エバン VS ガイル その2
~アルザニクス家、庭~
それから時間が経ち、11時を過ぎた頃。
アルザニクス家の庭には、ガイルとエバンの姿はもちろん。サラやアルスの他にも、アルザニクス家の兵の者や、使用人も押し寄せ、賑わいを見せていた。
うわー。こんなに使用人や兵がいたのか。
アルスの視界には、50を超える使用人や兵の姿。
そんな光景に小さく驚きながらも、今回の主役である、エバンとガイルの決闘場へ視線を向ける。
ガイルとエバンが決闘を行う場所は、広大な庭へと白い塗料で線を引かれた、縦横20メートルに満たない四角形の、臨時に作った戦闘エリア。
その周りを野次馬と化した使用人や、アルザニクス家の兵等が囲み、一番見やすい正面のエリアには日よけのパラソルと、座りやすそうな椅子が数脚。
そこへ、アルスとサラが座り、二人の決闘を今か今かと待ちわびていた。
「今日はいい天気になりましたね」
アルスがパラソルの下から顔を出し、眩しそうに太陽を見る。
「そうね。天気が良いのは良い事だけど……」
そう言うのは、心配そうにガイルを見守るサラであった。
やはりお母様はエバンとお父様の決闘には消極的なんだな。
心配そうにガイルを見つめるサラへとアルスは近づくと。
「大丈夫です。お父様なら負けませんから」
アルスは心配を打ち消すような笑顔で話す。
嘘は言ってない。お父様が本気で試合に臨めばエバンに勝ち目は無いからな……
「そうよね……。ううん、何でもないわ」
サラは薄く安堵の表情を浮かべ、小さく呼吸をする。
そんなアルスはその場から少し離れ、ちらりとサラと確認し。
表情が軟らかくなった……、これなら大丈夫そうだな。
サラが大丈夫だと確認すると、自分の席へと戻った。
そう言えば、エバンとお父様は……
アルスは周りを見渡し、ウォーミングアップ中のエバンとガイルの二人を見つける。
アルスから見て右側に居るのは、父であるガイル。
ガイルは軽く体を動かしながら、木剣を巧みに操り、流れるような動作を一つ一つ確認していた。
惚れ惚れするような剣裁きだな。
剣術一つで、相当の使い手だという事が分かる。
そんなアルスはガイルが戦闘している所をまじまじと見たことが無いため、いち父親としてではなく、一流の剣士として動きを確認する。
お父様には王国騎士団特有の型にハマった剣術が一切見られないな。
騎士団隊長ともあろう者が王国騎士団の剣術を使わないなんて……、あり得るのか?
アルスは過去の記憶を辿る。
やはり……、お父様は王国騎士団の動きの基本となる型を一切、使用していない。
王国騎士団の型はどちらかと言うと大振りな薙ぎ払いがメインで使われることが多いが、お父様は大振りの剣術どころか、非常にコンパクトかつ、手数の多さが見て取れる。
「エバン……」
アルスはガイルの剣術に一旦区切りを付け、エバンへと振り向く。
対するエバンは……、木剣を振りながら、基本的な動作を何度も確認しているのか。
他から見てもとても丁寧な体運びで、木剣を持った右手で線をなぞるかのような美しい剣裁きを披露している。
そんなエバンを見ていたアルスは唖然とした表情で。
これが剣を持って数ヶ月だって?
出会った時とは考えられない程に成長した逞しい肉体。数ヶ月では到底至れないであろう熟練度。
これが才能……、いや、エバンの努力って奴か。
自分が発掘した最高峰の原石を目の前に、自然と身震いしてしまう。
そんなアルスとは打って変わり、エバンはウォーミングアップを終えたのか、地面へと座り込み、瞑想を始めていた。
自身の高ぶりを抑える手段として、瞑想は効果的。エバンもこの一戦に思いをぶつけるべく、集中しているという事か。
アルスは二人の邪魔をしてはいけないと思い、声をかけずに見守る事、数十分。
先にウォーミングアップを終えたのは、ガイルであった。
「……、よし」
ガイルは最後の確認としてか、木剣の腹をなぞるように撫でると、小さく頷き、エバンへと振り向き。
「エバン! まだ12時前だが人も揃ってるし、もうやれそうか?」
「……はい、問題ないです」
話しかけられたエバンは、ゆっくりと目を開き、立ち上がる。
「よし。決闘の内容の再確認なんだが、エバンの勝利条件は俺に一撃浴びせる事。俺の勝利条件はエバンを試合続行不可能にさせるか、降参させるかのどちらかだ。いいな」
「はい。大丈夫です」
ガイルは一瞬、笑みを浮かべると、二人は視線を合わせずに背中を向ける。そして、線が引かれたラインまで下がると。
「セバス! 審判を頼む!」
ガイルは周りに響き渡るような声量で叫ぶ。
その声を合図に、セバスが何処からともなく現れると。
「では、失礼して。ガイル様対エバンの決闘を始めます。判定はこの私、セバスが……」
二人の丁度真ん中に立ち、口上を述べる。
しーん。
先ほどまで騒がしかったアルザニクス家の庭は静まり返り、セバスの声だけが場を占める中。
セバスの口上が終わり、ガイルとエバンを見つめる者達は自分の呼吸音しか聞こえなくなる。
そして、セバスは両者をもう一度確認し、小さく目を閉じると。
「では、両者。正々堂々と試合に臨むように……」
そして、一呼吸、間を置き。手を空に上げ。
「始め!」
勢いよく手を振り下げ、戦いの火蓋を切って落とした。
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