初めての限界突破 その3
アルスは鑑定眼鏡をかけ、エバンを鑑定する。
名前 :エバン
武力 :71/80→ 90
統率 :52/73→ 80
剣術 :71/80→ 90
槍術 :11/62→ 71
騎術 :03/71→ 81
弓術 :03/71→ 80
盾術 :35/79→ 86
体術 :43/72→ 81
隠術 :22/68→ 75
智力 :67/82→ 89
政治 :42/83→ 90
魅力 :51/86→ 93
忠誠 :110
野望 :12
突破 :1/3
成長 :S
そこには、あり得ないような数値が広がっていた。
「え……」
数値を確認したアルスは思わず二度見し、唖然。
フリーズした脳は映し出されたステータスを信じようとはせず、遅れてこれは現実だという信号が全身に送られる。
限界突破している事にも驚きだが、それ以上驚きなのは……
アルスは口の中に溜まった涎をゴクッと飲み込む。
成長Sって……、限界突破1回目でこんなにステータス上限値、上がるもんなの?
通常、突破時の上限値の上り幅は、突破回数が1回目の時よりも2回目、2回目の時よりも3回目と、回数を重ねるごとに上り幅が増加する。つまり、1回目の限界突破よりも2回目の方が上限値ステータスが上がりやすいのだ。
だが、エバンはまだ突破1回目。それなのに、平均7~10ものステータス上限値の増加。普通のキャラなら精々、3~4。5、上がれば上々といった所なのにだ。
アルスは目の前の状況をまだ飲み込めていなく、過去の記憶を基に、色々と探り始める。
あれ……、待てよ? 何処かで成長Sキャラを見たような気が……。
あぁ、あれは敵キャラか。そうなると、まじかで成長Sのキャラの限界突破を見る機会はこれまでなかったという事か。
過去を振り返っても、成長Sを持っているキャラはどいつも強かった。一騎当千の猛者ばかりだったと言ってもいいだろう。そう考えると、エバンのステータス上昇値も普通? なのかもしれないな。
アルスは顎に手をやり、悩んだ素振りを見せたかと思うと、今度は勝手に頷いて、ブツブツと呪文のような言葉を口にする。
そんなアルスを心配しながらも、邪魔にならないよう、そっとしているエバンを傍目にアルスは熟考する。
あと、毎度思う事だが、忠誠が100を超える現象は何なのだろうか……。前回は101で、今回は110。もう訳が分からん。
アルスは転生して初めて経験する事に違和感を感じていた時、ふと、気になった点があった。
そう言えば、成長Sのキャラってグレシアス内で何人いるだろう? もちろん、成長SSの
王国内で確定してるのは王国騎士団1番隊、隊長と第一王子の従者の二人。その他にいたとしても、多くて、片手で収まるぐらいのはずだ。多分、他国でも似たような状況だろうから、世界に拡大したとしても、数十人。そのぐらいの規模だろう。
「アルス様? どうかしましたか?」
「あ……。いや、大丈夫だ。これからちゃんと訓練を重ねていけば自ずと強くなる。これからも精進してくれ」
「はい。頑張ります!」
それからアルスは少しの間、たわいもない会話に花を咲かせ、医務室を退出した。
~アルザニクス家、アルスの自室~
「エバンもすべきことをしてくれているのに、俺だけが何もしないのはおかしいよな」
そのままの足で自分の部屋へと戻ってきたアルスは、これから王都でする予定を、更に煮詰め直すことにした。
「まずはエバンをお父様が認めてくださったから、これから一緒に王都内を行動出来るな。それに、お母様から王都を自由に見て回っていいという、言質も取ったから、明日にでも探索するか。でだ、前々からしようと考えていた、
アルスは不気味な声を発したり、突然ペンを走らせたりと、他人には見せられない、奇妙な行動を繰り返しながら、紙へと情報をまとめていった。
~アルスの補足講座~
やぁ、みんな。久しぶり。ここで出てきた、新ワード。エルテラ金策と呼ばれるモノを説明したいと思う。まず、エルテラ金策とは、グレシアス民(グレシアスをやり込んでいるプレイヤー)が付けた総称で、エルテラと呼ばれる薬草を買い、それを大量に栽培して、ポーションにして売り出すという単純明快な儲け手段である。
ここで、グレシアスをやったことが無い人は、「別に他の薬草でもいいじゃん」と思う方もいるかもしれない。そんな方たちの為に、あえて断言しよう。エルテラじゃななければダメなんだ……、と。まず、エルテラの良さは何と言っても、一つの苗から大量のエルテラの葉が採取できる事。そして、次が何よりも大事。それは……、素人でも簡単に栽培できるという点にある。他の薬草は温暖な気候や寒冷の気候でしか育たなかったり、余計な手間や加工の作業がかかったりと、制約が厳しいが、エルテラはそうじゃない。暑さや寒さにも強く、面倒な手間が無く、ある程度ほったらかしでも元気に育つ。このような観点から、エルテラは金策の第一候補として挙げられるほど優秀な儲け手段なのだ。
だが、これ程優秀なエルテラにも、悪い点がある。それは、ポーションにした際の回復効果量が他の薬草と比べても、特段低いのだ。その為、市場で出回ってる他の薬草と比べたらとても値段が安く、エルテラポーションの需要もあまりないので、今はエルテラ栽培を本業にしている者など稀だろう。
そんな安いエルテラを大量に作っても意味ないんじゃ……。と皆考えただろう。
良く考えてみてくれ。俺は転生者で、この先何が起こるかをすべて把握している。そんな俺が無駄な事をすると思うか?
そうだ。俺はあと1年もしないうちに、大きな戦争が起こることを知っている。
ここで、戦争が起きたらどうなるか……、そう! ポーションの需要がうなぎ上りで増えるだろう。そうなったら、いくら効果が低いエルテラポーションでも、馬鹿みたいに売れる。というか、戦争が始まったら、多くの領主や貴族がこぞってポーションを買いあさるようになるため、グレードが低いポーションも信じられないほど高値で取引されるようになるのだ。
実際、グレシアスをプレイしていた熟練プレイヤー100名に聞いたアンケートでも、大多数のプレイヤーがエルテラ金策を王国戦争前にしていたと答えた。
この結果からも、エルテラ金策は十分に使える手段であることは間違いないだろう。
と言うことで、明日は聖金貨を3枚目安で使っていこうと考えている。今はエルテラ一束で、相場が大体銀貨10枚……といったところか。
つまり、単純計算でも3万束のエルテラが買えるから……。まて、その前に、領地へ戻って人を雇う算段を準備しておくのが先か? 駄目だ。当分領地へ帰る予定はないから……。あとは、領地へ運ぶための輸送費もかかるだろうし、ポーションの調合師も沢山雇わなければな……
こうしてアルスは、時間を忘れて、自分の世界へと没頭していくのだった。
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