金策 その1

~次の日~ 


 大騒ぎから一夜明け、王都には不変なる太陽がいつも通りの時刻に顔を見せ始める。そんな早朝帯にも関わらず、アルザニクス家の屋敷からは、生活音が響き始めていた。


「うーん。こらエバン……。これ以上強くなったらどうす……zzz」


 ここはアルザニクス家の一室。高価そうな調度品が並ぶ豪華な部屋で、寝間着姿のアルスが寝返りを打ちながら、寝言を言っていた。そんなアルスの顔は穏やかそのもの。


 表情から察するに、いい夢を見ているに違いない。


 そんなある時。


 トントントン


 アルスの部屋の扉をノックする音が響く。この時間帯にアルスの部屋に訪れるのはたった一人。


「アルス様、朝です」


 エバンしかいない。


「……むにゃむにゃ」


 しかし、アルスは夢の中なので、ノック音に気づくことは無く、何事も無かったかのように睡眠を続ける。


「アルス様ー! 朝です! 起きてください!」


 するとエバンは、声のボリュームを上げ、部屋の外から大声をあげる。


 だが、またしても部屋の中から返答はない。


 エバンは少し待っても返事が返ってこなかった為、扉の取っ手へと手をかけ。


「……アルス様、入りますね」


 中へと侵入するエバン。そして、ベットで熟睡するアルスを見つけると、小さくため息を零し、近くへと移動する。


 そして、アルスの耳元に顔を近づけると。


「起きてください、アルス様。もう朝ですよ」


 と、胸元を優しく揺らしながら声をかけ、起きる手助けを試みる。


「……あ? ……あぁ、エバンか。……分かった、すぐ起きるから外で……」


 エバンの助けもあり、薄く目を開いたアルスだったが。


「待っていてくれ……」


 躊躇なく毛布を深くかぶり直し、もう一度夢の世界へと旅立とうとする。しかし、それを許すエバンではなく。


「すいません。アルス様……、えいっ!」


 一度謝罪の言葉を投げかけ、両手でアルスがかぶっている毛布を勢いよく取り上げる。


「うわぁ!」


 毛布が取り上げられた衝撃で、アルスは悲鳴と共に起床。


「おはようございます。アルス様」


「あぁ……、おはよう」


 強引に起こされたことへの不満から、アルスは布団を取り上げた本人へ抗議の視線を浴びせるが、エバンは何事もなかったかのように、営業スマイルで部屋を後にする。


 そんなエバンの退出を見届けたアルスは。


「……着替えるか」


 半分寝ぼけながらも支度を整え、家族が待つであろうダイニングルームへと向かっていったのだった。



~ダイニングルーム~


「アルス、おはよう」「……、アルスおはよう」


「おはようございます。お母様、お父様」


 サラとガイルは、部屋の扉から入出してくるアルスを見つけると、挨拶を交わした。


 あれ? お父様の様子が……


 アルスがガイルの方へと視線をやると、顔がやつれている事に気が付く。そんなガイルを見て、昨日怒られ過ぎてこうなってしまったのではと、心配したアルスであったが、ふと、サラへと視線を向けると。


 お母様の機嫌が……


 サラの肌はツルツルで、髪も艶が増している。それに、いつにも増して元気な様子だった。


 そんな対照的な二人を交互に見やると。


 あ……、うん。昨日はお楽しみだったんだな……


 アルスが二人の事情を察し、もしかすると、弟か妹が出来るかも知れないなと、頭の片隅で考えながら、いつも通りの家族水入らずの朝食が始まった。


 そして朝食が終わると、アルザニクス家、恒例のお喋りタイムが始まる。


「お父様、お母様。今日は王都の街を見てきたいと思ってます。もちろん、エバンにも同行してもらうつもりです」


「王都は衛兵も沢山見回ってるから、危険は少ないだろうし……、大丈夫か。分かった。気を付けていってくるんだぞ」


 ガイルは一瞬、悩む素振りを見せるが大丈夫だと判断したようで、快諾する。


「はい! あと……、最近薬草づくりに興味を持ちまして、一度栽培してみたいと思ってるのですがいいでしょうか? もし、ことが順調に運べれば、販売も視野に入れて考えています」


 アルスは話を一転させ、突然薬草販売についての話を切り出す。


「うん? 薬草販売をしたいのか? まぁ、アルスがやりたいのなら別に構わないぞ。小さい内に色々と経験してみるのはいい事だからな」


 ガイルは10歳の子供がすることだと思ってなのか、笑って承諾した。


 よし。これで薬草販売できる! 別に嘘は言ってないよな。薬草販売をするのは本当だからな。ただ、規模がデカいだけで。


 アルスは嘘は言ってない。嘘は……、と自分を納得させるように小さく頷く。


 というか、俺まだ10歳なんだよな……。俺と同じ年頃の子供たちは皆、遊びたい盛りのはずだが、俺は商売をしたがってる。考えれば考えるほど変な子供だよな、俺……


 アルスは自分が変な子供だとは自覚しつつも、今後の為には絶対に必要な工程だと割り切る。


 そして、すぐに外に出る準備をし、エバンを連れて、王都の町へと出かけて行ったのだった。

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