町で最初にやることは その2
俺たちはカフェを後にし、奴隷館へと足を運んだ。
「ここが奴隷館か……」
建物は白を基調としており、中々に美しい。外観だけではここが奴隷館だとは思えほどに。
俺たちは到着すると、モーリーが俺に一声をかけ、店内へと入って行く。
しばらくしてモーリーが出てくると、少し遅れて痩せ気味の男性が慌てた様子やってきた。
「これはこれは、アルス・ゼン・アルザニクス様。ようこそおいでくださいました。ガイル様を始め、アルザニクス家の皆様には……」
長話をするはめになるなと思った俺は。
「奴隷館というものを見学したくて参っただけですので、挨拶はもう十分です。それより、中を見せてもらえませんか?」
話を遮り、中を見せてほしいと話す。
「はい、どうぞこちらに。そうでした、私の紹介がまだでしたね。私の名前はリウスと申します。これからもどうぞよろしくお願いします」
リウスがそう言うと、俺は一言、「こちらこそ」と返し、リウスは奴隷館の中へと俺を招いた。
中も綺麗なんだな。ゲームなどでは不衛生な場所で奴隷などを押し込んでいたから、てっきりそういう感じかと想像していた。
中へ入ると俺は、不躾にその奴隷館の中で一番値段から高い順に奴隷を見せてくれと言い、鑑定眼鏡を準備する。
すると、リウスはピタッと止まり、俺を見つめる。
流石に急過ぎたか?
10歳ぐらいの若造に入店早々「高額な順から奴隷を見せろ」は、プライドに障ったかと考え、新たに言葉をかけようかと考えていたその時。
「あ……、あの。アルス様! それはもしや……、最上級の鑑定眼鏡ではないですか!?」
想定していたものと別のものに食いついて来た。
知っていたのか。前世でこの眼鏡を知っている奴はプレイヤーと一握りのNPCだけだったのだが、こいつもその中の一人だったという事か。
「えぇ、そうですが」
「とても失礼なお願いだとは分かっているのですが……、近くで見せていただくことは……」
鼻息を荒くしたリウスは俺へと近づき、鑑定眼鏡へと手を伸ばす。
それに反応したのは護衛二人。
護衛二人は俺を守るように、リウスと俺の間に割り込むように体を入れ。
「おい! そこまでの行動をアルス様は貴様に許した覚えはないぞ!」
エルドは声を荒げながらリウスを取り押さえると、地面へと押し倒し、モーリーは無言でリウスの手を掴んで引っ張り上げた。
「すっ、すいません! つい、アルス様がお掛けになっている物に興味をそそられてしまいまして……」
そんなことを言いながらリウスは一生懸命、俺に謝る。
突然の事態に唖然しながらも、リウスを開放するように説得すると、渋々二人はリウスの拘束の手を緩めた。
開放されたことに感謝をするリウスであったが、次には息をのんだ様子で俺に交渉を持ちかけてきた。
「アルス様、無礼を承知で申し上げます。そのアルス様がかけていらっしゃる眼鏡をお譲りいただけないでしょうか。お金ならいくらで「あっ、この眼鏡は絶対に譲らないから」……」
リウスが話している途中で、話を切る俺。
「そっ、そうですよね。王都のオークションでも数年に1つ程しか見かけない物ですし、もしオークションに出品されたとしても聖金貨数枚。いや、近年は全くと言っていいほど見かけないので聖金貨10枚はくだらないでしょう」
すごく気を落としながらリウスはご丁寧に説明をする。
えっ! まじ? この眼鏡そんなにするの? 聖金貨って、1枚で大金貨10枚の価値よ? そんなに高騰してるとは思ってなかったわ。
ほんと親に感謝だな。
そんなことを思っていると、ちょうどリウスの部下が奴隷たちを連れてきたので、奴隷たちの鑑定へと取りかかった。
~それから1時間後~
「はぁー」
俺は気を落としながら、奴隷館を後にしていた。
選りすぐりの奴隷たちじゃ無かったのかよ……。
俺はその場にいる奴隷はもちろん。奥にいる奴隷たちまで見て回ったのだが、お眼鏡にかなう奴隷は見つからなかった。もちろん、見た目が良い奴や、強そうな奴はいた。しかし、俺が探しているのはこれから先、共に助けあい、尚且つ未来性がある人材だ。
……、ホントにそんな奴いるのかな……
俺はエルドに用意してもらっていた馬車の中で、今日は成果なかったなと、一日を振り返り、弱気になっていた時、突然外が騒がしくなったのを感じ取った。
「ん? 盗賊か?」
エルドとモーリーのステータスは強者相手には物足りないが、そこら辺のチンピラには十分通用するレベル。心配することも無いか。
そんな事を思いながらも、やっぱり外の様子が気になり、馬車の窓を少し開けて確認すると……
「すいません! 私を雇ってもらえませんか!」
透き通った少年の声が聞こえてきたではないか。
突然の声に、一体何が起きている? と気になった俺は窓から顔を覗かせる。
すると、馬車の通る道のど真ん中に、見るからに薄汚れた洋服に身を包んだ、黒髪の少年が頭を下げながら叫んでいるのが分かった。
「おいお前! 悪いことは言わない。早くそこをどきなさい」
エルドが少年に早く退くよう注意する。
「お願いします! 妹が病気で、今すぐに大金を稼いで医者に見せる必要があるんです。何でもします! だからお願いします! 私を雇ってください!」
その真剣な様子にエルドは怒るに怒れなくなったのか、後ろを振り向き、馬車へと近づいてくると、ばっちり俺と目線が合う。
おいおい。こっちを見るな。
俺は一度は無視しようと考えたのだが、何だか少年を少し哀れに思い、馬車から降りると。
可哀想だとは思うんだけどな。この子と似た境遇の子が世の中に沢山いるだろうし、そんな子供たちを助けてあげようだなんて、聖人まがいな事は俺には出来ない。
でもな、この少年と妹、二人ぐらいなら助けてあげられるぐらいには家は裕福だし、これも何かの縁だ。一応ステータスを鑑定するだけして、使用人として雇ってあげるぐらいなら出来なくもないかな……
俺はそのような考えに行き着き、懐から鑑定眼鏡を取り出す。
そして、鑑定眼鏡を掛け、黒髪の少年を鑑定すると、そこには驚きの鑑定結果が待っていた。
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