな。それに……
アルスは店に訪れている客、一人一人を注意深く観察する。
貴族が一人も見えない。この店はターゲットを一般人に絞って商売をしているという事か。
「これはいい……」
アルスは客の服装や言動から予想を立て、自分が想定していた店だと思い、ニヤリと笑みを浮かべる。
そしてアルスは軽い足取りでゼルフィー商会へと進んでいくと、従業員と思われる男性が驚いた様子でアルスに近づいてきた。
「これはこれは……、ゼルフィー商会へようこそ。その装い……、失礼ですが……、貴族様でいらっしゃいますか?」
従業員は失礼がないようにアルスへと尋ねる。
「あぁ、そうだ」
すると従業員は、スッと背筋を伸ばすと。
「上の者へお通しいたします。こちらです」
アルスとエバンを別室へと誘導し、「少々お待ちください」と一言だけ残し、その部屋を後にした。
もう去ったか?
従業員が部屋を去って、ドアが閉まる音を確認したアルスは。
「エバン。怪しい所は無いか?」
少しして、斜め後ろに立つ、エバンへ声をかける。すると、エバンは部屋中へ視線を向け、怪しい点が無いかを確認する。
「はい。おかしな点は見られません。もし、何かありましても私が守りますのでご心配なく」
エバンは真剣な様子でアルスへ返事をすると、「頼もしいな」とアルスはニコッと微笑みながら頷いた。
~数分後~
トントントン。
「入っていいぞ」
部屋をノックする音に気が付いたアルスは声を上げる。
アルスの返事を待ってから扉が静かに開き、中へと入ってきたのは……
「お待たせして申し訳ございません。私がゼルフィー商会本店、責任者のオルトスと申します。よろしくお願いします」
細身で度が強そうな眼鏡をかけた、黒髪の男性。名をオルトスと名乗った。
「私はアルス・ゼン・アルザニクスだ。よろしく頼む」
貴族として、少し高圧的な態度でいってみるか。
相手にならい、アルスも手短に自己紹介をすると、オルトスは眼鏡の奥に隠された目を光らせる。
「なんと! 4大貴族のアルザニクス家の方がこのような商会に何の用でしょう? 私どもは貴族様向けの商品を扱っていないのですが……」
オルトスは驚いた表情を見せ、アルスへ疑問を問いかける。
今の所は何処にでもいそうな、ただの商売人だな。
アルスはオルトスの評価を定めながら、口を開く。
「今日はあるモノが欲しくてここまで来たのだが」
「……一体何をお探しで?」
オルトスは一呼吸置き、質問する。
するとアルスは深い笑みを見せ、待っていましたとばかりに……
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