第20話

 特に何かの成果を出すこともなく数日が過ぎていた。

「はぁ……、なんにも浮かばない。

今必要なのは閃きなんだけど」

 焦りに弱いのは前世からだ。

 落ち着けば対応できることでも焦ると失敗してしまう。

 時間が限られていると特にだ。


 色々とメモ帳にアイデアを書き出し考えを分類していく、優劣を付けてまとめれば企画となる。

 それすら上手く行っていない。

「俺は凡人だから天才的な物を生み出すことはできないんだ。

ああっ、才能がないのが悔しい」

 いつの間にかローヌが部屋に入ってきていた。

 彼と目が会い驚き椅子から転び落ちる。

 痛い。

「返事がなかったので……。

凄い集中力ですね」

 ローヌは手を差し伸べ、俺は立ち上がる。

「黙って入ってきたんじゃないのか?」

「いえ、ノックしました」

 まあ嘘をつくような奴ではない。

 暗殺しようとするなら、わざわざ前に回り込む必要はない。

 音楽を聞いているときでも集中していると、気づいたら数曲進んで居たということがある。

「それで何のよう」

「ギルドからお知らせがあります。

精錬器の許可が出ました」

「精錬した金属の販売も認めてもらえるのか?」

「勿論です。

とても高純度の金属が作れる事が解りました」

 一瞬喜んだが、直ぐに何か嫌な予感がした。

 金属は貴族が絡んでいる、そう簡単に許可が出る筈がない。

「何か条件とかあるのか?」

「書類を出して頂ければ金属ギルドに納品できます」

「個人で売りたい」

「ギルドの保証がない代物は、買い叩かれてしまいます。

なのでギルドに納品したほうが儲かります」

「本当に?

安値で買い叩かれるんじゃ無いのか?」

「いいえ、値段は公正に品質で決められています。

価格は今流通している金属の10倍の値がつくようです」

「信じられない。

ギルドがどうやって儲けるんだ」

「ギルドで商品を預かり、買い手が付けば収入になります」

 なんか高く売れるって良い気がするけど、実際に買うとなったら……。

「10倍って盛すぎだから、1.5倍ぐらいに下げてくれないかな?」

「いいえ、新技術が利用され、これまでにない純度での精錬です。

これは高く評価されている証ですので下がりません」

「えっ……、俺が安く売りたいと思ってもか?」

「はい、好き勝手に値をつければ市場が混乱してしまいます。

売れなければゆっくりと時間を掛けて値段が下がるので待つしか無いです」

「これじゃあ期待できないな」

 高すぎて買い手がつかず暫くは利益にはならないだろう。

 喜ばしておいて落とすと言うギルドのやり方には虫酸が走る。


 話が終わったと思いベットに寝転がる。

「まだ話は終わっていません」

「もういい、聞きたくない」

「あの浮遊魔法ですが、ゆっくりと落下するようにできませんか?」

「上昇してから落下するって事?」

「いいえ、上昇はしてはいけません。

ただゆっくりと落ちるのです」

 落下傘のように熱源がなければ落ちていくだけだ。

 それなら簡単に改造して作れるだろう。

「できたら何かあるのか?」

「ええ、飛竜の騎士になるために訓練が行われています。

毎年のように若い騎士が転落事故で命をたっています」

 成る程、人助けか。

「直ぐに試作を作ってみる」

「流石ですね。

頑張って成し遂げて下さい」

 魔法の知識のないローヌには難しい事のように思えたのだろう。

 既にほとんど完成しているものから不要な部分を取り除くだけで出来る。

 しかし、簡単に出来ると言ってしまうと軽く見られるかもしれない。

「時間が掛かるかもしれないけど良いのかい?」

「はい、それほど急ぎできないのでじっくり作って下さい」

「あのリングは返して欲しい」

「あっはい、すぐに手配します」


 試作のリングを返してもらうと直ぐに取り掛かった。

 刻まれた文字は繊細で細かく、とても真似できるものではない。

「流石、シーオさんだ。

こんな芸術的な事をあんなに簡単にやってのけるなんて……」

 指輪ではなく、腕輪ぐらいの大きさにして刻む文字を大きくすることにした。

 それでも大した時間は掛からずに出来上がる。

 あとは試すだけだ。

 屋根裏へと上がり、窓を開く。

 目がくらみそうな高さだ。

「ここは4階相当の高さだよな。

結構怖い」

 足を窓の縁に掛けると震えが置きた。

 本能から恐怖を感じているのだ。

「大丈夫、絶対に成功する、絶対だ」

 ここで止まれば二度と進めない。

 勢い良く飛び出すように力を込めた。

 空中に全身が浮かんだ。

 直ぐに落ちる。

「発動しろ!」

 魔法の衣が花開く。

 ブランコのように体が揺られた。

 そのたびに腕が引っ張られる。

 幅の広い腕輪だが、それでも体重が腕にかかってしまうのは負担に感じる。

 着地に成功するものの、かなり危なかった。

 ローヌが慌ててやってくる。

「何しているんですか、いきなり飛び出すからびっくりしました」

「君がゆっくり落下するものを作れって」

「テストなら、土袋でも落とせば良いじゃないですか。

それをいきなり自ら試すなんて止めて下さい」

 考えてみればそうだ。

 物で試してからでも良かった。

 

 この魔法の落下傘は改良され、ベルトを本体とすることで体への負担を軽減することになる。

 高価にも関わらず売れ筋となりリストラされずに済んだのだった。

 だが、この成功が不幸を呼び寄せることになる。

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