キーアイテム
あれから俺は剣術を学ぶため、庭へと足を運び、剣術の先生と一対一の指導をしてもらった。
その剣術の先生はこの辺りじゃ有名な人らしく、とても分かりやすい指導だと思ったが、俺の剣術は一向に上達しない。
俺には才能がないのだろうか?
そんな事を考えながら、剣術の指導で汚れ切った体を洗い終えると、綺麗な衣服に身を包み、家族が待つダイニングルームへと移動する。
アルザニクス家では、都合が合う限り
「アルス。今日は剣術の授業はどうでしたか?」
俺の正面に座るのはいつもお母様だ。
長方形の形をしたテーブルの先、歴代のアルザニクス家の当主たちの絵が飾られた真下にお父様が座り、父から見て右手にお母様が。左手に俺が座る形で食卓を囲む。
「はい、お母様。今日は基本的な動作の確認と素振りを見てもらいました」
お母様は俺の話を聞くのが好きなようで、いつも食事後に話題を振ってくる。
「そうですか。この調子で頑張りなさい。でも、辛かったり、大変だったりしたらすぐに言うのですよ?」
こうやって気に掛けてくれるのは良いのだが……少し過保護すぎるよな、と我ながら思っている。
「分かっています。お母様。絶対に無理はしませんから」
俺はそう答えると、今日の本題を切り出した。
「お母様。お願いがあるのですが……」
「アルスがお願いをするなんて……。ここ最近、私達にお願いを言わないものですから、親として心配していたのです。何でも言いなさい! お金かしら? それとも高価な武器が欲しいとかかしら? それとも……」
俺が久しぶりにお願い事をしたので、親として嬉しくなったのか、お母様は口早に俺が欲しいと思う物を次々と口にする。
いやいや、全然お願いを言わないって……欲しいモノがある程度買えるぐらいにはお小遣いを貰ってるから、別にお願いしなかっただけで……
俺は興奮しきったお母様を上手く落ち着かせながら話す。
「いえ、私が欲しいのは鑑定眼鏡です。出来ればグレードが一番高い物を。あと、町にも出かけてみたいのですが……」
「鑑定眼鏡……ですか? セバス。こちらへ」
お母様は何故そんな物を? という表情を浮かべながらも、セバスと呼ばれる、アルザニクス家で一番位が高い使用人を呼んだ。
「はい、サラ様。私はこちらに。何でございましょうか」
ダイニングルームの片隅に立っていた人物が素早くお母様の背後へと立ち、答える。
「鑑定眼鏡の一番良い物を用意なさい。あと、アルスが町に行く時は護衛を最低でも2人は付けて町へ送り出してあげなさい。いいですね?」
お母様がセバスへ指示を出すと、セバスは一言「承知いたしました」とだけ返事をし、部屋の隅の定位置へと戻る。
「アルスもいい歳になりましたし、町へ出かけて見聞を広めるべきでしょう。しかし、護衛は最低2人は付けること。夕食までには家に戻ること。いいですね?」
俺は「分かりました」とだけ返事をして、その日の食事はお開きとなった。
~~~
俺は自分の部屋へと戻ると、引き出しから紙を取り出し、独り言を呟きながら紙にこれまでの事を書き出していた。
「よし、仲間集めに必ず必要なアイテムは大丈夫。明日には町に出れる。それにしても、ここは転生先として大当たりだよな。4大貴族として生まれる事が出来たし、親も優しいし、何より美形ときた。その影響で俺も前世が霞むほどのイケメンになれたし……。でも、本当にうれしいのはこの家の資金力もそうだが、町がデカい! それだけで、この町の人口は期待できるし、もしかしたら望みのいい人材が見つかるかもしれない!」
俺は一人でニヤニヤしながら紙にこれからすべきことや、ゲームに関して覚えている裏情報などを忘れないうちに書き出していった。
~次の日~
俺は屋敷の庭で、護衛二人の紹介を受けていた。
「本日アルス様の護衛をさせていただきます、エルドと申します。私の横にいるのがモーリーです」
一人は高身長、美青年であるエルド。もう一人は茶髪の平凡そうな青年、モーリーが自己紹介をした。
「こちらこそよろしく。あぁ、そうだ。町に行く前にこの眼鏡を君たちへ使ってもいいかな?」
「眼鏡……ですか? 勿論構いませんが……」
俺は手に持っていた眼鏡をエルド達に見せると、二人は訳が分からないといった表情ながらも、承諾をしてくれた。
今俺が持っているこのアイテムが通称、鑑定眼鏡。
プレイヤーなら最低でも1つは持っていなくてはと言われる、グレシアスでも1、2を争う必須級アイテムだ!
このアイテムの何がすごいかって?
このアイテムはな。実は……人のステータスを見ることが出来るんだ。
つまり、人材集めに打って付けのアイテム。
これだけでも、こいつの凄さは分かってくれたと思うが、一つだけ欠点がある。
それは、値段がクソ高いという点だ。
この眼鏡はグレードがあって、俺が今回頼んだのは一番グレードが高い、最上級と呼ばれる部分に分類されているんだが、普通の鑑定眼鏡でも金貨20枚はくだらない。
更にその上の上級は、金貨100枚。
そして、今、俺の手にある最上級。
一番グレードが高いこいつは金貨500枚以上と、化け物じみた値段になっている。
ってか、最上級は手に入りずらいで有名なんだが、よく次の日に用意できたな。
上級でも簡単には手に入らないから、オークションの日までお預けってのを覚悟してたんだけど……
転生先の家が資金力もあって、こんな値段が高くて希少性の高い物をポンッてくれる凄い親でよかったよ……
そーいえば、皆は金貨の価値がどれ程か分からない事だろう。そこで簡単に通貨の説明をしよう。
まずこの世界で良く使われる通貨には、銅貨、銀貨、金貨の3種類がある。
こう言われても、中々ピンとこないだろうから、例を挙げると、金貨1枚で一般の家庭は1ヶ月生活できる。
これを聞いただけで、この眼鏡の値段の高さが分かるだろう。
金貨100枚なんて言ったら、一般家庭100ヶ月、約8年生活できるぜ?
最上級の鑑定眼鏡となったらどれだけお金を積むことになるんだか……俺には想像つかないな。
*銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚。金貨100枚で大金貨1枚。
何なに?
鑑定眼鏡の使用方法が知りたいだって?
それは簡単さ。
この眼鏡をかけて、相手を見るだけ。
本当にただ、見るだけなんだが、その際に相手をジロジロ観察しなければならないから結構目立つ。
不審者として捕まってもおかしくないほど不自然だ。
そこで俺はそんな不安を解消するべく、護衛達を実験台にして周りからどう見られるかを試そうと考えている。
その他にも、ゲームの世界と同じ表示をするとも限らないから、練習も兼ねて、護衛達で試してみたいって気持ちもあったしな。
あっ、そうだ。
俺は名案が閃いたとばかりにポンッと手を打つ。
この護衛達が良いステータスを持ってたら、お母様にお願いして俺専属の護衛にしてもらうのもいいな。
うん、そうしよう。
俺は少しの期待を寄せながら、二人へと振り向く。
良いステータスであってくれ!
エルド、モーリー。頼むぞ!
そう心の中で祈りながら、鑑定眼鏡をかけ、エルドとモーリーへと鑑定を施すのであった。
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