第14話

 保温対策は上司に任せることになった。

 魔法の開発は術式の組み合わせと構成が肝らしい。

 既存のモノを複製するか、応用することしか出来ない俺とは違い未知の魔法を生み出すというのは神秘的であり格好いいとすら思えた。

「俺に出来ることは無いのだろうか……」

 金属加工は職人が行う、機械はなく手作業ですべて行うのだ。

 形状によっては制作が不可能だったりする。

 どんな形状でも作れる3Dプリンターみたいなものがあったらな……。

「あれは糸状のプラッチックを熱で溶かして少しずつ繋いでいくんだような」

 魔法は熱を扱うのは得意らしいし、金属版の3Dプリンターとか出来るんじゃないのか?

 教えてもらった魔具を使えば上下左右に動かせる器具は出来るだろう。

 後は3Dのデータを作るための入力装置と、表示するための端末だな。

「3Dは点や線、面で表示できれば良いし、簡単そうだ」

 魔法と科学の融合だ。


 水晶球に銀の配線を取り付けている。

 仮なので内部の魔法板がむき出しでいかにも作りかけだ。

 それでも念じるだけで、立体的な映像が作れる。

 前世だったらマウスやキー入力をしていた。

 そんな手間すらない、なんて手軽なんだ。

「魔法は良い、思いのままに作れる」

 ただ時折ノイズが走り映像が乱れる。

 気にしなければ問題はないが、こういう欠陥はどうも気になる。

 調整してみるがどうしても発生してしまう。


 試行錯誤しているとアンズがやって来た。

 彼女は黙って机の上にケーキを置く。

「こほん。

大出世、おめでとう」

「ありがとう。

プレゼントをくれるなんて嬉しくて好きになりそう」

「それは嬉しいわ。

さあ食べて感想を聞かせて欲しい」

 アンズは装置に興味があるらしく、熱心に見ている。

「それは擬似的な立体を作り出す装置です」

「ふーん、それって何に使うの?」

「設計したり、完成予想が出来る。

だから模型とか作らなくて良いから材料費も浮く」

「また懲りずに……。

既得権益を脅かすものを作ればどうなるのか、もう少し考えなさい」

 ケーキを一口食べると、ほんのと甘みが口に広がった。

 柔らかいスポンジに生クリームが優しく包み込む。

「このケーキは甘くて蕩けそうだ。

果実が入っていればもっと美味しくなるのに惜しい」

「果実って?」

「それは……」

 赤くて甘酸っぱいアレだ。

 だが言葉が出こず口にすることが出来ない。

「どうしたの?」

「甘酸っぱい感じなら変化があって旨さが引き立つと思うんだ」

「じゃあイチジクのジャムでも塗ってあげる」

 イチジクじゃない。

 なんか別のもの何だが、思い出そうとすればするほど、頭が締め付けられるような痛みが襲った。

「いいね……」

「どうしたの、すこし顔色が悪いわ」

「多分疲れたから」

 違う……なんだこの感じは、違和感なのか。

 もしかすると前世にはあって、この世界に無いから拒絶反応が出たのか?

 もう考えるのはやめよう。


 折角、可愛いアンズが来てくれたんだ。

 楽しい思いをしたい。

 ぼーと考えていると、アンズは不安そうに俺の額に手を当てる。

「熱はないようね。

もしかしてケーキが苦手だった?」

「そんな事はない。

大好きだ」

「次はもっと美味しいのを作ってあげる。

期待していてね」

 そう言うとアンズは去っていった。


 装置を見ると術板の配置が変わっている。

 アンズが触ったのだろう。

「これって……」

 ノイズが発生しなくなっていた。

 ただ配置を変えただけでどうしてだ?

 少し動かしてみてノイズを確認する。

「そうか魔法は干渉して影響を与えるのか」

 今まで成功していたのはアンズが上手くいくように触ってくれたからだろう。

「もしかして俺に惚れているのか。

だから色々と助けてくれてる」

 職場で惚れて結婚と言う流れか。

 それも有りだな。

「よっし頑張ろう」

 

 そうして入力端末が完成した。

 この入力を受け取って製造するための装置を作れば、3Dプリンターが出来あるがる筈だ。

「そうなると枠組みが必要だな。

熱に強くないと溶けるから……何を素材にすれば良いんだろうか」

 思いつきで始めたものの、実際に作ろうとしてみると壁にぶち当たることはよくある。

 枠組みさえできれば、魔法で制御して動かす事は容易い。

 試作は出来るだろう。

「ああっ、無理だ。

絶対溶けたり膨張したりして問題が起きる」

 いや金属は鉄だけではない。

 もっと低温で溶ける物を利用すれば、鉄で枠組みを作っても良い筈。

「ならまずは溶かす仕組みから作ろう」

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