第19話

 部屋にこもっていた。

 気球を作るための試行錯誤をするためだ。

 監視のローヌに見られたくはない。

 なんか怪しいし、難癖を付けられたくないからだ。


 試作品が完成した。

 紙で作りロウソクの火だけで飛ぶような簡単なものだ。

 直ぐに箱に入れてシーオの元に持っていった。

 自慢気に中身を取り出す。

「空気を熱すると上昇気流ができる。

それを集めて浮かぶという仕組みで、これを大きくすれば人も空を飛べる」

 ロウソクに火を灯すとゆっくりと浮かび上がった。

 シーオは直ぐに何かを思いついたらしく笑みをこぼす。

「布状の魔法で膜を貼るようにすれば、実現できるかもしれない。

試してみよう」

「布状の魔法って……」

 魔法で作る予定はなかった。

 布を用意し、魔法は火の制御ぐらいと考えていたのだ。

 だが利用できる魔法があるなら試してみるのも面白い。

 

 シーオはリングに刻印を刻んだ。

「これで良い筈、試してみてくれないか?」

 自分で試さないのはどうしてだろうと、思いつつも指輪をはめた。

 魔気を込めると魔法によって袋状の膜が形成される。

 熱を作り出し、上昇気流が生まれる。

 手が引っ張られるように浮かび上がる。

 足が床から離れた。

「痛い、指が切れる!」

 痛みで集中が途切れて魔法が消える。

 床に落ちた。

 シーオは心配そうに手を差し伸べる。

「大丈夫かい?」

「指で全体重を支えるのは無理がある。

体全体を紐みたいなので吊るす感じにして欲しい」

「確かに、これは失敗作だ」

 

 ローヌが部屋に入ってくる。

「何事です。

先程の音は一体?」

「ちょっと魔法を試して……」

「では、この書物に手を置き嘘を言わないと誓いなさい」

 ローヌは懐から革表紙の本を取り出した。

「はい、誓います」

「では何をしていたのか詳しく教えてください」

 魔法に失敗したとか恥ずかしくて言えないよな。

 転んだ事にしよう。

「魔法で浮かんで落ちました」

 えっ……、なんで口から出る言葉が思っていることと違うんだ。

 驚いていると、シーオが耳打ちする。

「魔法の契約は絶対的な法則となる。

効果が続く限り嘘はつけない」

「なっ……、そんな」

 ローヌはにっこりして、色々と聞いてきた。

 リングの事を包み隠さずに口が勝手に話してしまう。

 うわっ止めてくれ。

 そう思っても遅い、全部答えてしまっのだった。


「飛竜に対しての脅威となる魔法が他国に知れ渡れば、

国が滅びてしまう」

「えっと……」

「まさか飛竜を知らない?」

「はい、……魔物ですよね」

 その答えを聞いた途端にローヌは大げさに芝居かがった感じで動く。

「ああ、なんということでしょうか。

飛竜に憧れて騎士になる者も多いというのに……」

 飛竜に乗るのだろうか。

 馬車ぐらいしか乗り物がないこの世界で空を飛べるのはかなり有利だ。

「そうなんだ。

という事は、もしかしてこれは駄目なの?」

「禁術に指定させていただきます」

 やっぱりだ。

 リングを取り上げられ、魔法の開発も禁じられてしまった。

 そんな予感はあったけど。

 こんな状況で何か出来るのだろうか。


「はぁ……」

 すっかり落ち込んで座っているとシーオが声をかけてきた。

「君のことだから新しい案を考えているのだろうか」

「流石に、こうも立て続けに駄目だと落ち込む。

それに何かしないと追い出されてしまう」

「そうならないように手回ししておくから、

そう悩むことはない」

「……はぁ」

「暫くゆっくりと休むと良い」

 ゆつくりしている暇はない。

 何かを考えないといけないが、そうそう簡単に何かを思いつくわけもなかった。

「はい、休みます」


 自室に戻りベットに倒れた。

「知識があっても無力だ……」

 ノックする音が聞こえたが動く気にもなれず無視した。

 暫くすると、扉が開き誰かが入ってくる。

「ユウ君、寝ているの?」

 アンズの声だ。

 慌てて起き上がる。

「疲れていたみたいで……」

「ふーん、窓の外を見て」

 なんだろうと外を見ると、老けた小太りの男が馬車に乗ろうとしていた。

「何?」

「魔術ギルドで最も権力を持つ男よ。

色々と圧力を掛けてきているから気をつけて」

「ふーん」

「獣は狩りをする直前までは牙を隠しているの。

普段から見せびらかすのは愚か」

 そんなつもりはなかった。

 ただ思いついたことを実行しているだけだ。

「えっ……」

「目を付けられたら命すら危ないわ。

愚者を演じなさい」

「このままだと追い出されてしまうんだ。

そうなれば君と会えなくなる」

「クスッ……、私に惚れたの?

同じぐらいの歳の子が周りに居ないから、遊んであげただけよ」

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