エルテラ その1
「……エルテラを」
さぁ、オルトスさん。貴方はどう出るかな?
アルスはここでの相手の出方によって、話を続けるか、早々に店を退出するかを決めようと考えていた。
エルテラはあまり金にならない薬草で有名だ。そんな薬草の話をされて、相手は落胆するか……、それとも……
アルスがエルテラと答えた瞬間。オルトスが見せた表情は。
「エルテラ……、ですか。それはまた珍しい物を……。薬草の中でも一番グレードが低いとされ、知名度もあまりない商品をご所望とは……。いえ、これ以上考えるのは野暮ですね。どれほどご用意いたしましょうか?」
へぇー、深くは聞いてこないんだ。
オルトスはあくまで商人という姿勢を持ち続ける。そんなオルトスの対応に好感を持ったアルスは。
うん。いいね。及第点。
このまま続けていいと結論付け、交渉の準備を進める。
「そうだな……、もし私が聖金貨3枚で買えるだけ買いたい。と言ったら、どれ程準備できそうだ?」
「聖金貨3枚もですか!? ……ゴホン、失礼」
オルトスは聖金貨3枚という金額に驚き、大きな声を上げてしまう。
オルトスが驚くのも無理はない。聖金貨1枚で金貨1000枚分の価値を持つ、貴重な硬貨を3枚も出すと言ったんだ。まだ中小規模の店しか持たないオルトスにとってすれば、冷静を保ってられない金額だろう。
「あぁ、聖金貨3枚だ。これだけあればどれほど用意できそうだ?」
オルトスは唖然とした表情を数秒見せるが、直ぐ我に戻り、小さく横に顔を振ると。
「……そうですね。私どもの商会にある分では全然足りませんが、王都中の商会や近隣の町にある商会まで範囲を広げ要請をし、かき集めれば、聖金貨3枚分の用意は可能だと思いますが……」
何かあるのか?
アルスは内心、これで次のステップに進めると考えていたが、オルトスが突然、歯切れの悪い反応を見せる。
「偶然とはいえ、つい先日。大量にエルテラを買いあさる人物が他の商会でいたんですよ。しかも、大量に」
「……それで?」
「そのせいもありまして、王都に現在ある、エルテラが品薄になっている状態なのです」
オルトスは深く考え込みながら説明する。
商人であるオルトスが聖金貨3枚という、大口の案件にここまで喜ぶ素振りを見せないなんて……、絶対に訳があるな。
アルスは相手が考えている事を探る為、思考する。
「そのため、遠くの商会の手も借りなければならない状態でして……」
あっ……、なるほど。
この一言でアルスは、オルトスが何を危惧しているか理解する。
「……つまり。いつもより高い金額で私に売ろうと。そう考えているんだな」
アルスは相手を脅すような口調で相手を責め立てる。
「っ! ……私どもも、アルザニクス家の皆様とはいい関係を築きたい。そう考えているのは本当です。しかし、先ほども申し上げた通りこちらにも事情がありますので……。いつもより割高とはなりますが、ここはアルス様の顔をお立てし、一束銀貨13枚でどうでしょう?」
オルトスは姿勢を正し、手に持っていた紙の束に目を通す。そして、提示する価格が決まったのか、アルスへと顔を向け、金額を言い放つ。
銀貨13枚。エルテラにしては高額過ぎる……
その金額を耳にしたアルスは表情を無にし。
「私の顔を立てて、一束銀貨13枚……。オルトスさん、私を馬鹿にしてます? それにアルザニクス家との縁が出来るという事実。これがどういう事かをちゃんと計算に入れて金額を提示した方がいいですよ」
暗に、アルザニクス家という強力な要素をちらつかせながら、オルトスへ値段を下げろと警告する。
そんなアルスにオルトスは冷や汗をかきながら。
「ははっ、アルス様をただの子供として見るのは止めにします……。分かりました。銀貨12枚と「銀貨10枚です」……」
アルスがオルトスの話の遮り、銀貨10枚と言い放つ。
そんなアルスの強引な値下げに、冗談はよして下さいと言わんばかりの表情で。
「流石に銀貨10枚は安すぎます。先ほども話した通り、エルテラの在庫が王都には少ない状態でして、他の町などから入荷するにも輸送費や人件費などその他諸々の費用がかさみます。通常時ですら銀貨11枚の商品をアルス様が提示した値段で売る事は、我々、ゼルフィー商会では致しかねます。銀貨12枚が限度です」
オルトスはこれ以上は絶対に値下げしないという意思を見せ、アルスの返答を待つ。
「銀貨10枚です」
しかし、帰ってきた返答は先ほどと変わらない。
「アルス様。いくらアルザニクス家と縁が出来ると言っても、利益を生まない商談は意味がありません。今日の所はお引き取りを……」
オルトスは埒が明かないと考えたのか、アルスに帰る事を提案したその時。
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