鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが~ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい!~
ガクーン
俺っ、もしかして鬼畜ゲーのキャラに転生しちゃった?
「奥様! 元気な男の子です!」
ある屋敷の一室から女性の声とやや遅れて赤ん坊の産声が響く。そして、その声を合図に屋敷に騒がしさと活気が増していく。
赤ん坊の声が発せられた屋敷の一室では助産師と思われる高齢の女性が、生まれたばかりの子をお湯が入った桶の中で慎重に洗い流していた。
その横では母親として最初の戦闘。
つまり……出産を終えた女性が肩で息をしながら、生まれたばかりの愛しき我が子を見つめている。
「どうぞ、サラ様」
助産師が赤ん坊を温かいお湯と布で体を綺麗にし、白い布に包んでサラと呼んだ女性へそっと渡す。
「あぁ、私の子……。私のかわいい子」
顔に汗を搔き、声を乱しながらもながらも、ホッとした様子で助産師から子を受け取るサラ。
そして、大事そうに抱き抱えると、慈母のように慈しむ様な優しい顔つきでその子の名を呼ぶ。
「貴方の名前はアルス……。アルス・ゼン・アルザニクスよ……」
サラがアルスと戯れるなか、ベットの横にはサラの夫であるガイル・ゼン・アルザニクスが心配そうに我が子と妻を見守っていた。
「あなたもアルスを抱いてくれませんか?」
サラが大事そうにアルスをガイルへと渡す。
するとガイルはどう接していいのか分からないのか、少々動揺しながらも、大事そうにアルスを腕に抱く。
「っっ! 子供は……こんなにも軽いものなのだな……。だが、命の重みを感じる……。これが我が子の重さか……」
ガイルは目尻に涙を溜めながら嬉しそうに言うと、二人はアルスを間に挟みながら、束の間の夫婦の会話を楽しむのだった。
その日生まれたのは、王国の4大貴族であるアルザニクス家、当主の子供。
更に長男ということもあってか、アルザニクス家に子供が生まれたという話はすぐに王国中に知れ渡った。
その日から一週間後には盛大な誕生パーティも行われ、王国の各所から名だたる貴族が押し寄せ、ガイルやアルスに様々な賛辞を贈った。
しかし、この男の子がどの様な人物なのかを、そして波乱の人生を送ることになるだろうと考える者はまだ、誰一人としていなかった……
~あれから10年後~
「アルス。今日は剣術を学ぶ日ですね。先生の元で色々と学ぶことがある事でしょう。頑張りなさい」
職人の手によって作られたと分かる豪華な装飾が施された椅子に座るのは華麗な衣装に身を包み、手入れが整った金髪を腰まで伸ばした絶世の美貌を備えた女性。サラ・ゼン・アルザニクス。
「はい、お母様。頑張ります」
そう答えるのはサラの子供。アルス・ゼン・アルザニクス。
アルスも母親譲りの整った顔に、美しい金髪を肩にかからない程度に伸ばしており、少女の様にも見えるがはっきりと言おう。アルス・ゼン・アルザニクスは男である。
「くれぐれも怪我だけは気を付けるのですよ? アルスが怪我でもしたら……」
「大丈夫です! これでも私はお父様の子供ですよ? そのような心配はいりません」
自信満々に発言するアルスを見て、サラは安心したのか。
「……分かりました。頑張るのですよ」
とアルスに声をかけてから、サラは部屋を後にした。
そんなアルスはサラが出ていった扉をじっと見つめ、足音が遠くなっていったのを確認すると、そっと椅子から降りる。
「先生が来るまでまだ時間はあるし、部屋でもう一度歴史の勉強をするか。それにこの世界が
アルスは誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、足早に自分の部屋へと戻っていった。
~アルスの自室~
「ここなら誰にも見られない。それじゃあ、もう一度この世界について整理してみるか」
アルスはペンと紙を取り出し、何かを書き始める。
私は……いや、俺はアルス・ゼン・アルザニクス。
皆からはアルスと呼ばれている。
あとは、勉学が飛びぬけて出来るもんだから神童と呼ぶ者もいる。
まぁ、これには秘密があるんだが……実は俺、この世界に転生したんだ。
ここで簡単に前世の話をすると、俺は大学生だったんだが、ある日。趣味の一人旅行に行くために空港まで車で運転途中、突然前からトラックが車線をはみ出してきて、慌ててハンドルを切ったけど、時すでに遅し。
それで気づいたらこの世界に転生してたって訳さ。
まぁ、前世の話はこのぐらいにして、俺がこの世界に転生して分かったことが一つだけある。
それは……この世界は前世、俺が夢中になっていたゲームが舞台だということだ。
そのゲームの名は『グレシアス』
グレシアスは領地運営ゲームなんだけど、難易度が飛びぬけてるせいか、マニアの中では通称、鬼畜ゲーと呼ばれていた。
何故、グレシアスが鬼畜ゲーって呼ばれてるかって言うと、理不尽極まりない無茶苦茶な要素が盛り沢山で、攻略本片手にプレイしていても、ちょっとの不運や失敗ですぐゲームオーバーになる……そんな理不尽ゲーだったんだ。
その内容を少し話すと、他国や他領から侵略され、領地を蹂躙されるのは序の口で、策略や暗殺なんでもあり。なんなら、初っ端からどう転んでも勝てるはずもない強敵に打倒されることもしばしば……
そんなんだから、このゲームで生存すること自体が超難しいんだよね。
こんな理不尽ゲーを作った運営でさえ、コンテニューありきで作成したって明言してるぐらいだし。
といった具合で、グレシアスは何十回、何百回とコンテニューして、初めてクリアできるっていうゲームになっている。
俺も前世ではこのゲームにハマって、休みの日とかオールでやったこともあるけど、本当に難しくて10年いかないでゲームオーバーも結構あった。
もちろん、廃人の端くれを自負している俺も例に漏れず。ノーコンティニューを目指して頑張っていた時期もあったがもちろん出来るわけもなく、前世では一度もノーコンティニュークリア出来ないで終わったよ。
……あれ? 今一度考えてみたけど……無理ゲー過ぎない?
アルスは今になって、自分の現状の危険さを理解する。
しかもさ、今ヤバイ危機に陥りそうになっているんだよね。
更にアルスは深刻そうな顔をする。
それは……もうすぐ王国内で戦争が始まるんだ。
それも1年以内に。
俺も驚いている。
やばいよね。
1年以内だよ?
今すぐ行動を開始しなければ、本当に危ないよ。いや、今からでも危ない。
ゲームだったらコンテニューを繰り返せるからいいけど、今回はコンテニューできないよね?
出来るのかもしれないけど、1度死んでコンテニュー出来ませんってなったら、取り返しのつかない事になるから、コンテニューは出来ないと思ってこの先行動していこうと考えている。
……ここで皆は疑問に思った事だろう。
何故俺がここまで深刻な状況に陥るまで行動に移さなかったのか? とね。
これは本当に情けない話なんだけど、最近になってこの世界がグレシアスだってことに気づいたんだ。
俺は今の今まで、外出する事はおろか、屋敷の中で出来る事だけしかやってこなかったからこの世界の事をまるで分っていなかった。
そんな俺がどうしてこの世界がグレシアスだと気づけたかと言うと、転生した家が貴族だったから、偶然この世界の地図を見る機会にありつけたんだ。
この世界では地図は貴重なモノ。
俺は珍しさからその地図と睨めっこしていたら、ふと、この地形。何処かで見覚えあるなー、と感じたんだ。
それで、喉に何かがつっかえているような気持ちをここ数日感じながら生活していたら、昨日、やっとそのつっかえから解放されたんだ。
あぁ、これはグレシアスの世界そのものだってね。
もちろん、地図だけじゃなく歴史も色々と調べなおしてみたら、グレシアスと一致する内容が多々あったから、高確率でこの世界はグレシアスだと思う。
そんな訳で俺は今すぐにでも行動を開始したいと思ってる。
グレシアスで一番重要なのは序盤の進め方だからさ。
序盤の行動次第でこの先の展開が決まると言っても過言じゃない。
そんな俺が今すぐにでもしなければいけないこと。
それは……信頼できる強い仲間をゲットすることさ!
グレシアス序盤の鉄則は、資金集め、情報収集、仲間集め。の3つなんだけど、一つ目の問題である資金集めは、アルザニクス家に生まれた時点である程度は解決できてる。
そりゃ、徐々に自分が扱える資金を増やしていくようにはするけど、現時点ではお小遣いでどうにかなる。
二つ目は、前世の記憶を頼りにすれば、ほぼ解決したと言っていいだろう。
その他にも必要な情報だったりはあるが、それらについては当てがあるからどうにかなる。
つまり、俺が解決しなくてはいけないのは、三つ目の仲間集めだ。
これからどれだけ有能で頼りになる仲間を獲得できるかによって、この世界で上手く生き残っていけるかが決まるからな。
明日にでも仲間集めに向けてのアクションを起こそうと思ってる。
あと最後に、俺がこの世界に来たからには絶対したい事がある。
それはこの世界で嫌われ役になるであろう、ある悪役令嬢の最悪な未来を回避させてあげることだ。
会うのはまだ先だと思うけど、本当にいい子なんだ。
そんな彼女があんな悲惨な結末を遂げるのは間違っていると、長年思い続けてきたら、こんな形でチャンスが訪れた。
男ならそのチャンスを活かさない訳にはいかないだろう?
だから、俺はその子が笑っていられる世界にしたいと思ってる。
おっと、もうこんな時間か。
剣術の先生が来ちゃうから俺はもう行くけど、これからの行動方針は、まず仲間集めって事だけは皆に伝えておくよ!
じゃあ、また!
これはグレシアスと呼ばれた鬼畜な世界で、アルス・ゼン・アルザニクスが生き残りをかけて仲間と共に奮闘し、最終的には悪役令嬢の未来を変える物語である。
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