運命の出会い

 アルスは軽い気持ちで黒髪の少年へと鑑定をすると、そこには信じられないようなステータスが広がっていた。




 名前 :エバン

 

 武力 :22/80

 統率 :11/73

 剣術 :22/80

 槍術 :11/62

 騎術 :05/73

 弓術 :03/71

 盾術 :08/79

 体術 :10/72

 隠術 :21/68

 

 智力 :12/82

 政治 :15/83

 魅力 :21/86

 忠誠 :50

 野望 :12


 突破 :0/3

 成長 :S



 え……、俺の見間違いか? 


 あまりのステータスの高さに見間違いを疑う。

 

 鑑定眼鏡を取り外し、レンズの部分を良く拭く。そして、自分の目を数度擦り、また鑑定眼鏡をかける。


 鑑定……


 意を決して、再び鑑定眼鏡に表示されたエバンのステータスを確認する。



 名前 :エバン

 

 武力 :22/80

 統率 :11/73

 剣術 :22/80

 槍術 :11/62

 騎術 :05/73

 弓術 :03/71

 盾術 :08/79

 体術 :10/72

 隠術 :21/68

 

 智力 :12/82

 政治 :15/83

 魅力 :21/86

 忠誠 :50

 野望 :12


 突破 :0/3

 成長 :S



 やっぱり俺の見間違いじゃ無かった……


 アルスは先ほど見たステータスの数値が変わっていない事に安堵し、気を抜く。

 が、徐々に今自分が置かれている状況が異常な事を理解していく。


 俺は目をパチクリさせ、フリーズするというワンテンポを挟み。


「えっっっっ!? まじ!」


 驚きに駆られた様な叫びを声を上げてしまう。

 そんなアルスの突然な声に周りは驚き、黒髪の少年、エバンも地面に手を付けながらアルスを見上げてるようにポカンとしていた。


 おいおいおい! まじかよ! 

 こんな所に滅多に見かけないレベルの逸材がいるなんて!


 アルスは極度に興奮した状態でエバンのステータスを再度確認する。


 初期のステータス限界値、80越えがちらほら。

 何より突破と成長が高いのがとても高評価だ!


 ってか、突破3回に成長Sってさ、限界まで成長させたら、どれかのステータス100越えもあり得るぞこれ……


 俺はあり得る未来へと想像を膨らませ、原石を見る様な目で、ゆっくりとエバンへと近づく。


「アルス様! それ以上は……」


「大丈夫だ」


 俺はエルドへと手を向け、制止する。

 そして、今一度エバンへと振り向き、声をかける。


「君、名前は何というんだい?」

 

 鑑定した時点で名前は分かるんだが、エバンはその事を知らない。


 名前を教えていない初対面の相手に名前を呼ばれるのは流石に怪しまれるよなと考え、自然な風を装い名前を聞く。


「エバンです! お願いします。どうか私を働かせてください! 何でもします!」


 エバンは切羽詰まった様子で答え、地面に擦り付けながら頭を下げ、俺に願いを乞う。


「アルス様! お離れください! おいお前! 身元も分からない奴を雇うわけないだろう! 早くどこか「うんいいよ」……」


 エルドの話の途中で、俺は答える。


「「えっ?」」「えっ? 今……なんて?」


 すると、エルドとモーリーは驚きの表情を浮かべ、エバンは訳が分からないと言った表情で硬直する。


 おいおい。聞いた本人が驚いてどうする。

 まぁ、ダメもとで聞いたんだろうけど。


「だから、君を雇ってあげると言った」


 その言葉の意味を段々と理解してきたエバンは、目じりから涙を流す。


「ほっ、本当ですか!? あっ、あぁ……」


 そして、エバンの目から流れる涙の量が増えていき、何度も感謝の言葉を俺へと伝えるのであった。


 その様子に唖然としていた護衛の二人であったが、直ぐに気を持ち直し……。


「アルス様。いくら何でも得体のしれない人物を雇うのはやめた方がよろしいのでは……」


 エルドは心配した様子で俺に忠告する。


 エルドの言うことは正しいが、鑑定眼鏡の鑑定眼鏡が一番だからな。


「エルド、これは私が決めたことだ。心配するな」


 俺は問題は無いといった様子で、エルドに話しかけると「アルス様が良いのであれば」と、納得してくれた。


「エバン。君を雇う条件は二つだ。一つは私の事を絶対に裏切らない。二つ目は私がする事を信じて付き従うことだ。これが守れないならのであれば、この話は無かったことになる。どうかな?」


 どうだ……?


「分かりました。従います。私の命はどうなっていいので、どうか妹を。妹の命をお救いください!」


 エバンは了承の意を伝えると、たった一つの願い。妹を救う事を俺へとお願いしてきた。


「あぁ、分かった。アルス・ゼン・アルザニクスの名に誓って、お前の妹の命を救うと誓おう。しかし、私が用あるのは君だけだ。私のためにも、そして妹のためにも自分の命を大切にしなさい」


 俺は真剣な表情で自分の名前へと誓う。そして、エバンへ忠告をする。


 

 この世界での自分の名前に誓う行為は、神の名に誓うことと同じくらい重い契りである。

 もし、この契りを守れなかった時は、その者の信用は地に落ちると言われており、貴族の者が名の契りをするという事は、それだけで絶大な信用たるモノになる。


「貴族様だったのですか! 貴族様の名の契りは凄く重いもの……、分かりました。もう一度あなた様に……、アルス様に誓いを」


 エバンは片膝を地に付け、右手を握り、心臓近くに当てる。

 そして、俺へと視線を向ける。


「私の命はアルス・ゼン・アルザニクス様のために、いつ、いかなる時でも差し出すと誓います。もし、アルス様が私へ剣になれと命じるのなら、武の腕を磨き、いかなる敵をも屠りましょう。盾になれと命じるのなら、あらゆる護身術を学び、いかなる攻撃もあなた様に届かせないようにしましょう。これが私なりの忠誠の誓いです。私の忠誠を受け取ってもらえるでしょうか?」


 これがエバンなりに考えた誓いなんだろう。


 そんなエバンの忠誠の誓いを受け、アルスは嬉しそうに笑みを浮かべ。


「エバン、君の忠誠は受け取った。これから末永くよろしく頼む」


 俺は答える。そして、さりげなくエバンにもう一度鑑定を施す。


 おっ。忠誠値が90になってる。これなら裏切りも心配ないな。

 ってか、野望が12しかないし、元から心配いらなかったか。


 忠誠値を上げるには相手の要望を聞いてあげ、相手が喜ぶ事をしてあげるのが一番の近道だ。


「モーリー。エバンと一緒に妹の様子見てきてあげて。出来る事なら今日中に屋敷の方に連れてきてあげてほしいな。そうすれば屋敷に常駐している医者にすぐ見せられるからさ」


 俺はモーリーにお願いと言う名の命令すると、「分かりました」と一言だけ残し、エバンと一緒に町へと消えていった。


「本当に良かったんですか? 奥様に聞いてからでも遅くはなかったのではないでしょうか?」


 俺を心配するエルド。

 

「いいんだよ。まぁ、お母様がどんな反応をするかが分からないけど、どうにかなるさ」


 俺はそんな事を言いながら、母親にどう説明するかを考えるよりも先に、これからエバンを使ってどう動いていくか、他にどんな人材が欲しいのか等を思い浮かべていた。



 これが近い将来、アルスの右腕となるエバンとの初めての出会いであった。


 そして、アルスの今後の運命を大きく変える、とても重要な日となったのである。

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