第18話
「えっええ……」
俺は何故か捕らえられ、牢の中にいる。
なにか悪いことをしたわけでもない。
「なんでこんな事になったんだ」
牢は薄暗く、高い位置に小さな窓から入る光が柱となっている。
外は雲ひとつない青空だが俺の心は雨だ。
横切る灰色の鳥達。
「俺も空を飛んで逃げたい……」
空を飛ぶにはどうしたら良いんだろうか。
飛行機なんて想像できないし……。
そうだ気球なら可能性はある。
布袋に熱を送り込むだけで飛ぶんだから。
そんな妄想で現実逃避を始めていた。
どれぐらいの時が過ぎたのか足音が近づいてくる。
このまま一生牢で暮らすなんてまっぴらだ。
「出してくれ、俺は何もしてない。
無実だ!」
中性的な顔立ちをした奴がやって来た。
服装はキッチリとした身なりで何処となく軍人のような雰囲気を出している。
偉い人なのだろうか。
「私はローヌです。
貴方を監視する事になります」
「何で、俺は悪人じゃない」
「あの魔法は禁術に認定されました。
なので不正に使用しないか監督する事になったのです」
「何だって……」
「では常に監視させていただきます」
こうなることはシーオは解っていたのだろう。
だから正直に誰が作ったのかを話したに違いない。
「もしかして四六時中付きまとって来るのか?」
意味不明に牢へ放り込まれるぐらいだ。
トイレや風呂まで監視なんてあるかもしれない。
「そう身構えないで下さい。
名目上は監視役ですが、護衛と思っていただいて結構です」
「えっ?」
「あの魔法を手に入れるために誘拐し拷問なんてことも有りえます。
そう言う悪人からの保護が私の役目でもあるのです」
とりあえず禁呪を作った事による刑罰はないようだ。
どちらかと言えば保護して貰えるようで、とりあえず安心した。
握手をしようと手を出す。
「よろしく……」
ローヌは握手を無視し微笑む。
「逃げたりとか、面倒事を起こさないでくださいね」
なんか怖い気配に思わずすくんだ。
館に戻ることはできたが、監視の目が常に付きまとうことになる。
ローヌが側に立ち、ずっと見ているのだ。
気になって仕方ない。
「あの、見られていると気になるから……」
「ああ、すまない。
私も魔法には興味があって一体、どの様な事をしているのか気になっていたんだ」
「文字を刻むことで魔法を発揮するんです」
いや、アンズには否定されていたんだっけ。
でも今わかるのは文字が関係することだけだ。
「では、私は外で見張りをすることにする。
何かあれば気軽に呼んでくれ」
ふぅ……。
一人だとなんか落ち着くな。
じっと監視されながら作業するのは緊張して疲れる。
精錬器の改良はすぐに終わり、蒼銀の加工をしてみることにした。
魔法の箱が崩壊するということはなく、自在に形を形成することができた。
「薄っぺらくしてみたけど、これは流石に簡単に穴が空くよな」
紙よりも薄い蒼銀の板だ。
金槌で叩いてみたがびくともせず、形が変わることがなかった。
「やばい、これってすごく丈夫なんじゃないのか」
これで防具を作れば、鉄壁だろうな。
「試しに作るとしたら腕輪か。
色合いも綺麗だし装飾としても良いかもしれない」
思いついたらすぐに試したくなるもので、直ぐに制作を始めた。
気がつけば日が暮れ夜になっていた。
ノックする音が聞こえ、アンズが入ってくる。
「牢に入れられって聞いたから心配していたのよ」
「なんであんな事になったのか解らない」
アンズはムッとして顔を膨らせた。
「何で分からないの。
余計な事を下からよ」
「えっ……」
「既得権益を守ろうと、色んな人達が決まり事を作っているの。
それを崩壊させかねないことをしたから見せしめに行ったことよ」
「それで諦めたりはしたくない」
「気をつけなさい。
発見しても秘匿することも身を守るためには必要なことだから」
出来上がった蒼銀の腕輪をアンズに渡した。
植物を模したデザインで、木々が絡み合うように輪を形成している。
葉がアクセントにちらほら。
花を付けたかったが形が難しく、断念し実を付ける形となった。
「プレゼント。
心配しなくても大丈夫だから」
ノックする音が聞こえアンズは部屋を出ていく。
「大切にするわ」
「保管されるより。
身につけて居てほしいな」
ノックしたのはローヌらしい、声が聞こえアンズが離れていく。
監視がなければもっと長く話ができたのだろう。
くっ……。
数日が過ぎ、状況が改善されていないことに焦りを感じていた。
「ああ、精錬器は改良したから、審査のやり直しになったし……。
嫌がらせなのか」
何かしらの利益を出さないと追い出されてしまう。
焦っていると何も思いつかない。
余裕が必要なのかもしれない。
気分転換しようと、窓を開き外を眺めた。
空は青く、鳥が羽ばたく……。
「あっ、そうだ。
空の旅は面白そう」
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