4章

第16話

 魔女は不機嫌そうに机の上に座って足をクロスさせている。

「この所、費用が高騰していて特に魔石の価格が跳ね上がっているわ。

このままだとこの商売は出来なくなる」

「はい……」

「貴方に研究を任せたのは、何か新しい物を生み出して、

利益を出せると思ったからなの」

「頑張ります」

「今週中に売れるものを作りなさい。

出来なければ出て行って貰います」

 

 全く新しいものを作り出すのは奇跡でもない限り至難だ。

 このままだと追い出されてしまうのは間違いない。

 俺は直ぐに鉱山へと向かった。

 物を作り出すのが駄目なら営業をすれば良いことだ。

「どうも」

 親方は機嫌が良さそうに笑っている。

 何か良いことがあったのだろうか。

「久しぶりだな。

またクズ石を買いに来たのか?」

「俺が開発した精錬器を見て貰いたくてやって来ました」

「それで、それは何処にある」

 俺の手に持っているのだが気づいもらえない。

 精錬器は輪っかに4本の足がついた代物で、座る所に大きな穴の空いた椅子に見える。

「これです。

鉱石を貸してください」

 親方は笑い、鉱石を一つ持ってきてくれた。

「はっはは……冗談だろうと思うが、まあ見せてもらおうか」

「精錬しろ!」

 輪の中へ鉱石を放り込むと、その輪の中心で赤くなり球体状に変化した。

 下部から金属の液がこぼれ落ち延べ棒となり地面に落ちた。

 親方は驚き目を大きく見開き顔が引きつっていた。

 それが間抜けで笑いそうになり口を抑えた。

 笑ったら間違いなく怒るだろう。

「どうなってやがる」

「魔法で鑑定し鉄だけを抽出して延べ棒の形にしています」

「魔法ってやつは驚かされる。

それでただ見せびらかしに来たんじゃないんだろう?」

「ええ、これを貸し出そうと思いまして。

これで精錬して売れた0.5%を代金と考えています」

 親方は困ったような顔をする。

「知らないかも知れないがギルドに話を通さないことにはな。

もしかすると許可が降りないかもしれない」

 やはりギルドが邪魔してくるのか。

 ギルドの管轄から外れるような奇抜な挑戦しなければならないのだろう。

「もし許可が出ればお願いします」

「勿論だ」

 

 

 館に戻り一休みしているとアンズがやって来た。

 手には赤く染まったケーキを持っている。

「苦労しているみたいね」

「そうなんだ。

何をやってもギルドや貴族の利権とかややこしい話が出てくる」

「優れた能力を持っていても、その機会を与えられなければ凡人となる。

ユウ君は運がいい方なの?」

 運がいいのかと言われてもよく解らない。

 能力を発揮できる環境にいるし、機会も与えられている。

 それってアンズの言う運の良い人なのかもしれない。

「勿論、俺は最高に運がいい。

だって君に逢えたんだから」

「……甘い物は考えるのに良いそうよ」

 甘酸っぱいケーキだ。

「最高に美味しい」

 アンズは精錬器に興味があるらしく触り始めた。

「これでどんな形でも作れるって聞いたけど。

本当に不思議な魔法器具ね」

「それは試作品、それに思っていた元は違うし……。

その高さより低いものしか作れない」

「フォークやスプーンは作れるの?」

「データを入れれば作れる。

今は延べ棒しか作れない」

 俺は直ぐに入力装置を使い、フォークやスプーンのデータを作り出した。

 それを精錬器に登録したのだった。

 延べ棒を入れると、ジャラジャラと溢れるようにフォークとスプーンが落ちた。

「こんなに簡単に作れるのね。

職人は必要なくなるかもしれないわ」

「金属が買えれば、大量生産も出来るけど、

ギルドが売ってくれないんだ」

「あら……、その黒いのは?」

 アンズが指さしたのは、クズ鉱石から精錬した残りだ。

 不純物の塊で何も使えない。

「アレは要らないもの。

精錬した時は蒼色だったけど、直ぐに黒く変色してしまったんだ」

「どうしてすぐに捨てないの?」

「なんとなく……」

 苦労した思い出、痕跡を残したいと思った。

 だから捨てずに置いておいたのだ。

 他人から見ればゴミでしか無いのは、その思い出がないからだ。

「これは不思議ね。

魔気が集まっているようにみえるわ」

「そうなんだ。

魔法の根源だよね」

「魔気は物を劣化させる性質もあるから、

放置していると砕け散ってしまうわ」

「でも魔石は……」

「魔石も魔気を多く込め過ぎれば砕け散るわ。

だから壊れない丁度良い状態に保っているのよ」

 単純に検査をしていただけで、そんな事は教えられていない。

「壊れるのはなんか嫌だな。

止める方法は無いのか?」

 俺がケーキを食べる時に使ったフォークをアンズが舐めた。

 なんで舐めたんだ。

 その為にケーキを持ってきてくれたのか?

 えっ……?

 驚いているとアンズは微笑みフォークを差し出す。

「これは銀で出来ているわ。

混ぜてみたら?」

「あっ……、えっと、良いのかな?」

「古いから捨てる予定だったの。

だから無くなっても大丈夫よ」

 精錬器に不純物の塊を入れ銀のフォークを入れ用とするとアンズが手首を掴んで止めた。

「なんだよ」

「この器の型で作ってみて」

 ケーキを入れていた深めの耐熱皿だ。

 スポンジを焼くのに使い、そのまま作ったのだろう。

 多少汚れているが熱で燃えるから問題ない筈だ。

「解った」

 皿を置きフォークを入れる。

 直ぐに異常が発生した。

 溶けた金属が魔法の箱を突き破り下に垂れる。

「うわっ……」

「銀は魔法を打ち消す力があるのよ」

「……まさか悪戯?」

「ふふっ……、そうそう。

驚く顔が見れて楽しい」

 

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