5章

第21話

「ええぇっ……」

 ローヌは慌てて俺の口を塞ぎ黙らせた。

「余り大きい声を出さないで下さい」


 目玉商品の販売が上手くいき、売上がかなり出ている。

 ボーナスを貰ったばかりだった。

 にも関わらず、経営の危機が訪れ破産するかもしれないというのだ。

「信じられない、俺の責任なのか?」

「無関係とは言えないですが……。

あの強欲な男に目を付けられた為です」

 どんな卑怯な手を使っても欲しいものは手に入れる。

 そんな強欲な男らしい。

「そんな奴に負けたくはない」

「数多くの妨害が予想されます。

覚悟しておいて下さい」

 それは数日後に現実のものとなった。


 

 日が登り光が顔を照らす。

 眩しさに目を覚まし、寝ぼけつつ着替えようとしていた。

 そんな時にアンズが部屋に飛び込んくる。

「ユウ君、出ていかないで!」

「えっ?

何処にも行く予定はないけど」

「本当に? 皆は辞職して殆ど人がいなくなったのよ」

 すぐに理解できなかった。

 じしょくっ何だ。

「えっと、落ち着いて。

俺は大丈夫だから」

「なんで辞めたのか、理由も言わなくて。

お母さんは泣いていたわ」

 止めたって……?

 何を?

 まさか、仕事を辞めたのか?

「シーオさんは?」

「彼は残ってくれるみたい」

 従業員が居なくなると仕事が回らなくなる。

 存続すら危うい事だ。

 どうしてと思うとローヌの言っていて言葉を思い出した。

「もしかして強欲なあの男が……」

「仮にそうだとしても憶測で決めつけることはできない。

それで手を出せば思うツボなの」

 怒りに任せて行動しても良い結果にならないだろう。

 それは理解できるが、悪意には腹が立った。

「俺は君のように冷静にはなれない」

「私はお母さんの笑顔がみたいだけ。

だから協力して欲しいの」



 魔女は、流石に落ち込んでいた。

 数多くの仕事が山積みで、手についてない様子だった。

 顔色が青くどこか遠くを見ているように思えた。

「ユウ君も辞めたいのかしら?」

 諦めきった声で何処となく悲しく振るえているように聞こえた。

「全部、俺に任せて下さい」

 魔女はキョトンとして、理解できないようだった。

 俺は続けて言う。

「人が居なくても自動化すれば良いだけです。

単純な作業は全部、魔法で片付けてしまいましょう」

「出来るの?」

 信じられないと言う顔をしていたが、今まで実績が希望へと変わっていく。

 魔女の顔色が良くなり笑みを見せた。

 とても美しく惹かれるものがある。

「やりとげてみせます」

 魔法の書物を作成するのが、基本的な仕事だ。

 文字を記載する作業は手作業で行われており、数多くの審査を行い製本される。

 独自開発した魔法の品は、工場で作成しここでは作っては居ない。

 つまり製本出来れば、良いと言うことだ。

「一週間以内に、百冊仕上げる必要があるのよ。

30人でも、この数はキツイわ」

「もし出来たらご褒美を下さい」

「アンズは駄目よ。

本人の意志を尊重してあげたいの」

 全く違う物を欲しいと思っていたので正直びっくりした。

 冷静になって考えると、アンズが部屋にちょくちょく来ていることを知っているんだろうな。

「……別のものです」




 すぐにシーオの元へ向かった。

「ユウ君、丁度良いところに来てくれたね。

複製が出来ないか試していた」

 驚いたことに既に印刷ができないか試していたのだった。

 仕組みは簡単で版画のように文字の型にインクを付けて紙に押し付けるだけだ。

 魔法の型は、インクが付き難くく文字が途切れたり滲んだりして上手くいかないようだ。

「インクを吹き付けるようにして、実際に書くように動かしたほうが良いと思う」

「それでは時間が掛かるのでは?」

「人が書くよりも早く動けば良いだけです」

 直ぐに3Dプリンターを使い、必要な枠組みを構築した。

 ロールが回転すると紙が上下し、左右に動く吹き付け器からインクがでる。

 紙が出てくると印刷が終わった状態である。


 本一冊を丸々読み込み、印刷が終わるまでに数分掛かった。

 シーオの顔色は良くない。

「不良品がないか、チェックする時間を考慮すれば、

これでは間に合わにない」

「複数で作れば早く終ると思う。

まだ材料はあるから問題なければ増産する」

「そうだな……」

 印刷がうまく行っているかと確認をする。

 ふと内容に重複していたり、簡略できる箇所がいくつもあることに気づいた。

「あの、この魔法書の内容を変更してもいいですか?」

「構わないが何か問題点でも?」

「簡略出来る部分があって、一気に削ることができれば負担も減るし、

少ない量で同等の効果を出せると思うんです」

「今日中に出来るのならやってくれ」

 以前に行った計測器の統合を応用し、関数化しライブラリとして纏めた。

 データと実行部の分離を行い、処理の合理化を行った。

 文章量を半分に減らし、更に効果を向上させることに成功するのだった。

『出来ました」

 出来上がると同時に意識が飛び倒れた。

 ぐっすりと寝てしまっのだった。

 脳内パソコンをフル稼働させて、処理を行ったのだ。

 精神的な疲労は半端ではなかった為だ。

「君は困った事をするね。

こんなに性能を上げたら品質判定で不合格になるじゃないか」

 

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