久しぶりの再会 その3

「だが、一つだけ……、エバンに求めることがある」



 お父様が……エバンに求めること?


 強さ? 判断力? もしかして……、ルックスとかか? 



 アルスはガイルの意図が分からずにいると。


「エバン。お前は俺の息子……、アルスの為に自分の命を懸ける事は出来るか?」


 自分の命を懸ける。つまり、いついかなる時でも自身の身を賭して、アルスを助ける覚悟があるのかというガイルの訴えかけだった。


「どうだ、エバン。お前にはその覚悟はあるか? もしないのなら今からでも……「あります!」……」


 ガイルが言いかけている途中、エバンが意志のこもった返事をする。

 

「ガイル様。私はアルス様に命を救ってもらいました。その時からアルス様だけに仕えようと。命を賭そうと考えてきました」


 決意は変わらないという、熱い思いがこもった目。


 その言葉と思いが、ガイルに通じたのか、ガイルは小さく笑みを零す。


「言葉だけだったら何とでも言える」


「では、どうしたら私の事を認めてもらえますか?」


 エバンがガイルへと質問する。


 すると、ガイルはその言葉を待っていたと言わんばかりに……


「俺と戦え」


 ニヤッと笑いながら、エバンへと答える。


「ちょっ、お父様!」


 アルスが驚いたように声を上げる。


「俺と戦って、一撃でも俺に攻撃を食らわせてみろ。そうすれば認めてやる。どうだ?」


 ガイルは挑戦的な笑みを浮かべながらエバンに問いかける。


 ガイルと戦闘と言われたら、並大抵の人間は困り果て、懇願するであろう。それは無理だから、違う事で認めてくれ……、と。


 だが、エバンは違った。 


「えぇ、お望みとあらば」


 むしろ、こちらからお願いしたい。胸をお借りしたい、と言わんばかりの好戦的な表情。


「おいエバン! いくら何でもお父様に一撃を入れるのは今のお前じゃ無理だ。今すぐ取り消せ」


 アルスは慌てて、エバンに約束を取り消すように言う。



 お父様に今のエバンが一撃をくらわすのはほぼ不可能だ。


 アルザニクス家は代々、武家貴族。歴代の当主たちは皆、ガチガチの武闘派といて名声を輝かせてきた。


 そんな当主たちでも手ごわいのに、今の当主であるお父様は、歴代3本の指に入る、国内でも有数な猛者。


 実際に、お父様が戦闘している所は見たこと無いが、噂を考慮するに、武力80は越えていると思う。


 対してエバンは武力67。最後に鑑定して数日は経っているが、武力70は越えていないと思う。


 80対70。数値に表すと最低でも10以上は離れている計算になる。


 もし戦場でここまで数値が離れた者同士が戦う事になったとしたら……、相手が疲れ切っていても一太刀入れるのすら厳しいだろう。



 冷静に状況を見極めるアルス。


 しかし、何度思考を重ねてもエバンの勝機はほぼ無い等しいと本能が訴えかけてきており、思い口を開こうとする。その時……


「いえ、アルス様。私が明日、ガイル様と戦わなければ、アルス様の従者という役目を剥奪されてしまうでしょう。それだけは絶対に嫌なのです。私はアルス様のために生きると決めました。その為ならどのような事だってします。しかし、アルス様の従者という立場から離れろという命令だけは絶対に聞きません。それが、ガイル様でしょうが、アルス様でしょうが絶対です」


 エバンが強い意志を感じさせる様な覇気を醸し出しながら宣言する。


 その言葉に一層、笑みを深めるガイル。


「ははっ! エバン! お前の心意気は気に入った」


 ガイルはそう言い放つと、席を立ち。


「明日の12時に庭で決闘をしよう。なに、こっちは本気は出さん。そうだな……、俺は利き手じゃない方で剣を振る事にしよう。それぐらいハンデがあった方が燃えるしな」


 エバンへそのように宣言すると、颯爽と部屋を出ていくガイル。


 そんなガイルへ一言、言いたそうな表情のサラがエバンへと近寄り。


「エバン、ごめんなさいね? もちろん私とアルスはあなたの実力を知っているからいいんだけど、あの人は一度、打ち合ってみないと相手の実力を認めない人だから……、一度戦ってあげて頂戴。もし、危なくなった場合は私が絶対に止めるわ。だから……」


 サラが申し訳なさそうにエバンへ話すと。


「奥様。これは私の我儘で始まったようなモノです。それに、王国騎士団2番隊、隊長の実力を知れるいい機会。胸を借りる気持ちで挑みますよ」


 エバンは嫌味一つない、晴れ晴れとした表情でそう伝えると、サラは安心したのか「ありがとう」と一言残し、ガイルの後を追って、部屋を出ていった。


 部屋に残ったのはアルスとエバンの二人だけ。


 アルスはエバンの決めたことに口は出さないと言わんばかりにエバンへ背を向け。


「エバン……、そこまで考えているのなら私は何も言わない。だが、相手は私のお父様だ。決して無理だけはするなよ?」


「はい。分かっています」


 信じているとだけ最後に伝えてから、部屋を後にした。

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