第15話

 俺は商人ギルド支部に来ていた。

 受付に怖い顔をした髭のおっさんが暇そうに座っている。

「あの金属を買いたいんですが……」

「何に使うんだい?」

「それは実験で、何度で溶けるか調べたいと思って」

 癇に障ったのか、おっさんの額にシワが。

 正直に言ったのに何だろう。

 冷やかしとか思われのだろうか。

「帰れ、どうしても欲しければ、紹介状でも持ってくるんだな」

「誰の紹介状を持ってくれば良いんだ」

「貴族様に決まっているだろう」

 無理ゲーだ。

 なんで金属を買うのに紹介状がいるのか。

 意味不明過ぎる。

 ……おっさんと問答をしてもしんどいだけだ。

 ここは諦めるしか無い。


 とは言え加工品は異様に高く実験で溶かすには勿体ない。

「ああっ、どうしたら良いんだ。

こんな所でつまずくなんて……。別の方法ほ考えるか。いや……」

 他に金属を手に入れる方法なんて……。

 道を歩きながら考えていると足に激痛が走る。

「痛っ!」

 皮靴の裏を見ると小石が刺さっていた。

 道は石を敷き詰め馬車が走りやすいように舗装されている。

 その一部が破損したようだ。

「……こんな小石に負けるなんて。

そっか、石か……」

 鉱山で掘っていた頃を思い出す。

 頑張ったのに不純物だらけのハズレ鉱石だったよな。

 アレって結構安く買い叩かれて散々だった。

「そっか俺が精錬すれば安く手に入る」

 直ぐにあの鉱石を手配してもらうことにした。

 届くまでに精錬するための炉を作ろう。

 一つのことを成し遂げようとすると次から次へと問題が発生して解決するために脇道にそれていく。

「まあ遠回りしても着実に進んでいるはずだ」

 

 館に戻ると直ぐに炉の作成に取り掛かろうとした。

 そこに上司のシーオがやって来くる。

「調子はどうだい?

私の方は調整に手間取っているところだ」

「今、炉を作ろうとしている所です」

「それはまたどうして?」

 俺はこれまでの経緯を話した。

 するとシーオは楽しそうに笑い言う。

「実に良いね。

それなら協力出来るかもしれない」

「どういう事?」

「魔法の箱を作ることが出来る。

その中に熱を加えれば溶かせるだろう?」

「でも不純物をどうやって取り除けるんだ?」

「鑑定魔法を組み合わせれば通過出来るものを選ぶ事ができる。

必要なものだけを取り出せば良い」

「すごい、今すぐそれを作りたいです」

 炉が不要となれば直接3Dプリンターに組み込む事も可能だろう。

 そうなれば手軽に色んな加工が直ぐにできる。

 鋳型を使ったものでは構造上不可能なものですら可能になる。

 問題となることが一度になくなった事で夢が膨らみワクワクが止まらない。

「その前に熱の遮断をするための調整を手伝って欲しい」

「魔法の箱は熱を通すんですか?」

「まあそういう事だ」

 シーオは色々と説明してくれた。

 魔法の箱は簡単に動かせない。

 何故なら、空間の位置を決めて作り出すためだ。

 それは固定された形を取るために、変動させることが出来ない。

 動かしたり形を変化させようとすると、急に脆くなり崩れてしまう。

 ただ縮小させ圧縮させることは得意らしく、苦なく行えた。



「それで意見が欲しい」

 シーオは数式を設計図に書いてた。

 それを見せてくれたのだが数式は複雑で意味不明だった。

「こんな複雑な計算が必要なのか……。

魔法の習得は無理かもしれない」

「実際に刻むのは必要な数値だけだ」

「計算は苦手です。

変数に適当に数値を入れて調整なら出来そうだけど」

「変数?」

 プログラム用語で、変化する数のことだ。

 それをどうすれば説明できるのだろうか悩む。

「数値を後から変更出来たら良いなっと思って」

「後から変更は面白い発想だが、刻んだ文字を変化させる方法は知らない」

 円盤に文字を刻むことで魔法は力を持つ。

 それがこの世界の法則だ。

 ふと3Dプリンター用の入力装置のことを思い出す。

 あれは鑑定装置の統合をする際に数値関係を一まとめにした応用で出来たものだ。

「ある、その方法は知っている」

 俺は入力装置を見せて説明した。

 シーオは驚き関心しているようで、しつこく色々な事を聞いてきた。

 プログラミングなんてものはこの世界にはない。

 その知識や考え方は新しいことのように思えたようだ。

「あまりにも画期的で合理的だね。

それでこれを何ていうんだ」

「オブジェクト指向かな……」

 機能を物に置き換えて分類する考え方だ。

 管理がしやすい利点がある。

「色々とアイデアが浮かんできた。

忙しくなるぞ」


 シーオの協力により3Dプリンターが完成した。

 ただ、思っていたものとは違い、鋳型に流し込むようにして作る形となった。

 魔法の箱を利用し型が作れるほどに性格に制御が出来る様になったためだ。


 そして、冷蔵庫が完成した。

 保温するために厚みを増し、巨大な金庫かと思うような形状となった。

 扉を開き、バケツに入れた水を確かめた。

「やった! 氷が出来ている」

 喜んでいるとシーオが暗い顔をして言う。

「済まないが、この完成はまだ秘匿してくれないか?」

「理由を教えてください」

「氷は貴族が管理している。

もしこれを公開すれば盗んだと疑われるかも知れない」

「じゃあ3Dプリンターを……」

「それも秘匿した方がいい。

ギルドの利権を脅かすと命を狙われる危険性がある」

 金属を管理しているのはギルドだった。

 しかも貴族と繋がりがあるのだろう。

「じゃあ俺の成果って何にもないのか?

そんなぁ……」

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