第17話

「ううぅっ、解らない」

 アンズの行動は好意的なのか、ただの悪戯で遊んでいるだけなのか。

 好きであって欲しいと言う気持ちはある。

 

 魔法にも欠点がある事を知れたのは大きい。

 金属を溶かした時に銀が混じっていたら大惨事になっていただろう。

 それを教えてくれる為にと思うことにした。

「ああ、欠陥があることが解ったら貸出なんか出来ない」

 別の儲ける方法を考えるしか無い。

 ふと蒼く固まった金属に目が行く。

 少し光を放っているようで、綺麗な光沢がある。

 これで何かを作れば綺麗なものが出来るかもしれない。

「でも魔法の鋳型が壊されるから、簡単にできないよな」

 手にとって見ると、均一に光沢を放っている。

 それは何か違和感があった。

 よく溶けるように魔法によってかき混ぜているのだが、銀は魔法を打ち消す。

 均一に混ざることはない筈だ。

 熱で一瞬の内に混ざり合ったのだろうか。

「うーん、銀の性質は魔法を消すん筈なんだけど」

 銀が内部にあるから変化せずに光沢を放っている可能性がある。

 それなら表面には銀が存在していない。

「どうなっているのか知る方法は……」

 鑑定装置を使えば材質も調べられる。

 すぐに調べると、異常な反応を示した。

「不明な物質……。

蒼い金属には名前すら無いのか?」

 銀の反応はない。

 そもそも魔法を打ち消す効果で内部が判定できないのかもしれない。

 狂った情報が示されているのだとしたら意味はない。

「銀のみで鑑定したら……。

いや、そもそも銀がない」

 ふと魔石を保管する箱に銀が使われていたことを思い出す。

 すぐに箱を鑑定すると銀と表示された。

「銀しか表示されない。

これって……」

 蓋を開ければ魔石の情報もでる。

 魔法を打ち消す効果ではなく、魔法を遮断するようだ。

 だから箱の中にある魔石の反応がなかった。

 すべての謎が溶けた気分だった。

 あの精錬器は全体ではなく一方から魔法を発動して形成している。

 銀によって魔法が遮断されてしまい、穴が空いたというわけだ。

 魔法の発動を複数方向から行えば、遮断される事なくなる。

「よし、直ぐに改造しよう!」

 魔法の形成を行う場所は文字が刻まれた円盤だ。

 これを3つに分割して同時に発動なんてことは可能なのだろうか。


 アンズの笑い声が聞こえる。

「ずっと独り言?」

 喋っているつもりはなかったが、想像に熱が入ると口に出しているようだ。

 それは恥ずかしい。

「悪いかい」

「別に、何をしようとしているのか教えてくれる?」

 俺は考えをアンズに話した。

 アンズは特に考えることもなく微笑む。

 彼女には簡単なことだったらしく、その方法を教えてくれた。

 なんとも単純なことで起点の刻印を刻むだけで良かったのだ。

「簡単だ」

「そう、何で悩むのか解らないわ」

 知識の差は大きく、基本を知らずに行き当たりばったりで行っていたからつまずいのだ。

「基本から学ばないといけないな」

「それはいい心がけね。

私が少し教えてあげる」

 アンズは俺の手を握って何か言葉を発した。

 暖かくて柔らかな手だ。

 言葉を聞いていられず、動揺で視線が迷う。

 なんでこんな事になっているんだ。

 これって……。

「ふふふっ……、ちゃんと聞いている?」

「えっと、えっ……」

 どうやら転生すると前世の記憶より、肉体の影響を受けてしまうようだ。

 いつの間にかアンズの事が好きになっていた。

「天性の才能は知識では得られない。

妖精が見えたんでしょう?」

 妖精?

 炭鉱で働いていた時に見たが、存在を忘れるぐらい見ていない。

「蝶みたいな綺麗な羽根だった」

「魔法に触れれば感じるはず」

 アンズの手が光り輝く。

 何か周囲に冷たい風が流れるような感触が走る。

「……冷たい」

「もし……」

 廊下が軋む音が聞こえ、誰かが近づいている。

 普段はそんな音は聞こえない。

 もしかするとアンズが魔法が仕掛けたのだろう。

 アンズは、手を離し直ぐに隠れた。


 シーオが扉を開き入ってくる。

「ユウ君、冷蔵庫をギルドに運ぶことにした。

手伝ってくれないか?」

「あっ、はい」


 冷蔵庫の外装に字が刻まれていた。

 初めて見るような文字や絵のような記号が複雑に並んでいる。

「仕組みついて聞かれても、この術式を見れば解ると答えるんだ」

「どうして?」

「簡単に複製出来たら盗まれるだろう。

だからこうやって偽装している」

 難読化と言う奴か、仕組みを知っていれば偽装だと簡単にわかるだろう。

 だが何の情報もなければ、意味のある事だと錯覚し混乱する。

 氷の魔法は存在しないらしいから、驚くのは間違いないだろう。

「解りました」

 ギルドに運ぶと、すぐに審査が始まった。

 それは驚きの声が聞こえてくる。

 待っているとギルドの職員がやってきた。

「これを発明したのはシーオ殿ですか?」

「いや、私は補助をしただけで、基本的な構築はユウ君が行いました」

 職員は俺の顔を見るなり、驚いていた。

「なっ……、きっ、君があの術式を……、

これは、た、た、大変なことになる」

 慌てようは面白く思え、笑いそうになった。

 大の大人が、この程度で何を慌てる必要があるのだろうか。

 そう思っていたが、とんでもないことになった。

 


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