第22話

 目を覚ますとソファーで横になっていた。

 作業が終わる頃には日が暮れていたのに、今は明るい。

 どれぐらい時間が立ったのだろうか。

「嘘だろう、ぐっすり寝ている余裕なんて無いのに」

 まだ必要な作業は山積みだ。

 糸で縫って束ね、ノリで革表紙を貼り付ける。

 金属のフレームを取り付け、魔石をはめ込む。

 魔法が正常に機能するか検査をして完成となる。


 そんな作業を一冊一冊、丁寧に行う時間が足りるのか解らない。

「考えるより行動しないと」


 直ぐに作業場に向かう。

 シーオが仕上げを行っていた。

「ユウ君、性能テストを行っていた所だ。

試してみるかい?」

「はい」

 魔法の書は、表紙に手を置き呪文を念じると発動する。

 これは炎を矢のように投擲する効果がある。

「近距離、中距離、遠距離の3種類があり、威力と射程が違う。

窓から外にある的を狙ってみてくれ」

「はい、ファイアボルト!」

 火の玉が飛んで行く。

 的に当たり少し焦がした。

「それは中距離かい?」

「いえ、近距離で狙いました」

「あれは遠距離用の的だ。

本来なら途中で消えている」

「……性能が違ってことですか?

固定値だったのでそのまま流用したのに」

 考えられるとしたら、余分な処理によって消費していた分が威力に加算されたのだろう。

「君の自由に改善してもらっても良いと思っている。

失敗しても、私が責任をとるから安心してくれ」

 任せてくれたのは嬉しい。

「はい、喜んで」

 使ってみると、不便な物は結構ある。

 改善点を進言したら、不満な顔をされるだけだ。

 いい上司に巡り会えて最高だ。

 直ぐに何度も試し、調整を行う。

 趣味で作っていたゲームみたいで、こういう調整をしている時は結構楽しかったりする。

 実際に見て、挙動を確認できると言うのが大きい。

 それが達成感に繋がるからだ。

「随分と楽しそうだ」

「ええ、思いのままに出来るのは気持ちいい」

 改良はすぐに終わった。

 まだまだ改良できそうな所はある。

 1から作り直したいと言う病的な欲望を抑えた。

 それは時間が幾らあっても足りないからだ。

「おもったより早く出来たようだね」

 シーオは完成した魔法書を確認して笑みをこぼしていた。

「どうですか?」

「実に良い仕上がりだ。

想像を遥かに超えていた」

 その言葉だけでも心が踊りだしそうだ。



 次の日、作業場に向かうと何故かアンズが作業していた。

「ぐっすり眠れたようね」

「どうして君が?」

「猫の手でも借りたいでしょう?

これぐらい私にも出来るわ」

「でも審査が通らないと、無駄になってしまう」

「これは信頼の証よ。

審査を待っていたら時間が足りなくなるわ」

 そう言うと彼女は手早く針で糸を通し束ねていく。

 負けてはいられない。

 直ぐに針に糸を通そうとしたが難しく指を指してしまった。

「痛っ」

「ふふっ……、結構不器用なのね」

 血の出た指をアンズが舐める。

「これぐらい大丈夫、……糸通しは得意じゃない」

 前世では裁縫はミシンで行っていた。

 機械的な道具が欲しい。

 構造を知っていれば再現したのだが、全く想像もつかない。

「簡単に出来る方法は思いついたりはしない?」

「雑誌とか、金属で止めてたりしてたな。

それなら簡単にできそう」

「金属は魔法に影響するから、糸が使われているの。

流石にユウ君でも難しいようね」

「……残念だけど、そうみたい」

 針に糸を通してもらい、作業を始めた。

 束ねた紙に針で穴を開けるのは結構力が必要で時間が掛かる。

 穴を開けておけば、少しは楽になるだろう。

「手が止まっているわ。

大丈夫なの?」

「これは俺には向いてない。

だから別のことをする」

 生産効率を上げるにはネックとなっているのがチェックだろう。

 それを自動化すればかなり時間短縮に繋がる。

 後はコンベアで流して行くようにすれば、運ぶ手間もなく手元にやって来る。

 弁当箱に食材を入れていた作業が懐かしい。

 ベルトコンベアの前にずらりと並んで、目の前にある食材を入れるのだ。

 自分が終わると次の人に流れていく。

 そうやって流れ作業をしていた。


 

 

 そして、受け取りに貴族のおっさんがやってくる。

 ハの字に伸ばした髭の先を触りながらでかい態度で言う。

「納品予定の品を受け取りに来た」

 ぞろぞろと兵士が並び、威圧的に武器を遊ばている。

 そんな態度に臆することなくシーオは微笑む。

「お待ちしておりました。

何時もと違い大勢でいらしたのですね」

「大量に解雇したという噂を耳にしてな。

納品ができないのではと心配しておるのだ」

「出来ております。

ご確認を」

 積み上げられた木箱を見ておっさんはため息を付く。

「どう見ても、半分の量しかない。

決まった数を用意してもらわないと困る」

「きっちり指定された数を用意してあります」

 おっさんは箱を開き、魔法書を取り出し不機嫌そうに地面に叩き落とした。

「なんだこれは、こんな薄っぺらいまがい物を用意したというのか。

こんなものしか用意できないとは地に落ちたものだな」

「鑑定書があります」

 魔法ギルドが発行している正式なものだ。

 その評価は特級であった。

「なんだと、こんな薄っぺらいのがありえん」

「ギルドの審査を疑いですか?

このユウ君が新たな技術で作り上げたのです」

 えっ俺に振るの?

 兵士たちの目線が集まる。

 その目から何故か憎悪を感じた。

 怖い、逃げたい……。

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