エバン VS ガイル その1

 エバンとガイルの決闘日、当日。


「うーん。今日は……」


 この世界に転生してから自分で起きることが滅多になくなったアルスだったが、今日は何故か朝早くに目が覚めてしまった。


 上体を少し起こし、窓の外を見る。


「まだ朝早いな……」


 外はまだ薄暗く、生活音すら聞こえない。


 別にすることないんだよな。


 何もする事が無く、もう一度寝ようとベットに横になり、目を閉じる。


「……駄目だ。寝れない」


 ……が中々寝付けない。


 寝れない事を悟ったアルスは、重い体を動かし、ベットから這い出て、まだ外が薄暗い中、窓を開ける。


「はぁー、今日はエバンとお父様が決闘をするのか。十中八九エバンが勝てないと思うが、もしかするとってこともあるか? ……お父様から一本取るってルールだったら少しは可能性はあるか……」


 アルスはベットに腰掛け、無意識に手で顎を弄りながら、試合の予想をする。


「それに今のエバンは、物凄い勢いで成長している。これなら……、でもどうなのだろうか」


 アルスは脳内シミュレーションを何度も行い、その結果に一喜一憂する。


 そんな時間を過ごしていたある時。



 コンコン。


 ドアのノック音が部屋中に響く。


 こんな時間帯に? 一体だれが……


「まだ暗い時間帯じゃ……」


 アルスはノック音に気づき、扉へと視線を向ける。


 その時、視界に窓から入り込む日差しが映る。



 太陽が昇ってる……。もう朝になったのか……



「あぁ、入っていいぞ」


 アルスは考え事に夢中になってから、これ程時間が経過していた事に衝撃を受けながらも、外の者に返事をする


「っ! アルス様、エバンです」


 部屋の外から、声が聞こえてくる。どうやらエバンのようだ。


「あぁ、起きている。入って来ていいぞ」


 ドアを丁寧に開けて、入ってきたのは身なりを整えたエバンであった。そんなエバンは驚いた様子で。


「アルス様が起こす前に起きているなんて……、私の決闘日だから早く起きてくれたんですか?」


 エバンが嬉しそうに話す。


「違う。ただ早く目が覚めてしまっただけだ。そういうエバンはどうなんだ。緊張とかしていないのか?」


 アルスは言われたことに少し腹がたったのか、ムスッとしながら答える。


「これが不思議としていないんですよね。昨日は色々と考えていましたが、寝て起きたらこの通り。むしろいつも以上に頭が冴えわたっているように感じます」


 エバンは両方の手のひらを交互に見比べながら、凄く落ち着いた様子で話す。


 これなら心配は要らないな。


「そうか。ならいい。私のためにもエバンには頑張ってもらわなければならないからな。今日の一戦、期待している」


「情けない試合はしないつもりです」


 アルスはフッ、と笑みを零しながら、エバンの目を見てそう言うと、エバンは気合が入ったいい返事を返す。



 それからアルスも身なりを整え、食事をするためにダイニングルームへと足を運ぶ。


「おっ! アルスおはよう!」「おはようアルス。昨日はぐっすり眠れたかしら?」


「お父様、お母様おはようございます。はい、お母様。いつも通りぐっすり眠ることが出来ました」


 アルスはガイルとサラ、それぞれと挨拶を交わす。


 3人は所定の位置に腰を下ろし、食事を待ち、テーブルの上に食事が運ばれると、アルス達の食事が始まる。


 そして、それぞれ3人はいつも通りの食事を楽しむと、アルザニクス家恒例の家族水入らずの時間が始まる。


 やはり、この人達と会話をすると、心が落ち着く。


 アルスは何気ない日常通りの会話で、家族の大切さを痛感する。


 そんな3人は楽しそうに会話をしていたが、途中、エバンとガイルの決闘の話が挙がった。


「そういえばエバンの調子はどうだ?」


 ガイルがエバンを心配してか、アルスに問いかける。


「エバンの話だと、今日は調子がいいそうです」


 アルスは先ほどエバンから聞いた話をガイルへとする。


「そうか……、楽しみだ」


 ガイルは白い歯を見せるように笑みを浮かべていると、突然、ダイニングルームの扉が開き、セバスがエバンを引き連れて、部屋へと入ってくる。


「ガイル様。エバンをお連れしました」


 ガイルが事前にエバンをダイニングルームへ連れてくるよう、指示していたらしい。


「そうか、ご苦労だった。ところでエバン。決闘の件だが、今から3時間後でいいか?」


「大丈夫です」


「そうか。……エバン、楽しみにしている」


「……自分が持てる実力の全てをガイル様にぶつけるだけです。こちらこそよろしくお願いします」


 二人とも好戦的な目で見合い、間からは火花が飛び散っているように見える。


「ちょっと二人とも。場所を考えなさい」


 そんな二人にサラが水を差す。


「……すまん」「サラ様、申し訳ありません」


 やはり二人でもサラには逆らえないのか、注意されると二人共、肩を落としたようにシュンとしてしまった。


 これもアルザニクス家の日常か。

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